「訪問看護には医療保険と介護保険があるって聞いたけれど、どちらが優先になるの?」「同じステーションなのに、利用者さんごとに保険が違うのはなぜ?」——訪問看護の現場では、保険区分の判断に迷う場面が少なくありません。判断を一つ間違えると、レセプトの返戻や算定誤りにつながるため、正しい優先順位の理解は必須です。

この記事では、訪問看護における医療保険と介護保険の優先順位を、判断の流れにそって分かりやすく整理します。介護保険が優先される原則、医療保険が優先になる3つのケース(別表7・特別訪問看護指示書・精神科訪問看護指示書)、別表7・別表8の疾病一覧、そして厚生労働省のQ&Aまで、現場で「迷わず判断できる」レベルまで落とし込んで解説します。

この記事でわかること
  • 訪問看護の医療保険と介護保険の「違い」と判断の大原則
  • 介護保険が優先になる人・医療保険が優先になる人の見分け方
  • 医療保険が優先になる3つのケース(別表7・特別指示書・精神科)
  • 別表7・別表8の疾病一覧と、訪問が手厚くなる条件
  • 厚生労働省Q&Aで確認する、現場で迷いやすい実務ポイント

訪問看護の医療保険と介護保険、まず押さえる基本の違い

訪問看護には医療保険介護保険の2つの制度があります。1つの訪問看護ステーションの中でも、介護保険で訪問している利用者と医療保険で訪問している利用者が混在しているのが普通です。

ここで最初に押さえておきたいのは、利用者さんが「医療保険にしたい」「介護保険にしたい」と自由に選べるわけではないという点です。どちらの保険になるかは、国(厚生労働省)が定めたルールに沿って機械的に決まります。年齢・要介護認定の有無・病名・指示書の種類によって、自動的に区分が振り分けられるイメージです。

ちびウルフちびウルフ

同じステーションなのに、利用者さんで保険が違うのはどうしてなの?

リハウルフリハウルフ

本人が選んでいるわけじゃないんだ。年齢・要介護認定・病名・指示書のルールで「どちらの保険になるか」が決まるんだよ。だから判断基準さえ押さえれば、誰でも同じ結論にたどり着けるんだ。

ポイント保険区分は「選ぶもの」ではなく「ルールで決まるもの」。判断の流れを覚えれば、利用者さんが介護保険か医療保険かはほぼ迷わず判断できます。

訪問看護は「介護保険が優先」が大原則

訪問看護の医療保険と介護保険の優先順位は、ひとことで言うと「介護保険が優先」が大原則です。介護保険は社会保険の中でも“地域包括ケアの土台”として位置づけられているため、要介護認定を受けている人は原則として介護保険の訪問看護が適用されます。

ただし、これには重要な例外があります。要介護認定を受けていても、一定の条件にあてはまる人は医療保険が優先になります。つまり判断の流れは「①まず介護保険が使えるか(年齢・要介護認定)→ ②医療保険が優先になる例外にあてはまらないか」の順でチェックするのが基本です。

判断の流れ(ざっくり3ステップ)

  1. 年齢と要介護認定を確認する(40歳未満/要介護認定なしは医療保険へ)
  2. 要介護認定がある場合は、医療保険が優先になる例外(別表7・特別指示書・精神科)に該当しないか確認する
  3. 例外に該当しなければ介護保険、該当すれば医療保険で訪問看護を提供する
注意「要介護認定があるから必ず介護保険」ではありません。認定があっても別表7の疾病などにあてはまれば医療保険が優先です。ここを取り違えると算定誤りの原因になります。

介護保険が優先になる人(対象者)

まず、介護保険の訪問看護の対象になる人から整理します。介護保険で訪問看護の対象となるのは、40歳以上で要介護・要支援の認定を受けている人(要支援1・2、要介護1〜5)です。ただし後述する医療保険優先の例外を除きます。

逆に言えば、次のような人は介護保険の対象外となり、自然と医療保険の訪問看護になります。

区分保険の扱い
40歳未満の人年齢的に介護保険の認定を受けられないため、全員が医療保険
40歳以上65歳未満(第2号被保険者)で特定疾病に該当しない人要介護認定を受けられないため医療保険
要介護認定を受けていない人医療保険
要支援・要介護の認定を受けている人原則は介護保険(例外あり)
ちびウルフちびウルフ

40歳未満の人はどうして全員が医療保険になるの?

リハウルフリハウルフ

介護保険の要介護認定は、原則40歳以上が対象だからだよ。40歳未満は制度上そもそも認定を受けられないから、訪問看護は医療保険で提供されるんだ。

医療保険が優先になる3つのケース

ここがこの記事のいちばん大切なところです。要介護・要支援の認定を受けていても、次の3つのいずれかにあてはまると医療保険が優先になります。

医療保険が優先となる場合
  • ① 別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)に該当する場合
  • ② 特別訪問看護指示書の交付を受けた場合
  • ③ 精神科訪問看護指示書の交付を受けた場合(認知症を除く精神疾患)

① 別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)の20疾病

別表7は、正式には「厚生労働大臣が定める疾病等」と呼ばれる、全20の疾病・状態のリストです。利用者さんがこの疾病に該当する場合、要介護認定の有無にかかわらず、訪問看護はすべて医療保険で行います。

別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)
末期の悪性腫瘍
多発性硬化症
重症筋無力症
スモン
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
脊髄小脳変性症
ハンチントン病
進行性筋ジストロフィー症
パーキンソン病関連疾患(進行性核上性麻痺・大脳皮質基底核変性症・パーキンソン病※)
多系統萎縮症(線条体黒質変性症・オリーブ橋小脳萎縮症・シャイ・ドレーガー症候群)
プリオン病
亜急性硬化性全脳炎
ライソゾーム病
副腎白質ジストロフィー
脊髄性筋萎縮症
球脊髄性筋萎縮症
慢性炎症性脱髄性多発神経炎
後天性免疫不全症候群(AIDS)
頸髄損傷
人工呼吸器を使用している状態
注意※パーキンソン病については、ホーエン・ヤールの重症度分類がステージ3以上かつ生活機能障害度がⅡ度またはⅢ度のものに限られます。診断名だけで一律に該当するわけではないため、指示書や診療情報で重症度を確認しましょう。

② 特別訪問看護指示書の交付を受けた場合

急性増悪や終末期など、頻回な訪問看護が一時的に必要になったときに、主治医が交付するのが特別訪問看護指示書です。これが交付された期間は、介護保険の利用者でも医療保険の訪問看護に切り替わります。

特別訪問看護指示書は原則として月1回・有効期間14日以内が基本ですが、一定の条件(気管カニューレの使用者、真皮を超える褥瘡の状態にある者)に該当する場合は月2回まで交付が可能です。交付条件や点数の詳細は、別記事で詳しく解説しています。

③ 精神科訪問看護指示書の交付を受けた場合

精神疾患(認知症を除く)を主たる傷病として、主治医から精神科訪問看護指示書が交付された場合も、医療保険の訪問看護(精神科訪問看護)になります。なお、認知症は精神科訪問看護の対象外で、介護保険が優先される点に注意が必要です。

ちびウルフちびウルフ

認知症も精神疾患だから医療保険になるんじゃないの?

リハウルフリハウルフ

そこがよく間違えるポイントなんだ。精神科訪問看護では「認知症を除く」とされていて、認知症は原則として介護保険が優先になるんだよ。傷病名をよく確認しよう。

別表7・別表8・特別指示書なら訪問が手厚くなる

医療保険の訪問看護には、通常「週3日まで」「複数回不可」「1か所のステーションのみ」といった制限があります。しかし、別表7・別表8・特別訪問看護指示書のいずれかに該当する場合は、これらの制限が大きく緩和されます。

別表7・別表8・特別指示書に該当する場合の優遇
  • 週4日以上の訪問が可能
  • 1日に複数回(2〜3回)の訪問が可能
  • 2か所以上の訪問看護ステーションからの訪問が可能

別表8(特別管理を要する状態等)とは

別表8は、医療機器の管理や特別な処置を必要とする状態をまとめたリストです。別表7が「疾病名」で判断するのに対し、別表8は「どんな医療管理・状態にあるか」で判断するのが特徴です。

別表8(特別な管理を必要とする状態等)
在宅悪性腫瘍等患者指導管理・在宅気管切開患者指導管理を受けている、または気管カニューレ・留置カテーテルを使用している状態
在宅自己腹膜灌流/在宅血液透析/在宅酸素療法/在宅中心静脈栄養法/在宅成分栄養経管栄養法/在宅自己導尿/在宅人工呼吸/在宅持続陽圧呼吸療法/在宅自己疼痛管理/在宅肺高血圧症患者の各指導管理を受けている状態
人工肛門または人工膀胱を設置している状態
真皮を超える褥瘡の状態
在宅患者訪問点滴注射管理指導料を算定している状態
注意別表8に該当しても、それだけで「介護保険→医療保険」に切り替わるわけではありません。別表8は主に「訪問回数・複数回・複数ステーションの可否」や特別管理加算の判断に関わるものです。保険区分の切り替えは別表7・特別指示書・精神科指示書で判断します。

医療保険・介護保険の優先順位を一目で整理

ここまでの判断基準を、上から順にチェックする形で整理します。上の条件にあてはまった時点でその保険に決まるとイメージすると分かりやすいです。

チェック順条件結果
140歳未満、または要介護認定を受けていない医療保険
2別表7(厚生労働大臣が定める疾病等)に該当医療保険(優先)
3特別訪問看護指示書の交付期間中医療保険(期間中のみ優先)
4精神科訪問看護指示書の交付(認知症を除く)医療保険
5上記いずれにも該当せず、要支援・要介護の認定あり介護保険

現場で迷いやすいポイント(リハ職・看護師視点)

制度の原則を押さえても、実務では「これはどっち?」と迷う場面が出てきます。訪問看護・訪問リハに関わるPT・OT・ST・看護師の視点から、現場でつまずきやすいポイントを整理します。

月の途中で保険が切り替わるとき

介護保険の利用者が急性増悪し、月の途中で特別訪問看護指示書が交付されると、その期間だけ医療保険に切り替わります。同じ月の中で介護保険と医療保険が混在することになるため、訪問記録とレセプトを期間で正確に分けることが重要です。ケアマネジャーへの連絡・情報共有も忘れずに行いましょう。

ターミナル期の取り扱い

末期の悪性腫瘍は別表7に含まれるため、要介護認定があっても訪問看護はすべて医療保険になります。終末期は訪問頻度が一気に増える時期なので、「介護保険のままで算定していた」という誤りが起きやすいポイントです。診断・病状の変化があったら、早めに保険区分を見直しましょう。

リハ職が関わるときの視点

訪問看護ステーションからの理学療法士・作業療法士・言語聴覚士による訪問も、利用者さんの保険区分に従います。看護師と同じ利用者を担当する場合、保険区分・訪問回数の上限・複数ステーションの可否を看護師と共有しておくと、計画の齟齬や算定ミスを防げます。

ポイント保険区分の判断に迷ったら、まず「指示書の種類」と「病名(別表7該当か)」を確認するのが近道です。指示書は保険区分を決める最重要の根拠書類です。

厚生労働省Q&Aで確認する優先順位の実務

厚生労働省は、訪問看護の医療保険と介護保険の優先順位について、実務上の疑問に答えるQ&Aを示しています。代表的なものを、要点をかみくだいて紹介します(内容は要約です)。

末期がんや神経難病など難病患者等の場合、保険はどうなる?
末期がん患者や難病患者等の場合、訪問看護はすべて医療保険で行い、介護保険の訪問看護費は算定できないとされています。
介護保険の訪問看護にも、週3日や2か所までといった回数制限はある?
介護保険の訪問看護には、週あたりの訪問回数に特段の制限はなく、2か所のステーションから訪問看護の提供を受けることも可能とされています。回数制限があるのは主に医療保険側の話です。
死亡日と死亡前14日以内に介護保険・医療保険でそれぞれターミナルケアを行った場合、加算は?
この場合、ターミナルケア加算は算定できるとされ、最後に実施した保険制度において算定することとされています。
第2号被保険者(特定疾病該当者)が訪問看護のみを希望する場合、要介護認定は必須?
原則は要介護認定を受けることとされていますが、介護保険のサービス利用は申請主義です。本人が専ら医療保険のサービスしか利用しない場合は、必ずしも要介護認定を受けなければならないものではないとされています。
特別訪問看護指示書で医療保険の訪問看護を利用中に死亡した場合の算定は?
死亡前24時間以内の訪問看護が医療保険の給付対象となる場合は、ターミナルケア療養費として医療保険において算定するとされています。
注意報酬や取り扱いは改定で見直されることがあります。実際の算定にあたっては、必ず最新の厚生労働省の通知・Q&Aや、お住まいの自治体の取り扱いを確認してください。

よくある質問(FAQ)

利用者が医療保険と介護保険を自分で選ぶことはできますか?
できません。年齢・要介護認定の有無・病名・指示書の種類によって、国のルールに沿って自動的に区分が決まります。
要介護認定を受けていれば、必ず介護保険の訪問看護になりますか?
いいえ。別表7の疾病、特別訪問看護指示書の交付期間、精神科訪問看護指示書(認知症を除く)に該当する場合は、要介護認定があっても医療保険が優先になります。
認知症は精神科訪問看護として医療保険になりますか?
なりません。精神科訪問看護は「認知症を除く」とされており、認知症は原則として介護保険が優先されます。
別表7と別表8は何が違うのですか?
別表7は「疾病名」で判断する医療保険優先の疾患リスト、別表8は「医療管理・状態」で判断する特別な管理を要する状態のリストです。別表7は保険区分の切り替えに、別表8は訪問回数・複数回・複数ステーションの可否や特別管理加算に関わります。
40歳未満の利用者はどの保険になりますか?
40歳未満は介護保険の要介護認定を受けられないため、訪問看護は全員が医療保険になります。
まとめ
  • 訪問看護の保険区分は利用者が選ぶものではなく、国のルールで自動的に決まる。
  • 大原則は「介護保険が優先」。要支援・要介護の認定があれば原則は介護保険。
  • 例外として、①別表7の疾病、②特別訪問看護指示書、③精神科訪問看護指示書(認知症を除く)に該当すると医療保険が優先になる。
  • 別表7・別表8・特別指示書に該当すると、週4日以上・複数回・2か所以上の訪問が可能になる。
  • 40歳未満や要介護認定なしは医療保険。認知症は精神科訪問看護の対象外で介護保険が優先。
  • 報酬・取り扱いは改定で変わるため、最新の厚生労働省通知・自治体の取り扱いを必ず確認する。

参考:厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法」別表第7・別表第8、訪問看護に関する各種Q&A。実際の算定は最新の通知・自治体の取り扱いをご確認ください。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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