介護医療院の身体拘束廃止未実施減算とは?

介護医療院の身体拘束廃止未実施減算は、所定単位数の10%減です。特養・老健・グループホームと並ぶ、最も重い水準の減算です。
基本報酬が1日1,000単位を超える区分もある介護医療院では、1人あたり1日100単位以上、月にすると3,000単位を超える影響になります。100床規模なら月30万単位です。
誤解されやすいのは減算の対象です。これは「拘束をしたこと」への罰則ではありません。記録・委員会・指針・研修という体制が整っていなければ、拘束をしていない施設でも減算されます。
この記事では、指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)介護医療院サービスの注3、厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第100号、介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)第16条・第47条の条文を確認して整理しました。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。
- 身体拘束廃止未実施減算が10%であること
- 減算の根拠が介護医療院基準第16条第5項・第6項、第47条第7項・第8項であること
- 拘束をしていなくても体制がなければ減算されること
- ユニット型には第47条という別の条文が適用されること
- 医療的なケアと身体拘束の境界が問われる場面
- 他の減算との重さの比較
ちびウルフ介護医療院では、チューブを抜かないようにミトンを使うことがありますよね。あれは拘束ですか?
リハウルフ身体的拘束等に当たり得ます。介護医療院は経管栄養、点滴、膀胱留置カテーテル、酸素療法が日常的にある施設です。「治療を続けるため」という理由で拘束が常態化しやすい環境でもあります。だからこそ、緊急やむを得ない場合の記録と、委員会での検討が重く求められています。
介護医療院の身体拘束廃止未実施減算とは?
介護医療院の身体拘束廃止未実施減算は、身体的拘束等の適正化に必要な措置を講じていない場合に、基本報酬が減額される仕組みです。
介護医療院は、医療的なケアと生活の場が重なる施設です。治療の継続を優先すれば、身体を動かせないようにする選択肢がいつでも手元にあります。点滴を抜かないように、経鼻胃管を触らないように、ベッドから降りないように。
この減算は、その判断を個人や現場任せにせず、組織として検討し記録する仕組みを持つことを求めています。減算率が10%と重いのは、その要請の強さの表れです。
身体拘束廃止未実施減算の減算率
別に厚生労働大臣が定める基準を満たさない場合は、身体拘束廃止未実施減算として、所定単位数の100分の10に相当する単位数を所定単位数から減算する。
| 基本報酬の水準 | 1日あたりの減算額 | 1人あたり月(30日) |
|---|---|---|
| 1,000単位 | 100単位 | 3,000単位 |
| 1,200単位 | 120単位 | 3,600単位 |
※端数処理は請求時の取扱いによります。100床規模なら月30万単位を超える影響になります。
身体拘束廃止未実施減算の算定要件(基準)
告示95号第100号は、介護医療院基準の第16条第5項及び第6項並びに第47条第7項及び第8項に適合していることを求めています。
| 条文 | 対象 |
|---|---|
| 第16条第5項・第6項 | 介護医療院サービスの取扱方針(従来型) |
| 第47条第7項・第8項 | ユニット型介護医療院サービスの取扱方針 |
従来型とユニット型で適用される条文が分かれています。ユニット型を持つ施設は、両方の条文を確認してください。
求められる措置
- 記録:身体的拘束等を行う場合、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録すること
- 委員会:身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、結果を従業者に周知徹底すること
- 指針:身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること
- 研修:従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること
具体的な開催頻度等は条文で確認してください。他の施設系サービスでは委員会を3か月に1回以上とする例が多いものの、介護医療院基準の該当条文の文言は原文で確認する必要があります。
身体拘束廃止未実施減算の注意点
減算の基準は「拘束の有無」ではなく「適正化のための措置を講じているか」です。
身体拘束ゼロを達成していても、委員会を開いていない、指針がない、研修をしていない、という状態なら減算されます。実地指導で最初に確認される書類のひとつです。
介護医療院で判断に迷いやすい場面
- 経管栄養や点滴のチューブ自己抜去を防ぐためのミトン・上肢固定
- 転落防止としてのベッド柵(四方を囲む場合)
- 離床センサーの使用方法(行動の制限につながる運用になっていないか)
- 向精神薬による過剰な鎮静
- 車椅子からの立ち上がりを妨げるテーブルやベルトの使用
「治療の継続のため」という理由は、緊急やむを得ない場合の要件を自動的に満たすものではありません。切迫性・非代替性・一時性の3要件で検討し、記録に残す運用が必要です。(3要件は厚生労働省の手引き等で示されてきた考え方で、上記の省令条文そのものではありません)
他の減算との比較
| 減算 | 減算額 | 根拠 |
|---|---|---|
| 身体拘束廃止未実施減算 | 所定単位数の10% | 基準第16条第5項・第6項、第47条第7項・第8項 |
| 業務継続計画未策定減算 | 所定単位数の3% | 基準第30条の2第1項 |
| 高齢者虐待防止措置未実施減算 | 所定単位数の1% | 基準第40条の2 |
| 安全管理体制未実施減算 | 1日5単位 | 基準第40条第1項 |
| 栄養管理の基準未達 | 1日14単位 | 基準第4条、第20条の2 |
身体拘束廃止未実施減算だけが桁違いに重いことがわかります。
身体拘束廃止未実施減算のQ&A
身体拘束をしていなければ減算されませんか?
されます。減算の基準は適正化のための措置(記録・委員会・指針・研修)を講じているかどうかです。
減算率はどのくらいですか?
所定単位数の10%です。介護医療院の基本報酬は高いため、金額の影響も大きくなります。
ユニット型でも同じ基準ですか?
適用される条文が異なります。従来型は第16条第5項・第6項、ユニット型は第47条第7項・第8項です。
チューブ抜去防止のミトンは拘束ですか?
身体的拘束等に当たり得ます。緊急やむを得ない場合に該当するかを検討し、態様・時間・心身の状況・理由を記録してください。
委員会の頻度は決まっていますか?
介護医療院基準の該当条文で確認してください。運用の目安は都道府県に確認することをおすすめします。
記録には何を残しますか?
身体的拘束等を行う場合、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況、緊急やむを得ない理由です。
重度認知症疾患療養体制加算に影響しますか?
します。同加算の施設基準に「届出を行った日の属する月の前3月間において、身体拘束廃止未実施減算を算定していないこと」が含まれています。
減算はいつからいつまで続きますか?
基準を満たさない場合に減算されます。適用の開始・終了の取扱いは都道府県に確認してください。
- 身体拘束廃止未実施減算は所定単位数の10%減
- 介護医療院の基本報酬は高いため、1人あたり月3,000単位を超える影響になる
- 減算の基準は拘束の有無ではなく、適正化のための措置の有無
- 従来型は基準第16条第5項・第6項、ユニット型は第47条第7項・第8項が適用される
- 求められるのは記録・委員会・指針・研修
- 経管栄養や点滴のチューブ自己抜去防止も身体的拘束等に当たり得る
- 「治療の継続のため」という理由だけでは緊急やむを得ない場合の要件を満たさない
- 重度認知症疾患療養体制加算の届出要件にも影響する
- 他の減算(BCP3%、虐待防止1%)と比べて突出して重い
- 指定施設サービス等に要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第21号)別表 介護医療院サービスの注3〜注7(全国老人保健施設協会 法令等データベース)
- 厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第100号(介護医療院サービスにおける身体拘束廃止未実施減算の基準)(厚生労働省法令等データベース)
- 介護医療院の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成30年厚生労働省令第5号)第16条、第47条
- 厚生労働大臣が定める施設基準(平成27年厚生労働省告示第96号)第68号の6(重度認知症疾患療養体制加算に係る施設基準)(厚生労働省法令等データベース)
※本記事の減算率・基準は、厚生労働省の告示・省令にもとづいて整理したものです。実際の取扱いにあたっては原文および都道府県・保険者の解釈をご確認ください。委員会の開催頻度、研修の実施頻度、身体的拘束等への該当性の判断、減算の適用期間については指定権者に確認してください。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。本文中の減算額の試算は単位数を単純に計算した概算です。該当し得る場面の例など実務に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。




