変形性膝関節症のリハビリ|筋トレとやってはいけない動作

変形性膝関節症のリハビリで最も効果が確立しているのは、大腿四頭筋(太ももの前)の筋力トレーニングです。軟骨はすり減ったら元には戻りませんが、膝を支える筋肉は何歳からでも鍛えられます。痛みを減らす現実的な方法は、ここに集約されます。
関節疾患は、要支援になった原因の第1位(19.3%/2022年国民生活基礎調査)です。「年のせいだから」で済ませていい問題ではありません。この記事では、やるべき運動とやってはいけない動作、そして医療保険のリハビリ日数のルールまでを整理しました。
この記事でわかること
- 変形性膝関節症で膝が痛くなる仕組み
- 関節疾患が要支援の原因第1位である事実
- 最優先すべき大腿四頭筋のトレーニング3種類
- 痛みがあるときでもできる運動
- やってはいけない動作・避けるべき生活習慣
- 温めるべきか冷やすべきかの判断
- 運動器リハビリテーション料の点数と150日ルール
- 手術を検討する目安と、その後のリハビリ
変形性膝関節症とは|膝が痛くなる仕組み
膝の関節は、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)が軟骨をはさんで向き合っています。この軟骨がすり減り、骨同士が近づくことで炎症や痛みが起こるのが変形性膝関節症です。
日本人に多いのは内側(O脚方向)がすり減るタイプです。歩くたびに膝の内側に体重が集中し、さらに内側が減り、O脚が進む。この悪循環が起こります。
| 段階 | 症状 |
|---|---|
| 初期 | 立ち上がりや歩き始めだけ痛い。動いていると楽になる |
| 中期 | 正座や階段が困難に。膝が完全に伸びない・曲がらない |
| 進行期 | 安静時にも痛む。夜間痛。歩ける距離が明らかに短くなる |
厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によると、介護が必要となった主な原因のうち、要支援者では「関節疾患」が19.3%で第1位です。要支援2でも19.8%で第1位。膝と腰の問題は、要介護の入口として最も大きいということです。
ちびウルフすり減った軟骨は、運動すれば戻りますか?
リハウルフ戻りません。そこは正直に言います。ただし痛みは減らせます。軟骨の状態と痛みの強さは、レントゲンほど一致しません。同じ画像でも、筋力がある人は痛くないし歩けます。狙うのは軟骨ではなく筋肉です。
最優先は大腿四頭筋のトレーニング
大腿四頭筋は、膝を伸ばす筋肉であり、着地の衝撃を吸収するブレーキでもあります。ここが弱ると、衝撃がそのまま関節に届きます。
① セッティング(膝下タオルつぶし)
最も安全で、最初にやるべき種目です。床や布団に脚を伸ばして座り(または仰向けで)、膝の下に丸めたタオルを置きます。膝でタオルを押しつぶすように力を入れ、5秒キープして緩める。これを10回×2〜3セット。
膝を動かさずに力を入れる運動なので、痛みが強い時期でも行えます。関節を動かさない=痛みを誘発しにくいのが最大の利点です。
② 脚上げ(SLR)
仰向けになり、片膝を立て、もう一方の脚を伸ばしたまま床から20〜30cm持ち上げて3秒キープ、ゆっくり下ろす。左右10回×2セット。膝を曲げずに行うのがポイントです。
腰が反ると腰痛の原因になるため、反対の膝は必ず立てておきます。
③ 椅子に座って膝伸ばし
椅子に深く座り、片脚をゆっくり水平まで伸ばして3秒止め、ゆっくり下ろす。左右10回×2セット。慣れてきたら足首に軽い重り(500g〜1kg)を付けても構いません。
勢いよく蹴り上げると効果が落ち、膝にも負担がかかります。「上げる2秒・止める3秒・下ろす3秒」で行ってください。
痛みが出る角度を避ける
変形性膝関節症では、深く曲げた位置で痛みが出ることが多いです。膝を曲げる角度が浅い範囲(0〜60度程度)で運動すれば、痛みを避けながら筋力をつけられます。「痛いからやらない」ではなく「痛くない角度でやる」が正解です。
厚労省ガイドが示す運動の効果と目安(原文より)
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」は、変形性膝関節症について次のように整理しています。
- 疼痛の改善や身体機能の改善に強いエビデンス。健康関連QOL、疾患進行抑制については中程度のエビデンス
- 有酸素運動(陸上でも水中でも)、筋トレ、柔軟性運動、Mind-body exercise(太極拳、ヨガ、気功など)いずれも疼痛軽減や身体機能向上に効果あり
- 指導下の運動では週に3回以上の実施が疼痛軽減に効果的。8〜12週で計24回以上が目安
- 運動で悪化する疼痛がある、高度の変形を有する、又は歩行や日常生活動作が不安定な人は要チェック
ここで押さえるべきは2点です。1つは、痛みの改善について「強いエビデンス」と明記されていること。運動は気休めではありません。もう1つは、効果を判定するのに8〜12週(約2〜3か月)かかるということです。2週間で変わらないからといってやめるのは早すぎます。
また、種目は限定されていません。筋トレだけでなく、水中運動や太極拳・ヨガのような運動でも効果が示されています。続けられる種目を選ぶのが正解だということです。
あわせて行いたい運動
- お尻の横(中殿筋):横向きに寝て脚を上げる、または立って横に脚を上げる。膝の内側への負担を減らします
- ふくらはぎのストレッチ:壁に手をついて片脚を後ろに引き、20秒。足首が硬いと膝で代償します
- 太もも裏(ハムストリングス)のストレッチ:座って脚を伸ばし、ゆっくり前屈して20秒
- 膝の曲げ伸ばし(可動域運動):座って痛くない範囲で。固まらせないことが目的
- 水中歩行:浮力で膝への負担が減り、痛みなく歩ける量を増やせます
筋トレ全般の考え方は高齢者の筋トレメニュー9選で詳しく解説しています。厚労省の身体活動・運動ガイド2023も、筋トレを週2〜3日、休息日をとることを推奨しています。
やってはいけない動作・生活習慣
- 正座:膝を最も深く曲げる姿勢で、関節への負担が最大になります
- 深いスクワット:膝が90度を大きく超える曲げ方は避ける
- 和式トイレ・低い椅子:立ち上がりで膝に強い力がかかります
- 階段の頻繁な上り下り:特に下りは体重の数倍の負担がかかります
- ランニング・ジャンプ:衝撃の大きい運動は膝の負担を増やします
- 痛みを我慢して歩き続ける:痛みは「今の使い方が過剰」というサインです
- 床に座る生活:立ち座りの回数と負担が増えます
最も効く生活改善は「椅子の生活にする」
床に座る生活から椅子とベッドの生活に変えるだけで、膝を深く曲げる回数が1日に何十回も減ります。運動を増やすより、負担の回数を減らすほうが早く効くケースは非常に多いです。ベッド・椅子・洋式トイレへの変更は、住宅改修や福祉用具で対応できる部分もあります。ケアマネジャーにご相談ください。
体重の影響
歩行時、膝には体重の数倍の負荷がかかるとされます。つまり体重を1kg減らせば、膝にかかる負担はその数倍分減る計算になります(確度:中=二次情報で広く示されている考え方で、厚労省が示した数値ではありません)。
ただし、極端な食事制限は高齢者には勧められません。厚労省の介護予防マニュアル第4版は、65歳以上の目標BMIの範囲を21.5〜24.9kg/m²としており、痩せすぎもリスクです。減量が必要かどうかは主治医にご確認ください。
温めるか、冷やすか
迷いやすい点なので整理します。
| 状態 | 対応 | 目安 |
|---|---|---|
| 腫れている、熱を持っている、動かすと強く痛む | 冷やす | 炎症が強い時期。15分程度 |
| こわばる、動かし始めが痛い、冷えると痛む | 温める | 慢性期。入浴、温湿布 |
判断に迷ったら「熱を持っているか」で決めてください。反対側の膝と触り比べて、明らかに熱いなら冷やす。そうでなければ温めるほうが楽になることが多いです。
腫れが強い、赤くなっている、急激に悪化したという場合は、変形性膝関節症以外の原因(感染、結晶性関節炎など)の可能性もあるため、自己判断せず受診してください。
日常動作の工夫で膝を守る
運動に加えて、毎日の動き方を変えると負担が目に見えて減ります。
階段
原則は上りは痛くないほうの足から、下りは痛いほうの足からです。下りは体重の数倍の負荷がかかるため、痛いほうの足を先に下ろし、痛くないほうの足で体を支えながら下ります。手すりは必ず使ってください。
可能なら、一段ずつ両足を揃えて降りる(二足一段)方法に切り替えてください。時間はかかりますが、膝への負担は明確に減ります。
立ち上がり
膝の痛みで立ち上がれない場合、原因は筋力だけではないことが多いです。次の3つを確認してください。
- 座面が低すぎないか:低いほど膝を深く曲げる必要があり、負担が増えます。座面の高い椅子に変えるだけで立てるようになる方がいます
- 足を引けているか:かかとが膝より後ろにないと、そもそも立ち上がれません
- 前傾できているか:頭が足より前に出るまでお辞儀をしてから立つ。垂直に立ち上がろうとすると膝に全負荷がかかります
手すりや立ち上がり補助の福祉用具も検討対象です。据置型の手すりは福祉用具貸与の対象になります。
歩き方と靴
- 歩幅を欲張らない:大股は着地の衝撃が大きくなります
- クッション性のある靴を履く:底が硬い靴、かかとがすり減った靴は衝撃が直接届きます
- 杖は痛いほうと反対の手に持つ:体重を杖に逃がせます
- 坂道・不整地は避ける:特に下り坂は膝への負担が大きくなります
膝の痛みで受診すべきサイン
変形性膝関節症だと思い込んで様子を見た結果、別の病気だったというケースがあります。次のサインがあれば受診してください。
すぐ受診すべきサイン
- 膝が赤く腫れ、熱を持ち、発熱もある(感染の可能性)
- 数日で急激に悪化した
- 膝に水が溜まって曲がらない
- けがをした覚えがあり、それ以降痛む
- 膝が「カクッ」と崩れる、引っかかって動かなくなる
- 片側だけが急に強く痛み出した
また、股関節の病気が膝の痛みとして現れることがあります。膝ばかり診ていて改善しない場合は、股関節も調べてもらってください。現場でも実際にあるパターンです。
運動器リハビリテーション料と150日ルール
医療機関でリハビリを受ける場合の制度です。診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)の原文で確認しました。
| 区分 | 点数(1単位=20分) |
|---|---|
| 運動器リハビリテーション料(Ⅰ) | 185点 |
| 運動器リハビリテーション料(Ⅱ) | 170点 |
| 運動器リハビリテーション料(Ⅲ) | 85点 |
告示の注1は、「発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から150日を限度として」算定するとしています。脳血管疾患等リハ(180日)より短く、廃用症候群リハ(120日)より長い設定です。
150日を超えた場合は、注6・注7により1月13単位に限り算定できます(入院中の要介護被保険者等は(Ⅰ)111点・(Ⅱ)102点など)。ただし「治療を継続することにより状態の改善が期待できると医学的に判断される場合」等の除外規定もあります。
起算日は「最初に診断された日」でもよい
変形性膝関節症は、発症日がはっきりしないことが多い疾患です。告示は「発症、手術若しくは急性増悪又は最初に診断された日から」としているため、診断日を起算日とできます。手術を受けた場合は手術日が起算日になります。
手術を検討する目安とその後
手術は最後の選択肢ですが、選択肢がなくなったわけではありません。
- 安静にしていても痛む、夜間に痛みで目が覚める
- 歩ける距離が生活に支障が出るほど短くなった
- 薬・注射・運動療法を続けても改善しない
- 膝の変形が進み、日常生活が大きく制限されている
主な手術には、人工膝関節置換術(TKA)、骨切り術などがあります。判断は整形外科医が行います。ただし、手術をしても筋力トレーニングは必要です。手術は痛みの原因を取り除くものであって、筋力を戻してくれるわけではありません。むしろ術後のリハビリで結果が変わります。
術後は運動器リハビリテーション料の起算日が手術日になるため、そこから150日の集中的なリハビリ期間を使えます。
手術前の筋力が、術後の回復を左右する
現場での実感として、手術前に筋力を落とし切ってしまった方ほど、術後の回復に時間がかかります。「手術するから今は運動しなくていい」ではなく、手術が決まったからこそ、痛くない範囲のセッティングや脚上げを続けてください。
よくある質問
すり減った軟骨は運動で戻りますか?
戻りません。ただし、膝を支える筋肉を鍛えることで痛みを減らし、歩ける距離を伸ばすことは可能です。レントゲン上の変形の程度と痛みの強さは、必ずしも一致しません。
膝が痛くても運動していいですか?
種目を選べば行えます。膝を動かさずに力を入れるセッティング(膝下タオルつぶし)は、痛みが強い時期でも行いやすい運動です。逆に、痛みが出る深い角度での運動は避けてください。
ウォーキングはしたほうがいいですか?
痛みが出ない範囲であれば有効です。ただし、痛みを我慢して長距離を歩くのは逆効果です。歩く前に筋力トレーニングで膝を支える準備をしてから、距離を少しずつ伸ばしてください。水中歩行なら負担を減らせます。
正座はしてはいけませんか?
避けてください。膝を最も深く曲げる姿勢で、関節への負担が最大になります。床に座る生活を椅子の生活に変えるだけでも、膝を深く曲げる回数が大幅に減ります。
温めるのと冷やすのはどちらですか?
熱を持って腫れている急性期は冷やし、こわばりや動かし始めの痛みが中心の慢性期は温めます。反対側の膝と触り比べて、明らかに熱いなら冷やしてください。
サポーターは使ったほうがいいですか?
安心感が得られ、活動量が増えるなら有用です。ただし、常時装着していると筋力が落ちる可能性があるため、外出時など必要な場面に限るのが無難です。装着方法は主治医や理学療法士に確認してください。
杖はどちらの手に持ちますか?
痛いほうと反対側の手です。反対側に持つことで、痛い膝にかかる体重を杖に逃がせます。高さの合わせ方は杖の記事で解説しています。
医療保険のリハビリは何日受けられますか?
運動器リハビリテーション料は、発症・手術・急性増悪または最初に診断された日から150日が限度です。150日を超えた場合も1月13単位までの算定が可能で、医学的に改善が期待できる場合の除外規定もあります。
手術すれば筋トレは不要になりますか?
不要にはなりません。手術は痛みの原因に対処するもので、筋力を戻すものではありません。むしろ術後のリハビリが結果を左右します。手術前に筋力を維持しておくことも重要です。
介護保険でリハビリは受けられますか?
要介護・要支援の認定があれば、訪問リハビリ・通所リハビリ・通所介護が利用できます。医療保険の150日を過ぎた後の受け皿にもなります。ケアマネジャーにご相談ください。
まとめ
- 関節疾患は要支援になった原因の第1位(19.3%・2022年国民生活基礎調査)
- すり減った軟骨は戻らないが、膝を支える筋肉は何歳でも鍛えられる
- レントゲン上の変形の程度と痛みの強さは一致しない
- 最優先は大腿四頭筋。セッティング・脚上げ・膝伸ばしの3種類
- セッティングは膝を動かさないため、痛みが強い時期でも行える
- 「痛いからやらない」ではなく「痛くない角度でやる」
- 中殿筋のトレーニングとふくらはぎのストレッチも併用する
- 正座・深いスクワット・低い椅子・和式トイレは避ける
- 床の生活を椅子の生活に変えるのが、最も効く生活改善
- 熱を持って腫れていれば冷やす、こわばりが中心なら温める
- 急激な悪化・強い腫れ・赤みがあるときは自己判断せず受診する
- 厚労省ガイドは変形性膝関節症の疼痛改善に「強いエビデンス」があるとしている
- 指導下の運動は週3回以上、8〜12週で計24回以上が目安
- 運動器リハビリテーション料は(Ⅰ)185点・(Ⅱ)170点・(Ⅲ)85点
- 算定限度は150日。起算日は「最初に診断された日」でもよい
- 150日超は1月13単位。医学的な除外規定もある
- 手術をしても筋力トレーニングは必要。術前の筋力が術後を左右する
参考にした情報
- 診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)第7部 リハビリテーション
- 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況」Ⅳ 介護の状況
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」(令和6年1月)
- 厚生労働省「介護予防マニュアル【第4版】」(令和4年3月)
※本記事の点数・算定要件は、診療報酬の算定方法(平成20年厚生労働省告示第59号)にもとづいて整理したものです。統計は厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」によります。体重と膝への負荷の関係については二次情報にもとづく整理であり、厚生労働省が示した数値ではありません。実際の運動の可否・内容は、変形の程度や合併症により異なります。必ず主治医または理学療法士にご確認ください。制度に関する記述は2026年9月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。運動の進め方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。





