末期がんで訪問看護が医療保険に切り替わるタイミング|別表第七を解説

末期がんの方の訪問看護は、要介護認定を受けていても医療保険から給付されます。介護保険の訪問看護費ではなく、訪問看護療養費です。
切り替わる時点は、日付や手続きで決まるのではありません。主治医が「末期の悪性腫瘍」と診断し、その旨を訪問看護指示書に記載した時点です。特掲診療料の施設基準等 別表第七の筆頭に「末期の悪性腫瘍」が挙げられており、これに該当すれば介護保険優先の原則が外れます。
つまり切替のトリガーは「指示書の傷病名」です。ケアマネジャーが判断するものでも、事業所が選ぶものでもありません。ここを理解していないと、給付管理も請求も食い違います。
この記事では、健康保険法、特掲診療料の施設基準等 別表第七、厚生局の資料を突き合わせて整理しました。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。
- 介護保険が医療保険に優先する法的根拠(健康保険法の条文)
- その例外となる3つのケース
- 別表第七に「末期の悪性腫瘍」が含まれること(原文の一覧)
- 切替のトリガーが指示書の傷病名であること
- 切り替わると何が変わるか(回数・複数事業所・自己負担)
- 週4日以上の訪問が可能になること
- 複数の訪問看護ステーションが入れるようになること
- 特養に入所していても訪問看護が入れる例外
- 特別訪問看護指示書との違い
- ケアマネジャーが確認・調整すべきこと
原則は介護保険優先。根拠は健康保険法
健康保険法は、介護保険との調整を次のように定めています。
被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給は、同一の疾病又は負傷について、介護保険法の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。
「介護保険で受けられるなら、医療保険では行わない」。これが介護保険優先の原則です。要介護認定を受けている方の訪問看護は、原則として介護保険から給付されます。
例外は3つ
厚生局の資料は、医療保険における訪問看護の対象者を次のように整理しています。
| 対象 | |
|---|---|
| 原則 | 介護保険の訪問看護の利用者を除く訪問看護の利用者(40歳未満の者、および40歳以上で要介護者・要支援者でない者) |
| 例外ア | 特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を行う場合 |
| 例外イ | 特掲診療料の施設基準等 別表第七に掲げる疾病等の者に対する指定訪問看護を行う場合 |
| 例外ウ | 精神科訪問看護基本療養費が算定される指定訪問看護を行う場合 |
末期がんは例外イに該当します。
別表第七に「末期の悪性腫瘍」が筆頭に挙げられている
特掲診療料の施設基準等 別表第七の原文です。
別表第七 在宅患者訪問診療料(Ⅰ)及び在宅患者訪問診療料(Ⅱ)並びに在宅患者訪問看護・指導料及び同一建物居住者訪問看護・指導料に規定する疾病等
末期の悪性腫瘍/多発性硬化症/重症筋無力症/スモン/筋萎縮性側索硬化症/脊髄小脳変性症/ハンチントン病/進行性筋ジストロフィー症/パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病(ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ三以上であって生活機能障害度がⅡ度又はⅢ度のものに限る。))/多系統萎縮症(線条体黒質変性症、オリーブ橋小脳萎縮症及びシャイ・ドレーガー症候群)/プリオン病/亜急性硬化性全脳炎/ライソゾーム病/副腎白質ジストロフィー/脊髄性筋萎縮症/球脊髄性筋萎縮症/慢性炎症性脱髄性多発神経炎/後天性免疫不全症候群/頸髄損傷/人工呼吸器を使用している状態
一覧の最初に「末期の悪性腫瘍」が置かれています。この告示に該当する状態であれば、要介護認定の有無にかかわらず医療保険から訪問看護が給付されます。
別表第七は「末期の悪性腫瘍」とだけ書いており、余命何か月といった数値の定義を置いていません。
したがって判断するのは主治医です。ケアマネジャーや訪問看護ステーションが「そろそろ末期だから」と決めることはできません。
実務上の起点は、訪問看護指示書の主たる傷病名に「末期の悪性腫瘍」等の記載がされることです。ここが切替の合図になります。
切り替わると何が変わるか
| 項目 | 介護保険の訪問看護 | 医療保険(別表第七該当) |
|---|---|---|
| 報酬 | 訪問看護費 | 訪問看護療養費 |
| 区分支給限度基準額 | 使う | 使わない |
| 給付管理 | 必要 | 対象外 |
| 訪問回数 | ケアプランの範囲内 | 週4日以上の訪問が可能 |
| 複数の訪問看護ステーション | 制限あり | 要件を満たせば複数可 |
| 自己負担 | 1〜3割 | 医療保険の負担割合による |
- 限度額を使わなくなるため、他のサービスに枠を回せる
- 給付管理の対象外になるため、居宅サービス計画への位置付け方が変わる
- 訪問の頻度を大幅に増やせる
末期がんの方は状態の変化が速く、1日に複数回の訪問が必要になることがあります。介護保険の限度額の中でこれを賄うことは現実的に不可能です。医療保険に切り替わることには、この実務的な意味があります。
複数の訪問看護ステーションが入れる
厚生局の資料は、複数のステーションが算定できる場合として次を挙げています。
- 基準告示第2の1に規定する疾病等の利用者が、既に他の1つの訪問看護ステーションから訪問看護を受けている場合
- 特別訪問看護指示書による訪問看護を受けている利用者であって、週4日以上の訪問看護が計画されているものが、既に他の1つのステーションから受けている場合
- 基準告示第2の1に規定する疾病等の利用者であって、週7日の訪問看護が計画されているものが、既に他の2つ以下のステーションから受けている場合
- 緩和ケア、褥瘡ケア又は人工肛門ケア及び人工膀胱ケアに係る専門の研修を受けた看護師の訪問看護を受ける場合
週7日の計画があれば、3か所目のステーションまで入れます。1か所では夜間・休日を含めた毎日の訪問を支えきれないため、複数体制が組めるようになっています。
ちびウルフケアマネとしては、いつ何をすればいいんですか?
リハウルフまず主治医と訪問看護ステーションに「指示書の傷病名がどうなっているか」を確認することです。切替はそこで起きているので。
そのうえで、訪問看護が限度額から抜けた分、他のサービスに枠が空きます。末期がんの方は状態が落ちるのが速いので、福祉用具(特殊寝台、エアマット、ポータブルトイレ関連)を厚くする余地が生まれる。
「医療保険に切り替わりました」で終わらせず、空いた枠をすぐ組み直す。ここまでやってケアマネジメントです。担当したケースでも、切替の翌週にエアマットを入れて褥瘡を防げたことがありました。
特養に入所していても訪問看護が入れる
施設入所中は居宅サービスを使えないのが原則ですが、末期がんには例外があります。厚生局の資料が挙げている例外です。
特別養護老人ホームに入所している末期のがん患者に対して、主治医が交付した訪問看護指示書に基づき訪問看護をする場合
通常、病院・診療所や医師・看護師等が配置されている施設に入院・入所している場合は訪問看護療養費を算定できません。末期がんはその例外として明示されています。
特養の看護職員の配置では、終末期の医療的な管理を十分に支えきれない場合があるための措置と読めます。
特別訪問看護指示書との違い
医療保険に切り替わるもう一つのルートが特別訪問看護指示書です。混同しやすいので整理します。
| 別表第七(末期がん等) | 特別訪問看護指示書 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 疾病等の該当 | 医師の特別の指示 |
| 期間 | 該当している間 | 指示の日から14日間 |
| トリガー | 指示書の傷病名 | 急性増悪等による特別指示 |
| 回数の上限 | 週4日以上可 | 期間中は毎日可 |
厚生局の資料は注意を促しています。「特別訪問看護指示書は、医師が診療に基づき、一時的に頻回に訪問看護が必要だと判断した場合に交付すべきものとされているため、恒常的かつ機械的に交付する場合など、望ましくない場合があるとされていることに注意を要する。」
末期がんで継続的に医療保険が必要なら、別表第七の該当として整理するのが筋です。特別指示書を毎月出し続けるような運用は、通知の趣旨から外れます。
ケアマネジャーが確認・調整すること
- 主治医・訪問看護ステーションに、指示書の傷病名と交付日を確認する
- 医療保険に切り替わった日を特定し、給付管理の対象から外す
- 訪問看護が抜けた分の区分支給限度基準額を再計算する
- 空いた枠で福祉用具(特殊寝台・エアマット等)や訪問介護を増やせないか検討する
- 複数のステーションが必要な状態か、訪問看護側と協議する
- 居宅サービス計画に、医療保険の訪問看護を保険給付外の位置付けとして記載する
- 急変時の連絡経路と、看取りの方針について家族の意向を確認する
6つ目を落とさないでください。給付管理の対象外になっても、居宅サービス計画から消してよいわけではありません。訪問看護が週何回入っているかを把握していなければ、他のサービスの調整ができません。
指定居宅介護支援等基準 第13条第9号のただし書きは、「利用者(末期の悪性腫瘍の患者に限る。)の心身の状況等により、主治の医師又は歯科医師の意見を勘案して必要と認める場合その他のやむを得ない理由がある場合」には、担当者への照会等で意見を求めることができるとしています。
末期がんの方は状態の変化が速く、会議の日程調整を待っていられません。この例外は末期の悪性腫瘍の患者に限って認められています。使える場面では活用してください。
よくある質問
末期がんの訪問看護はどちらの保険ですか?
医療保険です。要介護認定を受けていても、特掲診療料の施設基準等 別表第七に「末期の悪性腫瘍」が掲げられているため、介護保険優先の原則の例外になります。
いつ切り替わりますか?
主治医が「末期の悪性腫瘍」と診断し、その旨が訪問看護指示書に記載された時点が実務上の起点になります。日付や申請手続きで切り替わるものではありません。
「末期」の定義はありますか?
別表第七に数値的な定義はありません。判断するのは主治医です。ケアマネジャーや訪問看護ステーションが決めることはできません。
介護保険が優先する根拠は何ですか?
健康保険法が「同一の疾病又は負傷について、介護保険法の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない」と定めているためです。
医療保険に切り替わると限度額はどうなりますか?
訪問看護が区分支給限度基準額を使わなくなります。その分、他のサービスに枠を回せます。
給付管理はどうなりますか?
医療保険の訪問看護は給付管理の対象外です。ただし居宅サービス計画には保険給付外の位置付けとして記載し、全体を把握しておく必要があります。
訪問回数は増やせますか?
増やせます。別表第七に該当する場合、週4日以上の訪問が可能になります。
複数の訪問看護ステーションを使えますか?
使えます。基準告示に規定する疾病等の利用者であれば他の1つのステーションと併用でき、週7日の訪問看護が計画されている場合は他の2つ以下のステーションとの併用も認められます。
特養に入所していても訪問看護は入れますか?
入れます。特別養護老人ホームに入所している末期のがん患者に対して、主治医が交付した訪問看護指示書に基づき訪問看護をする場合が例外として挙げられています。
特別訪問看護指示書とは何が違いますか?
別表第七は疾病等への該当を根拠とし、該当している間は継続します。特別訪問看護指示書は急性増悪等による一時的な指示で、指示の日から14日間が限度です。
特別指示書を毎月出してもらえばよいのでは?
望ましくありません。厚生局の資料は「恒常的かつ機械的に交付する場合など、望ましくない場合があるとされていることに注意を要する」としています。末期がんは別表第七の該当として整理するのが筋です。
サービス担当者会議は必ず開きますか?
末期の悪性腫瘍の患者について、心身の状況等により主治の医師等の意見を勘案して必要と認める場合その他やむを得ない理由がある場合は、担当者への照会等で意見を求めることができます。
- 末期がんの訪問看護は、要介護認定を受けていても医療保険から給付される
- 健康保険法により、介護保険で受けられる給付は医療保険では行わないのが原則
- 例外は特別訪問看護指示書、別表第七の疾病等、精神科訪問看護基本療養費の3つ
- 末期がんは別表第七の該当として医療保険になる
- 別表第七の一覧の筆頭に「末期の悪性腫瘍」が置かれている
- 別表第七に「末期」の数値的な定義はない
- 判断するのは主治医であり、ケアマネや事業所が決めるものではない
- 実務上の起点は、訪問看護指示書の傷病名の記載
- 切り替わると区分支給限度基準額を使わなくなる
- 給付管理の対象外になる
- 週4日以上の訪問が可能になる
- 1日に複数回の訪問も組める
- 複数の訪問看護ステーションが入れるようになる
- 週7日の計画があれば3か所目まで併用できる
- 緩和ケア等の専門の研修を受けた看護師の訪問も別枠で認められる
- 特養に入所している末期がん患者にも訪問看護が入れる
- 特別訪問看護指示書は一時的なもので、指示の日から14日間が限度
- 特別指示書を恒常的・機械的に交付することは望ましくないとされている
- 限度額が空いた分を他のサービスに組み直すところまでがケアマネジメント
- 福祉用具(特殊寝台・エアマット等)を厚くする余地が生まれる
- 給付管理の対象外でも、居宅サービス計画には位置付けて把握する
- 末期の悪性腫瘍の患者はサービス担当者会議を照会等で代替できる
- 健康保険法(大正11年法律第70号)他の法令による保険給付との調整(介護保険法による給付との調整)(e-Gov法令検索)
- 特掲診療料の施設基準等(平成20年厚生労働省告示第63号)別表第七、別表第八(厚生労働省法令等データベース)
- 厚生労働省近畿厚生局「訪問看護療養費の取扱いの理解のために」(PDF)訪問看護に係る給付、医療保険における訪問看護利用の対象者、算定の制限(厚生労働省近畿厚生局)
- 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第38号)第13条第9号(サービス担当者会議)(厚生労働省法令等データベース)
- 訪問看護療養費に係る訪問看護ステーションの基準等(平成18年厚生労働省告示第103号)(厚生労働省法令等データベース)
※本記事の内容は、健康保険法、厚生労働省の告示および厚生局の資料にもとづいて整理したものです。実際の算定にあたっては原文および地方厚生(支)局・保険者の解釈をご確認ください。診療報酬・訪問看護療養費の算定要件は改定により変更されます。別表第七の内容は令和8年厚生労働省告示第71号により全部改正されたものを掲載しています。医療保険への切替の時点、月の途中で保険が変わる場合の請求方法、複数の訪問看護ステーションの併用の可否は、個別の状況により判断が分かれるため、必ず主治医・訪問看護ステーション・保険者にご確認ください。訪問看護療養費の点数・自己負担割合は本記事では扱っていません。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。ケアマネジャーの確認手順や限度額の組み直しに関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

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