看多機の主治医の指示による減算とは?

看護小規模多機能型居宅介護(看多機)には、医療保険の訪問看護が入る場面に対応した減算が2つあります。注15の減算(925/1,850/2,914単位・1月)と、注16の減算(30/60/95単位・指示日数分)です。
この2つは、事業所の努力不足を咎める減算ではありません。訪問看護が医療保険から給付されるぶんを介護報酬から差し引く、という給付調整です。金額が訪問看護体制減算とまったく同じであるため混同されがちですが、性質はまるで違います。末期がんの方を受け入れた月に報酬が下がる理由を説明できないと、現場は納得できません。
この記事では、指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第126号)複合型サービス費の注15・注16と、厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等(平成27年厚生労働省告示第94号)第4号の原文を確認して整理しました。
- 注15・注16の減算額と算定の単位
- 2つの減算が給付調整であること
- 注15の対象となる「厚生労働大臣が定める疾病等」の中身
- 注16の特別指示が老健・介護医療院の医師を除くこと
- 訪問看護体制減算と金額が同じでも性質が違うこと
- ターミナルケア加算との組み合わせで報酬がどう動くか
- 末期がんの方を受け入れる月の収支の見方
- 看護体制強化加算の指標への影響
ちびウルフ末期がんの方を受け入れると報酬が減るんですか? それだと受け入れをためらいませんか。
リハウルフ介護給付だけを見ればそう見えます。ただその分の訪問看護は医療保険から給付されます。看多機が訪問看護ステーションの指定も併せて受けていれば、法人全体では医療保険側で収入が立つ。介護報酬の請求書だけを見て「損した」と判断するのは早計です。
看多機の主治医の指示による減算とは?
看護小規模多機能型居宅介護の注15・注16の減算は、利用者に医療保険の訪問看護が入る場合に、その分を介護報酬から差し引く給付調整の仕組みです。告示126号 複合型サービス費の注15・注16に規定されています。
看多機の基本報酬には訪問看護の費用が含まれています。ところが末期の悪性腫瘍など一定の状態にある方は、介護保険ではなく医療保険から訪問看護が給付される仕組みになっています。そのまま両方から給付すると二重払いになるため、介護報酬側を減額して調整します。
訪問看護の世界では、この「医療保険への切り替え」は日常的に起こります。看多機でも同じことが起こり、そのたびに報酬の構造が変わるという理解が必要です。
令和6年度介護報酬改定では、これらの減算額・要件に変更はありませんでした。
注15・注16の減算額
15 イについては、指定看護小規模多機能型居宅介護を利用しようとする者の主治の医師が、当該者が末期の悪性腫瘍その他別に厚生労働大臣が定める疾病等により訪問看護を行う必要がある旨の指示を行った場合は、要介護1・2・3は1月につき925単位、要介護4は1,850単位、要介護5は2,914単位を所定単位数から減算する。
16 イについては、(略)主治の医師(介護老人保健施設及び介護医療院の医師を除く。)が、当該者が急性増悪等により一時的に頻回の訪問看護を行う必要がある旨の特別の指示を行った場合は、当該指示の日数に、要介護1・2・3は1日につき30単位、要介護4は60単位、要介護5は95単位を乗じて得た単位数を所定単位数から減算する。
| 要介護度 | 注15(1月につき) | 注16(1日につき×指示日数) |
|---|---|---|
| 要介護1・2・3 | △925単位 | △30単位 |
| 要介護4 | △1,850単位 | △60単位 |
| 要介護5 | △2,914単位 | △95単位 |
注16は日数に応じて変わる
| 要介護度 | 7日分 | 14日分 |
|---|---|---|
| 要介護1・2・3 | △210単位 | △420単位 |
| 要介護4 | △420単位 | △840単位 |
| 要介護5 | △665単位 | △1,330単位 |
特別訪問看護指示書は原則として月1回・14日以内が上限です。14日分でも注15の減算額には届きません。両者の重さの違いがここに表れています。
注15の対象となる疾病等
「末期の悪性腫瘍その他別に厚生労働大臣が定める疾病等」は、告示94号 第4号が定めています。医療保険の訪問看護でいう「別表第七」に相当する疾病等です。
| 区分 | 疾病等 |
|---|---|
| 神経難病等 | 多発性硬化症/重症筋無力症/スモン/筋萎縮性側索硬化症/脊髄小脳変性症/ハンチントン病/進行性筋ジストロフィー症 |
| パーキンソン病関連疾患 | 進行性核上性麻痺/大脳皮質基底核変性症/パーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上かつ生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限る) |
| 多系統萎縮症 | 線条体黒質変性症/オリーブ橋小脳萎縮症/シャイ・ドレーガー症候群 |
| その他 | プリオン病/亜急性硬化性全脳炎/ライソゾーム病/副腎白質ジストロフィー/脊髄性筋萎縮症/球脊髄性筋萎縮症/慢性炎症性脱髄性多発神経炎/後天性免疫不全症候群/頚髄損傷 |
| 状態 | 人工呼吸器を使用している状態 |
条文の書き出しは「末期の悪性腫瘍その他別に厚生労働大臣が定める疾病等」です。末期の悪性腫瘍は当然に含まれ、上の表がそれに加わります。
パーキンソン病だけは重症度の限定があります。ステージ3未満、または生活機能障害度がⅠ度であれば対象になりません。ここは実務で判断を誤りやすい点です。
注16の特別指示
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 指示を出す医師 | 主治の医師(介護老人保健施設および介護医療院の医師を除く) |
| 状態 | 急性増悪等により一時的に頻回の訪問看護を行う必要があると認められること |
| 減算額 | 指示の日数 × 30/60/95単位 |
老健・介護医療院の医師が除かれる意味
注16のかっこ書きは見落とされやすい部分です。老健や介護医療院の医師が特別指示を出しても、この減算は生じません。
これらの施設は医師が配置され、施設サービス費に医療が包括されています。そこから特別指示を出して医療保険の訪問看護を発生させる構造にはなっていないため、調整の必要もないという整理です。
訪問看護体制減算との違い
| 項目 | 訪問看護体制減算(注14) | 注15の減算 |
|---|---|---|
| 減算額 | 925/1,850/2,914単位 | 同額 |
| 算定の単位 | 1月につき | 1月につき |
| 判定するもの | 事業所の看護の実績(3指標) | 利用者の状態と主治医の指示 |
| 趣旨 | 看護をしていない事業所への是正 | 医療保険との給付調整 |
| 回避できるか | できる(3指標のいずれかを上げる) | できない(状態と指示で決まる) |
| 事業所の責任 | あり | なし |
金額が同じなのは偶然ではありません。いずれも「看多機の報酬から訪問看護の評価分を抜く」という同じ計算をしているからです。片方は実績が乏しいことを理由に、もう片方は医療保険が肩代わりすることを理由に、同じ額を抜いている。
この構造がわかると、要介護5の2,914単位という数字が看多機と小多機の基本報酬差4,199単位の約7割にあたる理由も腑に落ちます。
末期がんの方を受け入れた月の報酬
| 要介護度 | 基本報酬 | 注15の減算 | ターミナルケア加算 | 差引 |
|---|---|---|---|---|
| 要介護3 | 24,481単位 | △925単位 | +2,500単位 | 26,056単位 |
| 要介護4 | 27,766単位 | △1,850単位 | +2,500単位 | 28,416単位 |
| 要介護5 | 31,408単位 | △2,914単位 | +2,500単位 | 30,994単位 |
要介護5では、減算額がターミナルケア加算2,500単位を上回ります。看取りの月に介護報酬が基本報酬を下回るということです。
ただしこの月、訪問看護は医療保険から給付されています。看多機事業所が訪問看護ステーションの指定も併せて受けていれば、その分は医療保険で請求できます。介護給付だけを見て収支を判断すると、実態を見誤ります。
担当したケースでも、末期がんの方の受け入れをためらう看多機がありました。介護報酬が減ることだけが共有されていて、医療保険側の請求が視野に入っていなかった。制度の全体像を管理者が把握しているかどうかで、受け入れの判断が変わります。
看護体制強化加算の指標への影響
注15・注16が適用される方は、医療ニーズが高い方です。この方々は同時に、緊急時対応加算・特別管理加算の対象になりやすい層でもあります。
| 指標 | 看護体制強化加算(Ⅰ) | 末期がん等の方の該当しやすさ |
|---|---|---|
| 看護サービスを提供した利用者の割合 | 80%以上 | 該当しやすい |
| 緊急時対応加算を算定した利用者の割合 | 50%以上 | 該当しやすい |
| 特別管理加算を算定した利用者の割合 | 20%以上 | 在宅麻薬等注射指導管理などで(Ⅰ)に該当しやすい |
医療ニーズの高い方を受け入れることは、看護体制強化加算3,000単位の要件を満たす方向に働きます。単月の減算だけでなく、事業所全体の報酬構造への影響を見てください。
注15・注16の注意点
減算するのは「所定単位数から」
両方とも「所定単位数から減算する」です。定額または日数×単価で差し引く形なので、率で乗る地域加算などとは計算の順序が異なります。具体的な計算順序は市町村に確認してください。
対象はイのみ
注15・注16はいずれも「イについては」と書かれています。短期利用居宅介護費(ロ)には適用されません。
月の途中で指示が出た場合
注15は「1月につき」の定額です。月の途中で主治医の指示が出た場合に、その月の全額を減算するのか日割りするのかは告示本文からは読み取れません。留意事項通知および市町村の取扱いを確認してください。
指示書の管理
注15は主治医の指示、注16は特別の指示が根拠です。指示書の写しと指示期間の記録がなければ、減算の適否を説明できません。訪問看護指示書・特別訪問看護指示書の管理を、看多機の請求事務と結びつけておく必要があります。
- 利用者が告示94号第4号の疾病等に該当するか
- パーキンソン病はステージ3以上かつ生活機能障害度Ⅱ度・Ⅲ度か
- 特別指示を出した医師が老健・介護医療院の医師でないか
- 特別指示の日数を正確に把握しているか
- 指示書の写しを保管しているか
- 医療保険側の訪問看護の請求体制が整っているか
よくある質問
注15の減算はいくらですか?
要介護1・2・3で1月925単位、要介護4で1,850単位、要介護5で2,914単位です。
注16の減算はいくらですか?
指示の日数に、要介護1・2・3は1日30単位、要介護4は60単位、要介護5は95単位を乗じた額です。
これは事業所への罰則ですか?
違います。訪問看護が医療保険から給付されるぶんを介護報酬から差し引く給付調整です。
注15の対象になる疾病は?
末期の悪性腫瘍のほか、ALS・多発性硬化症・パーキンソン病関連疾患など18の疾病等と、人工呼吸器を使用している状態です(告示94号第4号)。
パーキンソン病なら必ず対象ですか?
違います。ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上であって、生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限られます。
老健の医師が特別指示を出した場合は?
注16のかっこ書きにより、介護老人保健施設および介護医療院の医師は除かれます。減算は生じません。
訪問看護体制減算と同じものですか?
違います。金額は同じですが、訪問看護体制減算は事業所の看護の実績を見る減算、注15は医療保険との給付調整です。
回避する方法はありますか?
ありません。利用者の状態と主治医の指示で決まるため、事業所側で回避する性質のものではありません。
看取りの月は報酬が増えますか?
要介護5では増えません。減算2,914単位がターミナルケア加算2,500単位を上回ります。ただし訪問看護は医療保険から給付されます。
月の途中で指示が出た場合は?
注15は「1月につき」の定額です。日割りの取扱いは告示に定めがないため、市町村に確認してください。
短期利用にも適用されますか?
されません。注15・注16はいずれも「イについては」とあり、対象は看護小規模多機能型居宅介護費です。
医療ニーズの高い方を受け入れる意味はありますか?
あります。緊急時対応加算・特別管理加算の算定につながり、看護体制強化加算3,000単位の要件を満たす方向に働きます。
- 注15の減算は要介護1〜3で925単位、要介護4で1,850単位、要介護5で2,914単位(1月につき)
- 注16の減算は指示日数×30/60/95単位
- いずれも対象はイ(看護小規模多機能型居宅介護費)で、短期利用は対象外
- 2つとも医療保険との給付調整であり、事業所の実績を問う減算ではない
- 注15の対象は末期の悪性腫瘍と告示94号第4号の疾病等
- パーキンソン病はステージ3以上かつ生活機能障害度Ⅱ度・Ⅲ度に限られる
- 人工呼吸器を使用している状態も対象に含まれる
- 注16は急性増悪等による特別の指示が対象
- 注16は介護老人保健施設・介護医療院の医師による指示を除く
- 訪問看護体制減算と金額は同じだが、判定するものも趣旨も違う
- 注15は事業所側で回避できない
- 要介護5の看取りの月は、減算がターミナルケア加算を上回る
- その月の訪問看護は医療保険から給付されるため、介護給付だけで収支を判断しない
- 医療ニーズの高い方の受け入れは、看護体制強化加算の3指標を満たす方向に働く
- 指示書の写しと指示期間の記録が減算の適否を説明する根拠になる
- 指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年3月14日厚生労働省告示第126号)別表「複合型サービス費」注14、注15、注16、ヨ、イ(厚生労働省法令等データベース)
- 厚生労働大臣が定める基準に適合する利用者等(平成27年3月23日厚生労働省告示第94号)第4号(厚生労働大臣が定める疾病等)、第8号(厚生労働省法令等データベース)
- 厚生労働大臣が定める基準(平成27年3月23日厚生労働省告示第95号)第75号、第78号(厚生労働省法令等データベース)
※本記事の減算額・対象は、厚生労働省の告示にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および指定権者(市町村)の解釈をご確認ください。看護小規模多機能型居宅介護は地域密着型サービスであり、指定・指導は市町村が行うため、解釈や運用が自治体によって異なる場合があります。とくに月の途中で主治医の指示が出た場合の日割りの可否、他の加算・減算との計算順序、末期の悪性腫瘍の判定、特別指示の日数の数え方については告示本文に明記がなく、留意事項通知および市町村の取扱いによります。所在市町村に確認してください。医療保険の訪問看護の給付および請求については、医療保険の制度・通知にもとづきます。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。実務に関する記述は、筆者の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。




