老健の認知症行動・心理症状緊急対応加算とは?

老健の認知症行動・心理症状緊急対応加算は、入所した日から起算して7日を限度に、1日につき200単位です。最大1,400単位。届出が不要で、体制要件もない珍しい加算ですが、算定できるのは「在宅から直接」入所した場合だけです。病院や他施設からの入所では算定できません。
この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)と老企第40号の原文を確認して、単位数・算定要件・算定できない5つのケース・記録の残し方を整理しました。
この記事でわかること
- 老健の認知症行動・心理症状緊急対応加算は1日200単位・7日限度という単位数
- 「認知症の行動・心理症状」の定義
- 医師が判断した当日か翌日に入所しなければならないこと
- 病院・他施設・ショートステイ等からの入所では算定できないこと
- 入所後すぐに退所に向けた施設サービス計画を作る必要があること
- 医師と施設それぞれに求められる記録
- 個室等の設備を整えることが求められること
- 過去1か月以内に同じ加算を算定していると算定できないこと
老健の認知症行動・心理症状緊急対応加算とは?
認知症行動・心理症状緊急対応加算は、在宅で暮らしている人に認知症の行動・心理症状が出て、そのままでは在宅生活が続けられないというときに、緊急で老健が受け入れることを評価する加算です。
この加算の趣旨は、老企第40号 5の(40)②がはっきり書いています。「在宅で療養を行っている利用者に『認知症の行動・心理症状』が認められた際に、一時的に入所することにより、当該利用者の在宅での療養が継続されることを評価するもの」。つまり評価しているのは入所そのものではなく、在宅生活を守るための一時避難です。だから7日限度なのであり、だから入所後すぐに帰る計画を立てることが求められます。
なお「認知症の行動・心理症状」とは、老企第40号 5の(40)①によれば「認知症による認知機能の障害に伴う、妄想・幻覚・興奮・暴言等の症状」を指します。いわゆるBPSDです。
ちびウルフ入院先で落ち着かなくて、そのまま老健に移ってきた人にも付けられますか。
リハウルフ付けられません。通知が病院・診療所に入院中の者を名指しで除外しています。在宅で暮らしている人を守るための加算なので、そこは厳格です。
認知症行動・心理症状緊急対応加算の単位数
告示第21号の介護保健施設サービスのネに定められています。
ネ 認知症行動・心理症状緊急対応加算 200単位
注 医師が、認知症の行動・心理症状が認められるため、在宅での生活が困難であり、緊急に入所することが適当であると判断した者に対し、介護保健施設サービスを行った場合は、入所した日から起算して7日を限度として、1日につき所定単位数を加算する。
| 区分 | 単位数 | 算定頻度 |
|---|---|---|
| 認知症行動・心理症状緊急対応加算 | 200単位 | 1日(入所日から7日限度) |
| 最大額 | 1,400単位 | — |
届出が不要な数少ない加算
告示の注に「電子情報処理組織を使用する方法により、都道府県知事に対し、老健局長が定める様式による届出を行った介護老人保健施設」という文言がありません。体制要件も研修要件もなく、届出も不要です。ただし後述する記録と設備の要件は満たす必要があります。
認知症行動・心理症状緊急対応加算の算定要件
基本の流れ
老企第40号 5の(40)③は、算定できる場面を次のように定めています。
- 在宅で療養を行っている要介護被保険者に「認知症の行動・心理症状」が認められる
- 緊急に入所が必要であると医師が判断する
- 介護支援専門員、受け入れ施設の職員と連携する
- 利用者または家族の同意を得る
- 医師が判断した当日またはその次の日に入所する
「当日または翌日」を過ぎると算定できない
老企第40号 5の(40)③は「本加算は医師が判断した当該日又はその次の日に利用を開始した場合に限り算定できるものとする」としています。2日後では算定できません。ベッドの空きを探しているうちに日が過ぎる、というのは現実によくある話ですが、加算としては認められません。判断日と入所日の記録は必ず残してください。
なお同じ③には、施設への入所ではなく医療機関での対応が必要と判断される場合について、「速やかに適当な医療機関の紹介、情報提供を行うことにより、適切な医療が受けられるように取り計らう必要がある」との記載があります。何でも受け入れればよいという加算ではありません。
入所後すぐに退所に向けた計画を作る
老企第40号 5の(40)④は、こう定めています。
本加算は、当該利用者の在宅での療養が継続されることを評価するものであるため、入所後速やかに退所に向けた施設サービス計画を策定し、当該入所者の「認知症の行動・心理症状」が安定した際には速やかに在宅復帰が可能となるようにすること。
入所と同時に、帰る計画を立てる。この加算はそれを前提に組まれています。7日という限度も、在宅復帰までの一時的な期間という位置づけから来ています。
個室等の設備を整える
老企第40号 5の(40)⑦は「当該加算の算定にあたっては、個室等、認知症の行動・心理症状の増悪した者の療養に相応しい設備を整備すること」としています。多床室しかない状況で受け入れた場合、この要件を満たしているかが問われます。
認知症行動・心理症状緊急対応加算を算定できないケース
直接入所した場合に算定できない5つの状態
老企第40号 5の(40)⑤は、次に掲げる者が直接施設へ入所した場合には算定できないとしています。
- 病院または診療所に入院中の者
- 介護保険施設または地域密着型介護老人福祉施設に入院中または入所中の者
- 短期入所生活介護・短期入所療養介護を利用中の者
- 特定施設入居者生活介護・短期利用特定施設入居者生活介護を利用中の者
- 認知症対応型共同生活介護・短期利用認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護・短期利用地域密着型特定施設入居者生活介護を利用中の者
整理すると、在宅で暮らしていた人以外は対象になりません。グループホームで症状が悪化して老健に移る、ショートステイ先で対応困難になって入所する。いずれも算定できない形です。
過去1か月のしばり
老企第40号 5の(40)⑧は、次の2つの条件を課しています。
| 条件 | 内容 |
|---|---|
| 入所前1か月 | その老健に入所したことがないこと |
| 過去1か月 | この加算(他サービスを含む)を算定したことがないこと |
「他サービスを含む」がポイントです。ショートステイでこの加算を算定してから1か月以内に老健へ緊急入所した場合、老健では算定できません。自施設の記録だけでは判断できないため、ケアマネジャーへの確認が必要になります。
認知症行動・心理症状緊急対応加算の注意点
記録は医師と施設の両方が残す
老企第40号 5の(40)⑥は、記録の分担を次のように定めています。
| 誰が | どこに | 何を |
|---|---|---|
| 判断を行った医師 | 診療録等 | 症状、判断の内容等 |
| 施設 | 介護サービス計画書 | 判断を行った医師名、日付、利用開始にあたっての留意事項等 |
施設側が残すのは介護サービス計画書だと明示されています。相談記録や入所時アセスメントに書いておしまい、という運用では要件を満たしません。医師名と日付は、後から「当日または翌日の入所だったか」を検証する材料そのものです。
ちびウルフ医師の判断は、施設の医師でもいいんですか。
リハウルフ通知は医師を限定していません。ただ「在宅での生活が困難であり、緊急に入所することが適当」という判断ですから、在宅での様子を把握している主治医のほうが自然です。診療録に記録が残せる医師であることも実務上の条件になります。
7日を超えた分は算定できない
「入所した日から起算して7日を限度として」です。症状が落ち着かず入所が続いても、8日目以降は算定できません。入所そのものを続けることは可能ですが、加算としては7日で終わります。
他の加算との関係
告示のネの注には、併算定を排除する但し書きがありません。認知症専門ケア加算や認知症チームケア推進加算のように相互排除の規定が置かれている加算とは、構造が違います。ただし個々の組み合わせについては、それぞれの加算の注を確認してください。
老健で使う場面は限られる
正直に書くと、この加算は特養やショートステイに比べて老健で使う場面は多くありません。老健はもともと在宅復帰を目的とする施設で、入所は計画的に行われるのが通常だからです。それでも、在宅の限界が突然来る家族にとって、受け入れ先が1つ増える意味は大きいと考えています。要件を知っておけば、ケアマネジャーからの緊急の相談に応えられる幅が広がります。
認知症行動・心理症状緊急対応加算のQ&A
届出は必要ですか?
不要です。告示の注に届出に関する文言がありません。ただし記録と設備の要件は満たす必要があります。
7日を超えて症状が続く場合はどうなりますか?
加算は7日で終わります。入所を続けること自体は可能ですが、8日目以降にこの加算は算定できません。
グループホームから移ってきた人には算定できますか?
できません。認知症対応型共同生活介護を利用中の者が直接入所した場合は、通知が明示的に除外しています。
ショートステイで同じ加算を算定した人が、その後老健に入所した場合は?
過去1か月以内にこの加算(他サービスを含む)を算定していると算定できません。ケアマネジャーに確認が必要です。
医師の判断から2日後に入所した場合は算定できますか?
できません。医師が判断した当日またはその次の日に利用を開始した場合に限られます。
多床室しか空いていない場合はどうすればよいですか?
通知は「個室等、認知症の行動・心理症状の増悪した者の療養に相応しい設備を整備すること」を求めています。判断に迷う場合は指定権者に確認してください。
初期加算と一緒に算定できますか?
この加算の注に初期加算を排除する規定はありません。個別の組み合わせは初期加算の注も併せて確認してください。
本人の同意が取れない場合はどうしますか?
通知は「利用者又は家族の同意の上」としています。本人から取れない場合は家族の同意で足ります。
転換老健でも算定できますか?
算定できます。基本型・在宅強化型に限る規定は付いていません。
まとめ
- 老健の認知症行動・心理症状緊急対応加算は1日200単位、入所日から7日が限度(最大1,400単位)
- 届出は不要で、体制要件も研修要件もない
- 「認知症の行動・心理症状」とは妄想・幻覚・興奮・暴言等の症状
- 評価しているのは入所ではなく、在宅での療養が継続されること
- 医師が緊急入所を適当と判断し、ケアマネジャー・施設職員と連携し、本人または家族の同意を得ることが要件
- 医師が判断した当日またはその次の日に入所しなければ算定できない
- 病院・診療所に入院中の者からの直接入所は算定できない
- 介護保険施設・地域密着型特養に入院/入所中の者も算定できない
- ショートステイ・特定施設・グループホームを利用中の者も算定できない
- 入所前1か月にその老健に入所していないことが必要
- 過去1か月にこの加算(他サービスを含む)を算定していないことが必要
- 入所後速やかに退所に向けた施設サービス計画を策定する
- 個室等、症状が増悪した者の療養に相応しい設備を整備する
- 医師は診療録等に症状と判断の内容を、施設は介護サービス計画書に医師名・日付・留意事項を記録する
参考にした情報
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準等に関する留意事項について(老企第40号)5の(40)、8の(42)
※本記事の単位数・算定要件は、厚生労働省の告示および通知にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および指定権者の解釈をご確認ください。取扱いは都道府県・市町村(指定権者)によって異なる場合があります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運用に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





