「好きだったものまで食べなくなった」「口に入れても出してしまう」——認知症の介護で、家族がもっとも不安になる場面です。食べないことは体力と命に直結するため、入浴や着替えの拒否とは重みが違います。

ただ、食事拒否には必ず原因があり、原因ごとに打つ手が違います。この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の食事場面に関わってきた立場から、原因を7つに分けて整理し、それぞれの対応をまとめます。受診すべきサインと、窒息のリスク管理も必ず読んでください。

この記事でわかること
  • 食事拒否の原因7分類と、見分け方
  • 原因別の具体的な対応
  • すぐに受診すべきサイン
  • 窒息・誤嚥のリスクを下げる食べ方
  • 食べない日が続くときの考え方
  • 使える専門職とサービス

認知症の食事拒否で、まず疑う順番

「認知症だから食べない」で止めると、打つ手がなくなります。私が確認する順番はこれです。

1. 口の中義歯が合わない、口内炎、歯の痛み、口の乾き
2. 飲み込みむせる、時間がかかる、口にためたまま飲み込まない
3. 体調・薬便秘、脱水、発熱、痛み、薬の影響、味覚の変化
4. 認知機能食べ物と認識できない、箸やスプーンの使い方が分からない、集中が続かない
5. 環境テレビの音、視野に入る物の多さ、食器の柄、大皿
6. 心理急かされる、見られている、こぼすのが恥ずかしい、介助されたくない
7. 生活リズム活動量不足、間食、昼夜逆転、空腹感が湧いていない
リハウルフリハウルフ

この順番には意味があります。1〜3は医療で解決できる可能性があるからです。認知症のせいだと決めつけて、治せる原因を見逃すのがいちばんもったいない。

食事拒否の原因1:口の中に問題がある

いちばん多く、いちばん見落とされます。本人が「痛い」と言えないことが多いためです。

  • 義歯が合っていない|体重が減ると合わなくなります。外したがる、片側だけで噛む、硬いものを避けるのはサイン
  • 口内炎・歯の痛み・歯周病|しみるもの、熱いものを避けるようになります
  • 口の乾き|薬の影響で唾液が減ることがあります。乾いた食品(パン、ふかしいも)を残すのが特徴
  • 口の中の汚れ|舌苔や食べかすで、味が分からなくなっていることがあります

確認方法は簡単です。明るい場所で、口の中を見せてもらう。それだけで分かることが多い。難しければ、訪問歯科という選択肢があります。通院できなくても、自宅で診てもらえます。

[ポチップ①:口腔ケア用スポンジブラシ/口腔保湿ジェル]

原因2:うまく飲み込めていない

ここは命に関わるため、独立して扱います。次のサインがあれば、食事の工夫より先に受診してください。

受診が必要なサイン食事中や食後にむせる・咳き込む/食後に声がガラガラになる/飲み込むまでに時間がかかる/口にためたまま飲み込まない/原因のはっきりしない発熱を繰り返す/急に体重が減った。誤嚥性肺炎につながる可能性があります。

相談先は、かかりつけ医、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科です。言語聴覚士(ST)が飲み込みの評価と訓練を担当します。訪問看護や訪問リハビリで自宅に来てもらえる場合もあるため、ケアマネジャーに相談してください。

とろみをつける

意外に思われますが、水やお茶のようなサラサラした液体がいちばんむせやすいです。速く流れるため、飲み込みの反射が追いつきません。とろみをつけると流れが遅くなり、むせにくくなります。

注意とろみの濃さは、濃ければ濃いほど安全というわけではありません。濃すぎると口の中に残り、かえってリスクになります。適切な濃さは人によって違うため、導入前に必ず医師・言語聴覚士・訪問看護師に相談してください。

[ポチップ②:とろみ調整食品(トロミ剤)]

原因3:体調と薬

  • 便秘|認知症の方の食欲低下で最も多い身体的原因のひとつです。排便の記録を取ってください
  • 脱水|食欲低下と脱水は互いに悪化させ合います。飲水量も見てください
  • 発熱・痛み|訴えられないだけで、どこか痛いことがあります
  • 薬の影響|食欲不振、口の乾き、味覚の変化、眠気。新しい薬が増えた前後で変わったなら、必ず処方元に伝えてください
  • うつ・アパシー|食事だけでなく、他のことへの関心も落ちていないか確認します
ちびウルフちびウルフ

便秘で食欲が落ちるって、言われてみれば当たり前だね

原因4:認知機能による

厚生労働省は、認知症では「二つ以上のことが重なるとうまく処理できなくなる」「計画を立て按配することができなくなる」と説明しています。食事は、思っている以上に複雑な作業です。

食べ物だと分からない目の前のものが食事だと認識できていない。「〇〇ですよ、おいしいですよ」と声をかけながら出す
道具が使えない箸やスプーンの使い方が分からない。手に持たせる、最初の一口を介助して動きを思い出してもらう
手をつけないどれから食べるか決められない。一品ずつ出すと動き出すことがあります
途中でやめる集中が続かない。声をかけて再開を促す。時間をあけて分けて食べてもよい
食べたのに「食べていない」記憶の問題。否定せず「今用意しますね」と言い、少量を出す

厚労省の資料は、認知症の人は「なにもできない」わけではないとも述べています。誰かが全体に目を配れば、一つひとつの動作はできる。食事も同じで、「全部介助」に切り替える前にできることがあります。

原因5:環境が邪魔をしている

  • テレビを消す|音と映像に注意が奪われます。まずこれを試してください
  • 柄のある食器をやめる|模様と食べ物の区別がつきにくくなることがあります
  • 食器と食べ物の色に差をつける|白いご飯を白い茶碗に盛ると見えにくい方がいます
  • 大皿や品数を減らす|選択肢が多いと決められません。一品ずつが原則
  • テーブルの上を片づける|調味料、新聞、薬。視野に入るものを減らします
  • いつもの席、いつもの時間|厚労省も「些細な変化、いつもと違うできごとで混乱を来しやすくなる」と説明しています
ちびウルフちびウルフ

テレビを消すだけで変わることもあるんだ。今日からできるね

原因6:心理的な理由

  • 急かされている|厚労省は「急がせないことが大切」と明記しています。介護者の焦りは伝わります
  • じっと見られている|監視されている感覚になります。一緒に食べるのがいちばんよい
  • こぼすのが恥ずかしい|エプロンを嫌がるのはこれです。汚れが目立たない色のものにする、テーブルを拭きやすくするなど、指摘せずに済む形にします
  • 介助されたくない|手を添えるだけにする、最初の一口だけ手伝う
  • 食事の時間が苦痛になっている|前回叱られた記憶が残っています。内容は忘れても、嫌だった感覚は残ります
リハウルフリハウルフ

「早く食べて」と言い続けた食卓は、本人にとって嫌な場所になります。1回の食事量を取りにいくと、次の10回を失う。入浴と同じ構図です。

原因7:生活リズム

  • 日中の活動量が少ないと、空腹感が湧きません。散歩やデイサービスの利用で変わることがあります
  • 間食が多くないか確認します。本人が食べたことを忘れて食べている場合もあります
  • 昼夜逆転していると、食事の時間に眠くなります
  • 1日3食にこだわらず、食べられるときに、食べられるものをという切り替えも必要です

食事拒否への対応方法:食べてもらう工夫

姿勢椅子に深く座り、足の裏を床につける。あごを軽く引く。あごが上がるとむせやすくなります
一口の量少なめ。スプーンは小さめのものを使う
ペース飲み込みを確認してから次の一口。急がせない
声かけ「次はお味噌汁ですよ」と、何を口に運ぶか伝える
食器縁が立ち上がってすくいやすい皿、滑り止め。自分で食べられる状態を保つことが目的です
好きなもの栄養バランスは一旦置く。食べる習慣が戻ることが先です
食後すぐ横にならない。30分程度は座って過ごす

[ポチップ③:すくいやすい介護用食器/滑り止めマット]

窒息のリスクを甘く見ない

ここは数字で示します。消費者庁が2025年12月に公表した注意喚起によると、厚生労働省の人口動態統計(令和6年)で「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死亡者数は4,383人このうち65歳以上が3,992人と、約91%を占めています。

また、窒息の原因となった食品について、炭水化物の食品が多くを占め、最も多かったのが餅とする研究や、一口当たりの窒息事故頻度でも餅が最も多いとする調査があると紹介されています。

消費者庁が示す事故防止のポイント
  • 餅は小さく切り、食べやすい大きさにする
  • お茶や汁物を飲み、喉を潤してから食べる(ただし、よく噛まないうちに流し込むのは危険)
  • 一口の量は無理なく食べられる量
  • ゆっくりとよく噛んでから飲み込む
  • 周りの人は、少なめの量を口に入れているか、しっかり噛んでいるかなど食事の様子に注意を払い、見守る

認知症の方は、「よく噛んでから飲み込む」を自分で管理しにくくなっています。正月の餅は、家族が判断してください。

ちびウルフちびウルフ

9割が高齢者なんだ。数字で見ると怖いね

食べない日が続いたら

どこまで様子を見てよいか、という質問をよく受けます。日数の一律の基準を示すことはできませんが、判断の材料は挙げられます。

  • 水分が取れているか|食事より水分が先です。飲めていないなら、日数を待たずに受診
  • 尿の量と色|量が減った、濃くなったは脱水のサイン
  • 体重の変化|週1回、同じ条件で測る。減り続けているなら受診
  • 意識の状態|ぼんやりしている、いつもより反応が鈍い場合はすぐに受診
  • 発熱の有無|食べない+発熱は、感染症や誤嚥性肺炎を疑います
迷ったら「何日まで待てるか」を自分で判断しようとしないでください。かかりつけ医、訪問看護、担当ケアマネジャーに電話して、状況を伝えてください。判断は専門職の仕事です。

[ポチップ④:栄養補助飲料(少量で栄養が取れるドリンクタイプ)]

使える専門職とサービス

訪問歯科義歯の調整、口腔ケア、口の中のトラブルの治療。通院できなくても自宅で対応してもらえます
言語聴覚士(ST)飲み込みの評価と訓練、食形態の助言。訪問リハビリや訪問看護で関われる場合があります
訪問看護全身状態の確認、脱水や便秘の評価、医師との橋渡し
管理栄養士食形態や栄養の相談。医療機関や事業所を通じて関われることがあります
訪問介護調理、食事介助。家族が付き添えない時間帯を任せられます
配食サービス市町村の事業として実施されている地域があります。安否確認を兼ねるのが大きい
通所介護(デイサービス)集団の中だと食べることがあります。活動量が増えて空腹感が戻ることも

窓口はいずれも担当ケアマネジャー、まだ認定がなければ地域包括支援センターです。

リハウルフリハウルフ

食事の問題は、家族だけで抱えると消耗が早い。「食べてくれない」は立派な相談内容です。遠慮なくケアマネジャーに言ってください。

よくある質問
何日食べなければ受診すべきですか?
日数の一律の基準はありません。食事よりも水分が取れているかが優先です。水分が取れていない、尿が減った、意識がぼんやりする、発熱がある場合は、日数にかかわらず受診してください。判断に迷う時点で、かかりつけ医か訪問看護に電話してください。
好きなものばかり食べさせてよいですか?
拒否が続いている時期は、栄養バランスより「食べる習慣を保つこと」を優先してよいと考えています。ただし持病の食事制限がある場合は別です。主治医に確認してください。
とろみ剤は自己判断で使ってよいですか?
おすすめしません。適切な濃さは人によって異なり、濃すぎると口の中に残ってかえってリスクになります。導入前に医師・言語聴覚士・訪問看護師に相談してください。
口を開けてくれません。
まず口の中の痛みを疑ってください。次に、何を口に運ぶのか伝えていない可能性があります。「お味噌汁ですよ」と声をかけ、スプーンを見せてから運びます。無理に開けさせるのは避けてください。恐怖の記憶になります。
デイでは食べるのに、家では食べません。
よくあります。集団の中では食べる流れができること、家族には遠慮が働かないこと、家では活動量が少なく空腹感が湧きにくいことなどが背景にあります。家族の対応が悪いからではありません。
まとめ
  • 「認知症だから食べない」で止めない。原因は口の中・飲み込み・体調と薬・認知機能・環境・心理・生活リズムの7つ。
  • 1〜3(口・飲み込み・体調と薬)は医療で解決できる可能性がある。ここを先に疑う。
  • むせる、食後に声がガラガラ、原因不明の発熱の繰り返しは受診サイン。誤嚥性肺炎につながる。
  • サラサラした液体がいちばんむせやすい。ただしとろみの導入は専門職に相談してから。
  • 便秘と脱水は、食欲低下の身体的原因として非常に多い。
  • テレビを消す、一品ずつ出す、柄のない食器にする。環境の調整は費用ゼロで効く。
  • 急がせない、じっと見ない、一緒に食べる。食卓を嫌な場所にしない。
  • 令和6年の「気道閉塞を生じた食物の誤えん」による死亡は4,383人、うち65歳以上が約91%。
  • 窒息の原因食品で最も多いのは餅。小さく切る、喉を潤す、一口を少なく、よく噛む、見守る。
  • 食べない日が続くときは、日数より水分・尿・体重・意識・発熱で判断する。迷ったら電話する。
  • 訪問歯科、言語聴覚士、訪問看護、配食など使える資源がある。窓口はケアマネジャー。
参考にした情報

※本記事のうち、窒息事故に関する数値と事故防止のポイントは消費者庁の公表資料(厚生労働省「人口動態統計(令和6年)」等にもとづくもの)、認知症の症状に関する記述は厚生労働省の公表資料にもとづきます。原因の分類や対応の工夫は筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくもので、効果には個人差があります。とろみ剤や食形態の変更、栄養補助食品の使用は、必ず医師・歯科医師・言語聴覚士・管理栄養士等にご相談のうえ行ってください。食事量の低下、むせ、発熱、体重減少がみられる場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。内容は2026年8月時点の情報です。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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