認知症予防にリハビリは効果ある?現役PTが解説

結論から書きます。「これをやれば認知症にならない」という方法は、現時点でありません。そう言い切るところから始めない記事は、信用しないでください。
そのうえで、発症を遅らせる・リスクを下げるという方向であれば、運動には国際的なガイドラインで最も高い推奨がついています。この記事では、理学療法士として16年目、訪問リハビリを主戦場にしてきた立場から、リハビリや運動が認知症予防にどこまで期待できるのか、そして現場で何が本当に続くのかを書きます。
- 国が使う「予防」という言葉の本当の意味
- WHOガイドラインでの運動の位置づけ(推奨レベルとエビデンスの強さ)
- 何を、どのくらいやればいいのか
- 運動だけでは足りない理由と、同時にやるべきこと
- 現場で「続く人」と「続かない人」の決定的な違い
- 発症したあとのリハビリは、何を目指すのか
まず、国が言う「認知症予防」の意味を知ってほしい
ここを取り違えたまま読み進めると、必ずがっかりします。
2024年12月に策定された認知症施策推進基本計画では、認知症の予防について「認知症及び軽度の認知機能の障害の発症遅延・進行予防」という表現が使われています。
・発症を遅らせる(発症遅延)
・進行をゆるやかにする(進行予防)
この2つです。ゼロにする話ではないと、国の計画がはっきり書いています。
「何をしても無駄」ということではありません。発症が5年遅れれば、その5年は自分の意思で暮らせる時間です。これは十分に大きな価値だと、私は現場で感じています。期待値を正しく持つことが、続けるための第一歩です。
リハウルフ「絶対に防げます」と言う人がいたら、まず疑ってほしい。国ですら「遅らせる」としか言っていないんだから。誠実な話は、いつも少し地味なんだ。
WHOガイドラインでの運動の位置づけ
2019年、WHOが「認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン」を公表しました。ここで身体活動は、次のように位置づけられています。
| 対象 | 推奨 | エビデンスの質 |
|---|---|---|
| 認知機能が正常な成人 | 推奨すべき(強い推奨) | 中等度 |
| 軽度認知障害(MCI)のある成人 | 推奨できる(限定的な推奨) | 低い |
正直に両方書きます。まだ認知機能が保たれている段階では、運動はガイドラインの中でもっとも強く推奨されている手段のひとつです。一方、すでにMCIの段階まで来ている場合は、推奨の強さもエビデンスの質も下がります。
これをどう読むか。私の受け止めはこうです。始めるなら早いほうがいい。ただしMCIになってからでも、やる意味がなくなるわけではない。運動には認知機能以外の恩恵(転倒予防、生活習慣病の管理、気分の改善)が確実にあるからです。
何を、どのくらいやればいいのか
特別な器具も、ジムの契約も要りません。現場で私が勧めているのは、この3つの組み合わせです。
コグニサイズという選択肢
国立長寿医療研究センターが開発したコグニサイズという取り組みがあります。cognition(認知)とexercise(運動)を組み合わせた言葉で、体を動かしながら、同時に頭を使うのが特徴です。
たとえば、足踏みをしながら1から数を数え、3の倍数のときだけ手をたたく。しりとりをしながら歩く。ポイントは「うまくできない」くらいがちょうどいいという点です。間違えるということは、それだけ頭に負荷がかかっている証拠だからです。
運動の強さは、軽く息がはずむ中強度程度。デイサービスや地域の通いの場で取り入れているところも増えています。
運動だけでは足りない
これは強調しておきます。運動だけをがんばっても、他が抜けていると効果は期待しにくいというのが、今の考え方です。
国の基本計画でも、予防に関する取り組みとして「運動習慣、適切な栄養、社会参加・心理的サポート」、そしてフレイル予防・生活習慣病予防が並べて挙げられています。運動は複数ある柱のひとつです。
| 生活習慣病の管理 | 高血圧・糖尿病・脂質異常症の治療を続ける。血管性認知症は再発予防がそのまま進行予防になる |
|---|---|
| 難聴への対応 | 国の基本計画でも「難聴の早期の気付きと対応」の促進が明記されている。聞こえないと会話が減り、活動も減る |
| 社会参加 | 人と会う予定があること自体が、外出と会話の理由になる |
| 栄養 | やせすぎ・食事量の低下はフレイルに直結する |
| 睡眠と口腔ケア | いずれも全身の状態に関わる。歯が悪いと食事量が落ちる |
ちびウルフ耳が聞こえにくいのと、認知症にどんな関係があるの?
リハウルフ会話が減るんだ。聞こえないと返事が面倒になって、集まりに行かなくなる。外出が減り、人と話さなくなり、頭を使う場面が消えていく。この連鎖が本当に大きいんだよ。
現役PTとして:続く人と続かない人の違い
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。訪問リハで多くのご家庭に入ってきて、はっきりした傾向があります。
続かない人の共通点
- 最初に張り切りすぎる。「毎日1時間歩く」と決めて、3日で終わります
- 体操が「課題」になっている。やらされ感があると、必ずやめます
- 一人でやろうとしている。誰も見ていないと、続ける理由がなくなります
- 効果をすぐ求める。1か月で変化を感じられず「意味がない」と判断してしまう
続く人の共通点
- 生活の中に混ぜている。運動のための運動ではなく、買い物、畑、犬の散歩、孫の送り迎え
- 人が関わっている。通いの場、デイサービス、体操教室。「行くと誰かがいる」が最強の継続要因
- 役割がある。町内会の当番、家事の担当。やらなければならない理由が、勝手に体を動かします
- ハードルが低い。「テレビを見ながら足踏み」程度から始めている
私が訪問先で最初に探すのは、実は運動メニューではありません。その人が「またやりたい」と思える行き先や役割です。運動そのものより、そちらのほうが結果的に活動量を増やします。
リハウルフ正直に言うとね、私が指導した体操より、週1回の畑仕事のほうが効いていると思うことは何度もあったよ。理学療法士としては複雑だけど、それが現実なんだ。
発症したあとの認知症リハビリは何を目指すのか
ここは誤解が多い部分です。認知症を発症したあとのリハビリは、認知症を治すために行うものではありません。
目指すのは、次のようなことです。
- 今できている生活動作を、できるだけ長く保つ——トイレ、着替え、入浴、調理
- 転倒を防ぐ——骨折して寝たきりになる流れを止める
- 本人が混乱しにくい環境をつくる——動線、手すりの位置、物の置き場所
- ご家族の介護負担を減らす——介助の方法、声のかけ方を一緒に考える
- 役割と楽しみを残す——洗濯物をたたむ、花に水をやる。できることを奪わない
訪問リハビリで私が実際にやっているのは、机上の訓練よりその家の生活そのものへの介入です。台所に立てるように動線を変える。デイに行く日の準備を一緒にする。「リハビリの時間」だけを切り出しても、生活は変わりません。
ちびウルフ認知症になったら、リハビリはもう意味がないってこと?
リハウルフまったく逆だよ。目的が変わるだけなんだ。治すためじゃなく、今の暮らしを1日でも長く続けるため。転ばないため。家族が倒れないため。やることは山ほどある。
介護保険で使えるリハビリ・運動の場
| 通所リハビリテーション | いわゆるデイケア。医師の指示のもと、リハ専門職がいる。要介護認定が必要 |
|---|---|
| 訪問リハビリテーション | 自宅に理学療法士等が訪問。生活の場そのものを変えられるのが強み |
| 通所介護(デイサービス) | 機能訓練指導員による訓練。人と会う場としての価値も大きい |
| 介護予防・日常生活支援総合事業 | 認定がなくても使える体操教室など。窓口は地域包括支援センター |
| 地域の通いの場 | 住民主体のサロンや体操の集まり。市区町村が情報を持っている |
要介護認定を受けていなくても使える場があります。「まだそんな歳じゃない」と思っている段階こそ、地域包括支援センターに聞いてみてください。
「認知症に効く」とうたう商品・サービスへの注意
最後に、これは書いておかなければなりません。
国の基本計画には、「認知症予防に資するとされる民間の商品やサービスの評価の仕組みの検討」を進める、という記載があります。国が、民間商品のエビデンスを課題として認識しているということです。
- 「認知症が治る」「必ず予防できる」とうたうもの——医薬品でない限り、そうした表現は認められません
- 高額な脳トレ教材・サプリメント——費用に見合う根拠があるか、冷静に確認を
- 個人の体験談だけを根拠にしているもの——「私はこれで良くなった」は、他の人に当てはまる保証になりません
迷ったら、かかりつけ医か地域包括支援センターに聞いてください。お金をかけずにできることのほうが、圧倒的に多いです。
よくある質問
何歳から始めるのが効果的ですか?
すでに診断されていますが、運動する意味はありますか?
脳トレやパズルはどうですか?
本人が運動をいやがります。
訪問リハビリは、認知症でも使えますか?
- 「これをやれば認知症にならない」という方法はない。
- 国の計画が想定する予防は「発症遅延・進行予防」。ゼロにする話ではない。
- WHOガイドラインでは、認知機能が正常な成人への身体活動が強く推奨されている(エビデンスの質は中等度)。
- MCIの段階では推奨の強さもエビデンスも下がる。始めるなら早いほうがよい。
- 有酸素運動・筋トレ・バランス練習の3本立てが基本。持病があれば必ず医師に相談を。
- 運動だけでは足りない。生活習慣病の管理、難聴への対応、社会参加、栄養を同時に。
- 続く人は「生活に混ざっている・人がいる・役割がある」。運動メニューより行き先を探す。
- 発症後のリハビリは治すためではなく、生活を保ち、転倒を防ぎ、役割を残すために行う。
- 厚生労働省「認知症施策推進基本計画(令和6年12月)」(「発症遅延・進行予防」という予防の位置づけ、運動習慣・栄養・社会参加・難聴対応の記載、民間商品・サービスの評価の仕組みの検討)
- 国立長寿医療研究センター「認知症予防運動プログラム「コグニサイズ」」
- 世界保健機関(WHO)「認知機能低下および認知症のリスク低減のためのガイドライン」(2019年)※日本語での要約は令和元年度 厚生労働省老人保健健康増進等事業の資料を参照
※本記事の内容は2026年8月時点の情報にもとづいています。本記事は特定の運動や取り組みによって認知症の予防・治療ができることを保証するものではありません。運動を始める際は、持病や体調について必ず主治医にご相談ください。制度やサービスの利用可否は、お住まいの市区町村やケアマネジャーにご確認ください。




