若年性認知症とは?症状と利用できる支援制度を解説

認知症は高齢者だけの病気ではありません。65歳未満で発症するものを若年性認知症といいます。働き盛りで発症するため、記憶の問題以前に仕事を失う・収入が途絶える・子どもの学費が払えないという、生活そのものの危機が先に来ます。
この記事では、理学療法士・介護支援専門員として在宅の現場に関わってきた立場から、若年性認知症の症状の特徴と、使える支援制度を整理します。とくに「40歳未満か、40歳以上か」で使える制度がまったく変わるという、いちばん重要な分かれ目を最初に押さえます。
- 若年性認知症の人数・原因となる病気の内訳(公的調査の数値)
- 最初に気づかれる症状と、見逃されやすい理由
- 年齢によって変わる、使える制度の全体像
- 医療費・収入・仕事、それぞれで使える具体的な支援
- どこに相談すればいいか、手続きをどの順番で進めるか
若年性認知症とは
18歳から64歳までに発症した認知症を、若年性認知症と呼びます。病気そのものが特別なわけではなく、高齢期に起こる認知症と同じ病気が、若い年代で起こったものを指します。
国の研究事業として行われた調査(2020年3月公表)では、次のような数値が示されています。
| 有病者数 | 約3.57万人(2018年時点の推計) |
|---|---|
| 有病率 | 18〜64歳人口10万人あたり50.9人 |
| 年齢との関係 | 40歳以降は、年齢が5歳上がるごとに有病率がほぼ倍増 |
| 最初に気づいた症状 | もの忘れ 66.6%/職場や家事でのミス 38.8% |
| 就労状況 | 約6割が発症時点で就労。そのうち約7割が調査時点で退職 |
最後の行が、この病気の現実を端的に表しています。発症した人の多くが、仕事を失っています。
リハウルフ「認知症になったから辞めた」んじゃなくて、制度を知らないまま辞めてしまったケースが本当に多いんだ。ここが高齢期の認知症といちばん違うところだよ。
原因となる病気の内訳
同じ調査で示された、若年性認知症の原因疾患の内訳です。
| アルツハイマー型認知症 | 52.6% |
|---|---|
| 血管性認知症 | 17.1% |
| 前頭側頭型認知症 | 9.4% |
| 頭部外傷による認知症 | 4.2% |
| レビー小体型認知症/パーキンソン病による認知症 | 4.1% |
| アルコール関連障害による認知症 | 2.8% |
高齢期と比べると、前頭側頭型・頭部外傷・アルコール関連の割合が高いのが特徴です。とくに前頭側頭型は、もの忘れより先に性格や行動の変化が出るため、職場で「態度の問題」として扱われてしまいがちです。
若年性認知症が見逃されやすい3つの理由
いちばん重要な分かれ目:40歳未満か、40歳以上か
ここが、若年性認知症の支援でもっとも大切な知識です。介護保険が使えるかどうかが、年齢で決まります。
| 年齢 | 介護保険 | 主に使うもの |
|---|---|---|
| 40歳未満 | 使えない | 障害福祉サービス、障害年金、自立支援医療 など |
| 40〜64歳 | 使える | 介護保険+障害・年金・医療の制度を併用 |
| 65歳以上 | 使える | 通常の介護保険 |
40〜64歳で介護保険が使える理由
介護保険の40歳以上65歳未満の加入者(第2号被保険者)は、国が定めた16の「特定疾病」が原因で介護が必要になった場合に限り、サービスを利用できます。そのリストの中に「初老期における認知症」が含まれています。
つまり、40歳を過ぎていれば、認知症を理由に要介護認定を申請できます。デイサービス、訪問介護、福祉用具のレンタルなど、高齢者と同じサービスが使えます。この事実を知らずに「まだ若いから介護保険は関係ない」と思い込んでいるご家族が、非常に多いです。
40歳未満の場合
介護保険は使えませんが、障害福祉サービスが利用できます。居宅介護(ホームヘルプ)、生活介護、就労継続支援などがあり、窓口は市区町村の障害福祉担当課です。「介護保険が使えない=何も使えない」ではありません。
ちびウルフ60歳でも「初老期」って言うの?なんだか失礼な名前だね。
リハウルフ言葉は古いけれど、これは法令上の正式な病名の書き方なんだ。名前に引っかかって「うちは違う」と申請しない人がいるけれど、40〜64歳の認知症はこの枠で申請できる。ここは覚えておいてほしい。
医療費を軽くする制度
自立支援医療(精神通院医療)
通院による精神科医療を継続する必要がある方の医療費の自己負担を、原則1割に軽減する制度です。所得に応じて月あたりの負担上限額も設定されます。
厚生労働省の資料では、負担上限がさらに低く設定される「重度かつ継続」の対象に、認知症等の脳機能障害が明記されています。認知症も対象になりうる制度だということです。申請先は市区町村の担当課で、指定自立支援医療機関での受診が条件になります。
精神障害者保健福祉手帳
認知症も対象になりえます。税の控除、公共交通機関の割引、公共施設の利用料減免など、自治体によって受けられる支援が異なります。障害者雇用で働く場合にも関わってきます。
高額療養費制度
医療費の自己負担が1か月の上限額を超えた場合に、超えた分が払い戻される制度です。検査や入院が重なる時期は、忘れずに申請してください。
収入を支える制度
傷病手当金
病気やケガで働けなくなったときに、健康保険から支給されるものです。協会けんぽの説明では、1日あたり、直近12か月の標準報酬月額の平均額の30分の1に相当する額の3分の2が、支給開始日から通算して1年6か月を限度に支給されます。
これは会社の健康保険に加入している人が対象です。国民健康保険にはこの制度がないのが原則です。休職して治療や検査に専念する期間の生活を支える、最初の柱になります。
障害年金
認知症も対象になりえます。会社員なら障害厚生年金、自営業などなら障害基礎年金です。
雇用保険(失業給付)
退職した場合に受けられます。病気で働けない期間は受給期間の延長ができる場合があります。ハローワークで確認してください。
仕事を続けるための選択肢
診断を受けたからといって、すぐに辞める必要はありません。取れる手はいくつもあります。
- 休職して様子を見る。就業規則で休職期間が定められているはずです。まず人事に確認を
- 配置転換・業務内容の調整。同時に複数のことをこなす業務が苦手になっても、単一の作業なら続けられる方は多くいます
- 短時間勤務への変更。疲れやすさが症状に影響することがあります
- 障害者雇用への切り替え。手帳を取得したうえで、配慮を受けながら働く形
- 就労継続支援(障害福祉サービス)。一般就労が難しくなった場合の受け皿
どこまで会社に伝えるかは難しい判断です。ただ、伝えないままミスが続けば、能力の問題として評価されます。誰にどう伝えるかも含めて、後述のコーディネーターに相談してください。
ちびウルフ会社に言ったら、結局クビになるんじゃないの?
リハウルフその不安はもっともだよ。だからいきなり職場に言う前に、まず外部の窓口に相談してほしいんだ。伝え方や、就業規則で何が使えるかを整理してから動くほうが、結果的に守られる。
相談先:まず、ここに電話を
若年性認知症支援コーディネーター
各都道府県に配置されている、若年性認知症に特化した相談員です。医療・介護・年金・就労を横断して相談できるのが強みで、「制度がバラバラでどこに聞けばいいか分からない」という状態を、まとめて引き受けてくれます。
連絡先は、都道府県の認知症施策担当課か、地域包括支援センターで教えてもらえます。
若年性認知症コールセンター
全国共通の電話相談窓口です。
受付:月〜土曜 10時〜15時(水曜は10時〜19時)/祝日・年末年始を除く
※本人・家族のほか、支援者からの相談も受け付けています。受付時間は変更される場合があるため、公式サイトで最新の情報をご確認ください。
地域包括支援センター
市町村すべてに設置されています。介護保険の申請、地域のサービスにつなぐ役割を担います。本人が行かなくても、家族だけで相談できます。
手続きを進める順番
やることが多く見えますが、順番があります。
- 診断を受ける。すべての制度は診断が起点です。認知症疾患医療センターなどの専門医療機関へ。この時点で「初診日」の記録が残ります。
- 会社を辞める前に相談する。若年性認知症支援コーディネーターかコールセンターへ。就業規則、傷病手当金、休職の可否を整理します。
- 医療費と収入の制度を申請する。自立支援医療、高額療養費、傷病手当金。障害年金は要件が複雑なので、年金事務所に確認しながら進めます。
- 介護保険(40歳以上)または障害福祉サービスを申請する。市区町村の窓口へ。認定まで1か月程度かかるので、早めに動きます。
- これからの生活を決める。お金の管理、住まい、家族の役割分担。本人が自分の意思を伝えられる時期にこそ、話し合っておくことが大切です。
家族が直面する、もうひとつの現実
制度の話とは別に、書いておきたいことがあります。
若年性認知症のご家庭では、配偶者が介護と、仕事と、子育てを同時に抱えることになります。高齢期の認知症とは、負担の質がまったく違います。子どもがまだ学生であることも珍しくありません。
私が関わったご家庭でも、配偶者の方が「自分が働かないと生活できない、でも目を離せない」という板挟みで消耗していく姿を見てきました。介護保険や障害福祉サービスは、本人のためだけの制度ではありません。家族が働き続けるための時間を確保する手段でもあります。遠慮せずに使ってください。
リハウルフ「まだ若いのにサービスを使うなんて」と遠慮する方がいるけれど、逆なんだ。若いからこそ、支える家族の人生が長く続く。早く使い始めたほうがいい。
よくある質問
40歳未満だと、介護サービスはまったく使えないのですか?
40〜64歳で介護保険を申請するとき、何か特別な手続きは必要ですか?
診断されたら、すぐに運転をやめるべきですか?
本人が診断を受け入れられません。どうすればいいですか?
子どもにはどう説明すればいいですか?
- 若年性認知症は18〜64歳で発症する認知症。推計約3.57万人(2018年時点)。
- 原因はアルツハイマー型52.6%、血管性17.1%、前頭側頭型9.4%の順。
- 発症時に就労していた人の約7割が、調査時点で退職している。
- 年齢で使える制度が変わる。40〜64歳は「初老期における認知症」で介護保険が使える。
- 40歳未満でも障害福祉サービスが使える。「何もない」わけではない。
- 医療費は自立支援医療・高額療養費、収入は傷病手当金・障害年金。
- 退職届を出す前に必ず相談する。順番を間違えると使えなくなる制度がある。
- まずは若年性認知症コールセンター(0800-100-2707)か、都道府県のコーディネーターへ。
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」(介護保険法施行令第二条に基づく16疾病。「初老期における認知症」を含む)
- 厚生労働省「若年性認知症実態調査結果概要(令和2年3月)」(日本医療研究開発機構 認知症研究開発事業による調査)
- 厚生労働省「自立支援医療」および「「重度かつ継続」の範囲」(認知症等の脳機能障害が対象に含まれる)
- 全国健康保険協会「傷病手当金」(支給額の計算方法、通算1年6か月の支給期間)
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」(相談窓口)
※本記事の制度に関する内容は、2026年8月時点の情報にもとづいています。金額・要件・受付時間は変更されることがあり、また自治体や加入している保険者によって取り扱いが異なる場合があります。実際の手続きにあたっては、必ず市区町村の窓口、年金事務所、加入先の健康保険にご確認ください。本記事は医学的な診断を行うものではありません。




