「好きだった大福を持っていったら、その場で預かられた」「面会は15分までと言われた」。冷たいと感じてしまう場面ですが、施設側にも理由があります。

この記事では、理学療法士・介護支援専門員として施設と在宅の両方に関わってきた立場から、面会と差し入れのルールがどこから来ているのかを条文と通知にさかのぼって整理します。理由がわかると、交渉できる部分とできない部分が見えてきます。

この記事でわかること
  • 面会ルールに全国一律の決まりがない理由
  • 面会が「保障される方向」で定められている条文
  • いまの面会ルールの原型になった国の通知
  • 面会前に確認しておきたいこと
  • 差し入れで断られやすいものと、その理由
  • 食べ物の持ち込みが特に厳しい2つの背景
  • 喜ばれる差し入れの選び方

介護施設の面会ルールに全国一律の決まりはない

まず結論です。面会の時間、回数、人数、場所を定めた法令はありません。これらはすべて施設ごとに決められています。

ただし、面会そのものについては、運営基準に方向性が書かれています。

指定介護老人福祉施設基準 第16条第3項・第4項指定介護老人福祉施設は、常に入所者の家族との連携を図るとともに、入所者とその家族との交流等の機会を確保するよう努めなければならない

指定介護老人福祉施設は、入所者の外出の機会を確保するよう努めなければならない

同じ規定が老健にもあります(介護老人保健施設基準 第21条第2項、ユニット型は第46条第2項)。つまり制度上は「家族と会えるようにするのが施設の努力義務」であって、面会は原則として認められる方向で設計されています。

では、ルールはどこで決まっているのか

施設ごとのルールが置かれる場所は決まっています。運営規程です。

指定介護老人福祉施設基準 第23条(運営規程)指定介護老人福祉施設は、次に掲げる施設の運営についての重要事項に関する規程を定めておかなければならない。
一 施設の目的及び運営の方針/二 従業者の職種、員数及び職務の内容/三 入所定員/四 入所者に対する指定介護福祉施設サービスの内容及び利用料その他の費用の額/五 施設の利用に当たっての留意事項/六 緊急時等における対応方法/七 非常災害対策/八 虐待の防止のための措置に関する事項/九 その他施設の運営に関する重要事項

面会時間や持ち込みの制限は、この第5号「施設の利用に当たっての留意事項」に書かれています。運営規程は入居時に説明される書類のひとつなので、口頭で聞いた話と食い違うと感じたら、運営規程と重要事項説明書を見せてもらってください。

リハウルフリハウルフ

ここを押さえておくと話が早いです。「法律で決まっているから」と説明されたルールの多くは、実際には施設独自のルールです。だからこそ相談すれば例外が認められる余地がある。頭から諦めなくて大丈夫です。

いまの面会ルールの原型は、コロナ禍の通知にある

多くの施設で使われている「予約制」「時間制限」「別室での面会」といった型は、感染症対策として国が示した留意事項がもとになっています。令和3年7月19日付の厚生労働省老健局の事務連絡に、次のように整理されています。

項目示されていた留意事項
体調確認体温を計測してもらい、発熱が認められる場合には面会を断る
症状の確認のどの痛み、咳、倦怠感、下痢、嗅覚・味覚障害等がある場合は面会を断る
記録面会者の氏名・来訪日時・連絡先を記録しておく
人数人数を必要最小限とすること
場所寝たきりや看取り期以外の場合は居室での面会は避け、換気可能な別室で行う
飲食面会場所での飲食は可能な限り控える。大声での会話は控える
時間・回数面会時間は必要最小限とし、1日あたりの面会回数を制限する
その他マスク着用と面会前後の手指消毒、面会後の机・椅子・ドアノブ等の清掃または消毒
ここは誤解されやすい点です上の内容は新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行する前の事務連絡です。現在これがそのまま適用されているわけではありません。移行後は各施設が地域の流行状況と入居者の状態を踏まえて判断しています。「国がまだ制限しているから」という説明は、現在は正確ではありません。

実際、国は令和5年に、面会の再開・推進のための職員向け動画とリーフレットを作成して周知しています。制限する方向ではなく、再開する方向で情報が出されているということです。

ちびウルフちびウルフ

今も制限が続いてるのは、施設の判断ってことなんだね。

リハウルフリハウルフ

そのとおりです。ただ、施設を責めないでほしいとも思います。一度クラスターが起きると、入居者の命に直結する。慎重になる理由は本物です。「制限をやめてほしい」ではなく「この条件なら会えますか」と聞くほうが、確実に前に進みます。

面会の前に確認しておきたい5つのこと

  1. 1予約が必要か|予約制の施設は多く、当日訪問では会えないことがあります
  2. 2時間帯と所要時間|入浴やリハビリの時間は避けます。本人の生活リズムが優先です
  3. 3人数の上限と子どもの同伴可否|孫を連れて行けるかは施設で分かれます
  4. 4面会場所|居室に入れるのか、共用スペースのみかで、持って行くものが変わります
  5. 5差し入れの可否|これが一番トラブルになります。事前に電話で聞くのが確実です

老人ホームへの差し入れで断られやすいもの

施設によって差はありますが、断られやすいものには共通した傾向があります。

種類断られやすいもの理由
食べ物餅、団子、こんにゃくゼリー、いか、たこ、ナッツ、パン窒息のリスクが高い
食べ物刺身、生卵、生ハム、手作り料理食中毒のリスク
食べ物果物、日持ちのしない菓子、大容量のもの保管場所と消費期限の管理ができない
飲み物アルコール類、濃いお茶・コーヒー服薬との関係、糖尿病等の治療上の制限
電気製品電気ポット、電子レンジ、ストーブ、加湿器火災・やけど・漏電のリスク
刃物類包丁、はさみ、爪切り、カミソリ事故と自傷・他害のリスク
薬・サプリ市販薬、健康食品、他院で処方された薬飲み合わせと服薬管理の問題
現金・貴重品多額の現金、通帳、印鑑、高価な指輪紛失時の責任の所在が不明確になる
その他ペット、生花(施設による)アレルギー、衛生管理、水替えの手間
断られたときの受け止め方その場で預かられても、捨てられるわけではありません。職員が管理して、状態を見ながら少量ずつ提供したり、家族が来たときに一緒に食べる形にしたりすることが多いです。「持ち帰ってください」と言われた場合も、本人の安全が理由であって、家族の気持ちを否定しているわけではないと受け取ってください。

食べ物の差し入れが特に厳しい2つの理由

理由1|窒息事故は実際に起きている

消費者庁は、人口動態調査をもとにした分析として、食物が原因の窒息による65歳以上の死亡者数は年間3,500人以上、うち80歳以上が2,500人以上としています。また、高齢者の餅による窒息死亡事故は1月に集中し、特に正月三が日に多いことも示されています。

施設で一番怖いのは、家族が差し入れたものを、職員のいないところで本人が食べてしまうことです。嚥下の状態に合わせて食事の形態を細かく調整している方ほど、リスクが跳ね上がります。

ちびウルフちびウルフ

好きだから持っていってあげたい、じゃダメなんだ……

リハウルフリハウルフ

気持ちは絶対に否定しません。だから「食べさせてあげたい」を職員に相談してほしいんです。刻む、とろみをつける、面会中に職員が見守る、少量だけにする。条件をつければ実現できることは、思っているよりずっと多い。禁止か許可かの二択にしないでください。

理由2|食中毒の防止は施設の法的義務

感染症と食中毒の防止は、運営基準で明確に義務づけられています。努力義務ではありません。

指定介護老人福祉施設基準 第27条第2項(衛生管理等)指定介護老人福祉施設は、当該指定介護老人福祉施設において感染症又は食中毒が発生し、又はまん延しないように、次の各号に掲げる措置を講じなければならない。
一 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための対策を検討する委員会をおおむね三月に一回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること。
二 感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための指針を整備すること。
三 介護職員その他の従業者に対し、感染症及び食中毒の予防及びまん延の防止のための研修並びに訓練を定期的に実施すること。

集団生活の場では、一人の食中毒が全体に広がります。手作り料理が断られやすいのは、味や気持ちの問題ではなく、製造・保管の履歴を確認できないからです。同じ理由で、開封済みのもの、消費期限の表示がないものも敬遠されます。

喜ばれる差し入れの選び方

実際に施設で歓迎されやすいのは、次のようなものです。

  • 個包装で常温保存できる菓子|1個ずつ渡せるので、職員が量を調整できます
  • 消費期限が明記された市販品|管理する側の負担が小さく、断られにくい
  • 本人の食事形態に合うもの|ゼリー、プリン、やわらかい蒸し菓子など
  • 衣類・タオル|洗濯に耐える素材で、記名できるもの
  • 写真やアルバム|認知症のある方には、言葉より効きます
  • 季節を感じるもの|小さな造花、カレンダー、手紙。生花は事前確認を
現場から一番おすすめしたいもの実は「写真」と「手紙」です。食べ物と違って制限がかからず、面会がない日も本人の手元に残ります。認知症が進んだ方でも、昔の写真には反応することが多い。職員にとっても、その方の人生を知る手がかりになり、ケアの質が変わります。

面会と差し入れで施設ともめないためのコツ

  1. 1持って行く前に電話で聞く|「これは大丈夫ですか」の一言で、ほぼ防げます
  2. 2渡すときは必ず職員に声をかける|黙って置いて帰るのが、最も事故につながります
  3. 3持ち物には名前を書く|衣類の紛失トラブルはこれで大半が防げます
  4. 4ルールの根拠を確認したいときは運営規程を見る|感情ではなく書面で話すと冷静に進みます
  5. 5納得できないときは施設の相談窓口へ|それでも解決しなければ市町村の介護保険担当課や国民健康保険団体連合会に相談できます
ちびウルフちびウルフ

まず電話で聞く。それだけで全然違うんだね。

よくある質問
面会時間が15分と決められています。法律上そんな決まりがあるのですか?
ありません。面会の時間・回数・人数を定めた法令はなく、施設の運営規程で定められた独自のルールです。逆に運営基準では、入所者とその家族との交流等の機会を確保するよう努めなければならないとされています(指定介護老人福祉施設基準第16条第3項、介護老人保健施設基準第21条第2項)。事情がある場合は相談してみてください。
いまも面会が制限されているのは国の指示ですか?
現在は各施設の判断です。新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行する前に出された事務連絡には、体温計測、人数の最小化、別室での実施といった留意事項が示されていましたが、それがそのまま現在も適用されているわけではありません。国は令和5年に面会の再開・推進のための資材を作成・周知しています。
好物のお餅を持って行きたいのですが、断られました。
餅は窒息リスクが最も高い食品のひとつです。消費者庁は、高齢者の餅による窒息死亡事故が1月に集中していると注意喚起しています。どうしてもという場合は、ごく少量にする、職員の見守りのもとで面会中に食べるなど、条件を相談してみてください。禁止か許可かではなく、条件の交渉として持ちかけるのが現実的です。
手作りの料理はなぜ断られるのですか?
味や衛生観念の問題ではなく、製造日時や保管状況を確認できないためです。施設は運営基準で、食中毒が発生・まん延しないよう委員会の開催、指針の整備、研修・訓練の実施を義務づけられています(指定介護老人福祉施設基準第27条第2項)。集団生活の場では一人の食中毒が全体に及ぶため、履歴の追えない食品は慎重に扱われます。
現金や通帳を預けたいのですが、大丈夫でしょうか。
施設によって預かりの可否と範囲が異なります。紛失時の責任の所在があいまいになりやすいため、預ける場合は必ず書面で受け渡しの記録を残してください。判断能力が低下している場合は、成年後見制度の利用を検討したほうが安全です。
まとめ
  • 面会の時間・回数・人数・場所を定めた法令はない。すべて施設ごとのルール。
  • 運営基準では、入所者とその家族との交流等の機会を確保するよう努めなければならないとされている(特養基準第16条第3項、老健基準第21条第2項、ユニット型老健第46条第2項)。
  • 特養基準第16条第4項では、外出の機会の確保も努力義務とされている。
  • 施設ごとのルールは、運営規程の「施設の利用に当たっての留意事項」に定められる(特養基準第23条第5号)。
  • 予約制・時間制限・別室での面会といった型は、新型コロナ以前ではなく感染症対策の事務連絡が原型。
  • その事務連絡は5類移行前のもので、現在そのまま適用されているわけではない。いまの制限は各施設の判断。
  • 国は令和5年に、面会の再開・推進のための職員向け資材を作成・周知している。
  • 差し入れで断られやすいのは、窒息リスクのある食品、生もの・手作り料理、アルコール、電気製品、刃物、薬、多額の現金。
  • 消費者庁の分析では、食物が原因の窒息による65歳以上の死亡者は年間3,500人以上。餅による事故は1月に集中する。
  • 食中毒の予防・まん延防止は運営基準上の義務(特養基準第27条第2項、老健基準第29条第2項)。委員会はおおむね3月に1回以上開催。
  • 喜ばれるのは、個包装の市販菓子、食事形態に合うゼリー類、記名した衣類、そして写真と手紙。
  • もめないコツは、持って行く前に電話で聞くこと、黙って置いて帰らないこと、根拠は運営規程で確認すること。
参考にした情報

※本記事の制度に関する記述は、上記の省令および事務連絡にもとづきます。条文は要旨として整理している箇所があり、正確な文言は原典をご確認ください。面会に関する事務連絡の内容は新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行する前に示されたもので、現在の各施設の取扱いを示すものではありません。窒息事故に関する数値は消費者庁が人口動態調査をもとに公表した分析によるものです。断られやすい差し入れの分類、および現場での対応に関する記述は筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづくもので、制度上の定めではありません。面会・持ち込みの具体的な取扱いは施設ごとに異なりますので、必ず入居先の運営規程・重要事項説明書をご確認ください。個別の相談は施設の相談員、担当ケアマネジャー、市町村の介護保険担当課へ。内容は2026年8月時点で確認できた情報です。

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リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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