老健の療養体制維持特別加算とは?

老健の療養体制維持特別加算は、(Ⅰ)が1日につき27単位、(Ⅱ)が1日につき57単位です。老健の加算では珍しく(Ⅱ)のほうが単位数が高く、(Ⅰ)の上位互換ではありません。両者は要件がまったく別で、対象になるのはいわゆる転換老健(介護療養型老人保健施設)だけです。
この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)、厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年厚生労働省告示第96号)、老企第40号の原文を確認して、単位数・(Ⅰ)と(Ⅱ)それぞれの要件・実務でつまずく点を整理しました。
この記事でわかること
- 老健の療養体制維持特別加算(Ⅰ)27単位・(Ⅱ)57単位という単位数
- (Ⅱ)のほうが高く、(Ⅰ)の上位区分ではないこと
- 算定できるのはその他型・療養型だけだということ
- (Ⅰ)は転換前の経緯と介護職員4対1の配置が要件だということ
- (Ⅱ)は喀痰吸引・経管栄養20%以上と認知症の重い人50%以上という要件
- (Ⅱ)の「専門医療を必要とする認知症高齢者」=自立度ランクⅣ・M
- 直近3か月の実績で判定すること
- 在宅復帰支援機能加算との関係
老健の療養体制維持特別加算とは?
療養体制維持特別加算は、介護療養型医療施設や医療保険の療養病棟から転換してできた老健について、転換前の手厚い体制を維持していることを評価する加算です。いわゆる転換老健(介護療養型老人保健施設)のための加算にあたります。
介護療養型医療施設は令和5年度末で廃止され、老健や介護医療院への転換が進みました。転換後は老健の基準で運営することになりますが、それまで担ってきた医療必要度の高い入所者を受け入れる機能まで一律に下げるわけにはいきません。この加算は、その機能を維持している施設への手当という位置づけです。
ちびウルフ(Ⅰ)を取ってから(Ⅱ)を目指す、という順番ですか。
リハウルフ違います。要件が完全に別物です。(Ⅰ)は転換前にどういう病棟だったかと介護職員の配置、(Ⅱ)は今いる入所者の状態像。関係のない2つの評価軸が、たまたま同じ名前の加算に並んでいる形です。
療養体制維持特別加算の単位数
告示第21号の介護保健施設サービスの注20に定められています。
20 イ(2)及び(3)並びにロ(2)及び(3)について、別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして、電子情報処理組織を使用する方法により、都道府県知事に対し、老健局長が定める様式による届出を行った介護老人保健施設については、当該施設基準に掲げる区分に従い、療養体制維持特別加算として、次に掲げる区分に応じ、それぞれ1日につき次に掲げる所定単位数を加算する。
イ 療養体制維持特別加算(Ⅰ) 27単位
ロ 療養体制維持特別加算(Ⅱ) 57単位
| 区分 | 単位数 | 算定頻度 | 評価している内容 |
|---|---|---|---|
| 療養体制維持特別加算(Ⅰ) | 27単位 | 1日 | 転換前の経緯と介護職員の配置 |
| 療養体制維持特別加算(Ⅱ) | 57単位 | 1日 | 入所者の医療必要度と認知症の重症度 |
(Ⅱ)のほうが高いのは要件が別だから
老健の加算は(Ⅰ)より(Ⅱ)が上位で単位数も高い、という形が多いなかで、この加算は(Ⅰ)27単位・(Ⅱ)57単位と(Ⅱ)が2倍以上です。区分の記号が段階を表していないためで、告示第96号の第61号を見ると、イとロで要件がまったく別に書かれていることが分かります。
注の冒頭が「イ(2)及び(3)並びにロ(2)及び(3)について」となっており、対象は介護保健施設サービス費(Ⅱ)(Ⅲ)等=その他型・療養型に限られます。基本型・在宅強化型では算定できません。
療養体制維持特別加算(Ⅰ)の算定要件
告示第96号の第61号イに、3つの基準が定められています。
要件1:転換前の施設の種類
次のいずれかに該当する必要があります。
- 転換を行う直前において、療養型介護療養施設サービス費(Ⅰ)、療養型経過型介護療養施設サービス費、ユニット型療養型介護療養施設サービス費、ユニット型療養型経過型介護療養施設サービス費、認知症疾患型介護療養施設サービス費(Ⅱ)またはユニット型認知症疾患型介護療養施設サービス費(Ⅱ)を算定する指定介護療養型医療施設を有する病院であった老健
- 転換を行う直前において、療養病床を有する病院(療養病棟入院基本料1の施設基準に適合するものとして届け出た病棟、または20対1配置病棟を有するものに限る)であった老健
老企第40号 3の(1)⑥ニaは、この要件の趣旨を「転換前に4対1の介護職員配置を施設基準上の要件とする介護療養施設サービス費を算定する指定介護療養型医療施設、または医療保険の療養病棟入院基本料1の施設基準に適合する病棟であったものの占める割合が2分の1以上である場合に、転換前の療養体制を維持しつつ、質の高いケアを提供するための介護職員の配置を評価する」と説明しています。
要件2:介護職員を4対1で配置
(2) 当該介護老人保健施設における看護職員又は介護職員の数のうち、介護職員の数が、常勤換算方法で、指定短期入所療養介護の利用者の数及び当該介護老人保健施設の入所者の数の合計数が四又はその端数を増すごとに一以上であること。
| 利用者等の数 | 必要な介護職員数(常勤換算) |
|---|---|
| 1〜4人 | 1以上 |
| 5〜8人 | 2以上 |
| 40人 | 10以上 |
| 80人 | 20以上 |
| 100人 | 25以上 |
老健の一般的な人員基準は看護・介護職員を合わせて3対1ですが、この加算はそのうち介護職員だけで4対1を求めています。ショートステイの利用者も分母に含める点に注意してください。
要件3:人員基準欠如でないこと
「通所介護等の算定方法第十三号に規定する基準に該当していないこと」が要件です。人員基準欠如の状態にないことを指します。
療養体制維持特別加算(Ⅱ)の算定要件
告示第96号の第61号ロは、まったく別の2つの割合要件です。
(1) 算定日が属する月の前三月間における入所者等のうち、喀痰吸引又は経管栄養が実施された者の占める割合が百分の二十以上であること。
(2) 算定日が属する月の前三月間における入所者等のうち、著しい精神症状、周辺症状又は重篤な身体疾患が見られ専門医療を必要とする認知症高齢者の占める割合が百分の五十以上であること。
| 要件 | 割合 | 判定期間 |
|---|---|---|
| 喀痰吸引または経管栄養が実施された者 | 20%以上 | 算定日が属する月の前3か月間 |
| 専門医療を必要とする認知症高齢者 | 50%以上 | 算定日が属する月の前3か月間 |
2つとも満たす必要があります。片方だけでは算定できません。
「専門医療を必要とする認知症高齢者」=自立度ランクⅣ・M
老企第40号 3の(1)⑥ニbは、この文言を次のように読み替えています。「『著しい精神症状、周辺症状又は重篤な身体疾患又は日常生活に支障を来すような症状・行動や意志疎通の困難さが頻繁に見られ、専門医療を必要とする認知症高齢者』とあるのは、認知症高齢者の日常生活自立度のランクⅣ又はMに該当する者をいう」。
認知症専門ケア加算の対象がランクⅢ・Ⅳ・Mであるのに対し、こちらはランクⅢを含みません。同じ「認知症の重い人の割合が2分の1以上」でも、母集団が違います。
ちびウルフ認知症専門ケア加算の計算をそのまま使えませんか。
リハウルフ使えません。専門ケア加算はランクⅢから数えますが、こちらはⅣとMだけです。ランクⅢの入所者が多い施設だと、専門ケア加算は満たしてこちらは満たさない、ということが普通に起こります。
療養体制維持特別加算の注意点
(Ⅰ)と(Ⅱ)の関係
告示の注は「当該施設基準に掲げる区分に従い」としており、施設基準のどちらに該当するかで区分が決まります。両方に該当する場合の扱いは告示・通知に明示がないため、指定権者に確認してください。
(Ⅱ)は毎月の判定が必要
(Ⅱ)の2つの割合要件は「算定日が属する月の前3か月間」で判定します。入退所によって割合は動くため、毎月、直近3か月の実績を集計する運用が必要です。喀痰吸引・経管栄養の実施記録と、日常生活自立度の一覧を月次で集計できる形にしておいてください。
その他型・療養型でなければ算定できない
注の冒頭が「イ(2)及び(3)並びにロ(2)及び(3)について」です。在宅復帰支援機能加算(10単位)と同じ対象で、基本型・在宅強化型に移行するとどちらも算定できなくなります。
| 加算 | 対象の類型 | 単位数 |
|---|---|---|
| 療養体制維持特別加算(Ⅰ) | その他型・療養型 | 1日27単位 |
| 療養体制維持特別加算(Ⅱ) | その他型・療養型 | 1日57単位 |
| 在宅復帰支援機能加算 | その他型・療養型 | 1日10単位 |
| 在宅復帰・在宅療養支援機能加算 | 加算型・超強化型 | 1日各51単位 |
類型を上げるかどうかは総額で比べる
その他型・療養型のまま療養体制維持特別加算(Ⅱ)57単位と在宅復帰支援機能加算10単位を取れば、1日67単位です。基本型以上に移れば基本報酬が上がり、加算型・超強化型なら在宅復帰・在宅療養支援機能加算51単位が付きますが、この2つの加算は失います。さらに多床室があれば室料相当額控除(1日26単位)の対象からも外れます。単純な比較にはならないので、基本報酬の差まで含めて試算してください。
届出が必要
告示の注は「電子情報処理組織を使用する方法により、都道府県知事に対し、老健局長が定める様式による届出を行った介護老人保健施設については」としています。届出前に算定することはできません。
療養体制維持特別加算のQ&A
なぜ(Ⅱ)のほうが単位数が高いのですか?
(Ⅰ)と(Ⅱ)は段階ではなく、要件がまったく別だからです。(Ⅰ)は転換前の経緯と介護職員の配置、(Ⅱ)は入所者の医療必要度と認知症の重症度を評価しています。
基本型でも算定できますか?
できません。注が「イ(2)及び(3)並びにロ(2)及び(3)について」としており、その他型・療養型が対象です。
介護職員4対1の分母に何を含めますか?
指定短期入所療養介護の利用者の数と、老健の入所者の数の合計です。ショートステイの利用者も含めます。
看護職員は4対1の計算に入りますか?
入りません。告示は「看護職員又は介護職員の数のうち、介護職員の数が」としており、介護職員だけで4対1を満たす必要があります。
(Ⅱ)の認知症の割合はどう数えますか?
認知症高齢者の日常生活自立度のランクⅣまたはMに該当する者です。ランクⅢは含みません。認知症専門ケア加算(ランクⅢ・Ⅳ・M)とは母集団が異なります。
喀痰吸引と経管栄養は両方必要ですか?
「喀痰吸引又は経管栄養が実施された者」なので、どちらかが実施されていれば数えます。
判定期間はいつですか?
算定日が属する月の前3か月間です。毎月、直近3か月の実績で判定します。
(Ⅰ)と(Ⅱ)を両方算定できますか?
告示は「当該施設基準に掲げる区分に従い」としており、区分に応じて算定する構造です。両方に該当する場合の扱いは指定権者に確認してください。
在宅復帰支援機能加算と併算定できますか?
いずれもその他型・療養型が対象で、告示上、相互の併算定を排除する規定は置かれていません。
まとめ
- 老健の療養体制維持特別加算は(Ⅰ)27単位・(Ⅱ)57単位(いずれも1日につき)
- (Ⅱ)のほうが単位数が高く、(Ⅰ)の上位区分ではない
- (Ⅰ)と(Ⅱ)は要件がまったく別
- 対象はその他型・療養型(介護保健施設サービス費(Ⅱ)(Ⅲ)等)=転換老健のみ
- (Ⅰ)の要件1は、転換直前が特定の介護療養施設サービス費を算定する病院、または療養病棟入院基本料1/20対1配置病棟を有する病院であったこと
- (Ⅰ)の要件2は、介護職員を常勤換算で4対1以上配置していること
- 4対1の分母にはショートステイの利用者も含める
- 看護職員は4対1の計算に含めない
- (Ⅰ)の要件3は、人員基準欠如の状態にないこと
- (Ⅱ)の要件は、前3か月間の喀痰吸引または経管栄養の実施者が20%以上
- (Ⅱ)のもう一つの要件は、専門医療を必要とする認知症高齢者が50%以上
- 「専門医療を必要とする認知症高齢者」は自立度ランクⅣまたはM(Ⅲは含まない)
- (Ⅱ)は毎月、直近3か月の実績で判定する
- 基本型以上に移行すると、この加算と在宅復帰支援機能加算の両方を失う
参考にした情報
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)介護保健施設サービス 注20
- 厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年厚生労働省告示第96号)第61号
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準等に関する留意事項について(老企第40号)3の(1)⑥ニ、8の(5)④
※本記事の単位数・算定要件は、厚生労働省の告示および通知にもとづいて整理したものです。実際の届出にあたっては原文および指定権者の解釈をご確認ください。取扱いは都道府県・市町村(指定権者)によって異なる場合があります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運用に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





