最初に、いちばん重要なことを書きます。訪問入浴介護の可否を判断する「バイタルの数値基準」は、国の法令にも通知にも存在しません。

「収縮期血圧160以上は中止」「体温37.5度以上は中止」といった数値をよく見かけますが、これらは各事業所が内規として定めているものであって、厚生労働省が示した基準ではありません。探しても見つからないのは、そもそも無いからです。

では制度は何を求めているのか。省令37号 第50条第6号が求めているのは「主治の医師の意見を確認した上で」という手続きです。つまり数値ではなく、医師の関与で担保しろという設計になっています。

この記事では、省令37号、老企第25号、老企第36号、医政発第0726005号を突き合わせて、医療的ケアがある利用者への訪問入浴の考え方を整理します。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。

この記事でわかること
  • 国が定めたバイタルの数値基準は存在しないこと
  • 制度が求めているのは「主治の医師の意見の確認」であること
  • 医療的ケアがあることだけを理由に断る根拠はないこと
  • 入浴を見合わせた場合と、清拭・部分浴を実施した場合の扱い
  • 「利用者の希望により」という要件の意味
  • 介護職員が測れる項目と、測れても判断できない範囲
  • 緊急時の対応として条文が求めていること
  • ストマ・カテーテル等がある場合に介護職員が扱える範囲
  • 事業所が中止基準を内規で持つべき理由
  • ケアプラン・訪問入浴介護計画に何を書くか

国の基準に「バイタルの数値」は書かれていない

訪問入浴介護に関する法令・通知を通して読んでも、血圧・体温・脈拍の数値基準は一切出てきません。代わりに置かれているのが、次の条文です。

(省令37号 第50条第6号)指定訪問入浴介護の提供は、一回の訪問につき、看護職員一人及び介護職員二人をもって行うものとし、これらの者のうち一人を当該サービスの提供の責任者とする。
ただし、利用者の身体の状況が安定していること等から、入浴により利用者の身体の状況等に支障を生ずるおそれがないと認められる場合においては、主治の医師の意見を確認した上で、看護職員に代えて介護職員を充てることができる。

制度が定めていること制度が定めていないこと
看護職員1人+介護職員2人という体制入浴可否のバイタル数値基準
介護職員3人にする場合の主治医の意見確認医療的ケアの有無による可否
入浴を見合わせた場合の算定の扱い疾患別の適応・禁忌
緊急時の連絡体制中止判断の具体的手順
なぜ数値基準を置かないのか

置けないからです。日常的に収縮期血圧が170ある人と、普段110の人が150を示した場合とでは、意味がまったく違います。一律の数値で切ると、前者は永久に入浴できず、後者は異常を見逃します。

だから制度は、数値ではなく「主治の医師の意見」という個別判断の仕組みを置きました。誰が判断するかを決めて、中身は個別に、という設計です。

医療的ケアがあることだけを理由に断ることはできない

省令37号 第44条(基本方針)は、訪問入浴介護を「利用者の身体の清潔の保持、心身機能の維持等を図るもの」と位置付けています。医療的ケアの有無で対象を限定する規定はありません。

また、指定居宅サービス等基準には提供拒否の禁止の規定があり、正当な理由なくサービスの提供を拒んではならないとされています(訪問入浴介護にも準用)。「胃ろうがあるから」「カテーテルが入っているから」という理由だけでは、正当な理由になりません。

  • 医療的ケアの存在そのものは、断る理由にならない
  • 問われるのは「入浴により身体の状況等に支障を生ずるおそれがあるか」
  • その判断は主治の医師の意見を軸に行う
  • 事業所として対応できない体制上の事情がある場合は、その旨を説明し代替を検討する
ちびウルフちびウルフ

胃ろうの人でも、訪問入浴できるんですか?

リハウルフリハウルフ

できます。実際、担当したケースでも胃ろうの方は普通に入浴されていました。制度上の障壁はありません。

確認すべきは「主治医が入浴について何と言っているか」だけです。造設直後なのか、安定しているのか。保護の要否はどうか。ここを聞かずに「医療的ケアがあるから無理」と言うのは、判断を放棄しているだけです。断る前に、まず聞く。順序はそれだけです。

入浴できないと判断した場合の扱い

当日、状態から入浴を見合わせた場合。老企第36号 第二の3(5)です。

実際に入浴を行った場合に算定の対象となり、入浴を見合わせた場合には算定できない。ただし、利用者の希望により清拭、部分浴を実施した場合には、所定単位数に100分の90を乗じて得た単位数を算定できる。

当日の対応算定令和6年度の単位
全身入浴を実施所定単位数1,266単位
入浴を見合わせ、利用者の希望により清拭・部分浴を実施90%1,139単位(小数点以下切り捨て)
入浴を見合わせ、清拭も部分浴も行わず帰った算定できない0

老企第25号 第三の二の3(2)①は、この場面での姿勢を明示しています。

指定訪問入浴介護の提供に当たっては、利用者の心身の状況により、訪問時に全身入浴が困難な場合は、利用者の希望により、「清しき」又は「部分浴(洗髪、陰部、足部等)」を実施するなど、適切なサービス提供に努めること。

「入浴できないから帰る」は、通知が求める姿勢ではありません。できる範囲で提供する。90%の減算は、そのための受け皿です。

「利用者の希望により」を落とさない

90%の算定要件は「利用者の希望により清拭、部分浴を実施した場合」です。事業所が一方的に清拭に切り替えた形では、条文の文言と合いません。

実務上は、「全身入浴は控えたほうがよい状態であること」を説明し、清拭・部分浴を提案し、希望を確認するという手順を踏み、その事実を記録に残してください。ここが抜けていると、90%の根拠が説明できなくなります。

介護職員が測れること、測れても判断できないこと

看護職員が同行しない日(介護職員3人)の運用に直結する部分です。医政発第0726005号(平成17年7月26日)が線を引いています。

行為介護職員が行えるか
腋下・外耳道での体温測定行える(原則として医行為ではない)
自動血圧測定器による血圧測定行える(同上)
パルスオキシメータの装着(新生児以外・入院治療の必要がない者)行える(同上)
軽微な切り傷・擦り傷・やけど等の専門的判断や技術を必要としない処置行える(同上)
測定値をもとに投薬の要否など医学的判断を行う行えない(医行為)

通知の注2は明快です。

上記1から3までに掲げる行為によって測定された数値を基に投薬の要否など医学的な判断を行うことは医行為であり、事前に示された数値の範囲外の異常値が測定された場合には医師、歯科医師又は看護職員に報告するべきものである。

注目すべきは「事前に示された数値の範囲」という表現です。通知は、数値の範囲があらかじめ示されている状態を想定しています。国が一律の基準を置かない代わりに、個別に範囲を決めておけ、という含意です。

だから事業所は中止基準を持つべき

ここが本記事の核心です。国の基準がないことは、「何も決めなくてよい」ではなく「自分たちで決めなければならない」という意味です。

  • 利用者ごとに、主治医から入浴可否の判断材料を確認する(平常時の値、注意すべき症状、中止すべき状態)
  • その内容を訪問入浴介護計画と記録に落とす
  • 範囲外の値が出た場合の連絡先と手順を明記する
  • 現場の介護職員がその場で医学的判断をしなくて済む形にする

介護職員に「この血圧なら入れてよいか」を判断させる運用は、医政発第0726005号の線を越えています。判断させないための事前設計が、事業所の責任です。

通知の注2にはもう一つ重要な留保がある

同じ注2の前段はこうです。「病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る。」

体温測定でさえ、状態次第では医行為になりうる。そして通知は、「介護サービス事業者等はサービス担当者会議の開催時等に、必要に応じて、医師、歯科医師又は看護職員に対して、そうした専門的な管理が必要な状態であるかどうか確認することが考えられる」としています。

サービス担当者会議は、この確認の場として通知が名指ししている場です。ケアマネジャーは意識して議題に上げてください。

ストマ・カテーテル等がある場合

医政発第0726005号の注1は、介護職員が行える行為をさらに列挙しています。訪問入浴に関係するものを抜き出します。

行為可否除外されるもの
ストマ装具のパウチにたまった排泄物を捨てる行える肌に接着したパウチの取り替え
自己導尿を補助するためのカテーテルの準備、体位の保持行える導尿そのもの
爪を爪切りで切る、爪ヤスリでやすりがけする行える爪の異常・周囲の化膿や炎症・糖尿病等で専門的管理が必要な場合
日常的な口腔内の刷掃・清拭行える重度の歯周病等がある場合
耳垢の除去行える耳垢塞栓の除去

パウチの排泄物を捨てることはできるが、肌に接着したパウチの取り替えはできない。訪問入浴の場面では、この境界が実際に問題になります。入浴前後にパウチをどう扱うかは、主治医・訪問看護と事前に取り決めておく事項です。

なお、喀痰吸引と経管栄養は医行為ですが、喀痰吸引等の研修を修了した介護福祉士や認定特定行為業務従事者が、登録を受けた事業所において医師の指示と看護職員との連携のもとで行う場合は実施できます。事業所として登録があるかどうかで、対応できる範囲が変わります。

緊急時の体制は条文上の義務

省令37号 第51条です。

訪問入浴介護従業者は、現に指定訪問入浴介護の提供を行っているときに利用者に病状の急変が生じた場合その他必要な場合は、速やかに主治の医師又はあらかじめ当該指定訪問入浴介護事業者が定めた協力医療機関への連絡を行う等の必要な措置を講じなければならない。

老企第25号 第三の二の3(3)は、協力医療機関について次の2点を求めています。

  • 協力医療機関は、事業の通常の実施地域内にあることが望ましい
  • 緊急時において円滑な協力を得るため、あらかじめ必要な事項を取り決めておくこと

医療的ケアのある利用者を受けるということは、この体制が実際に機能するかを問われるということです。「協力医療機関を運営規程に書いてあるだけ」では、取り決めをしたことになりません。

計画と記録に何を書くか

医療的ケアのある利用者を受ける場合、書き残すべきことは次のとおりです。

  • 主治医に、入浴の可否と留意点(保護すべき部位、避けるべき体位、中止すべき状態など)を確認する
  • 確認した内容を訪問入浴介護計画に記載し、利用者・家族に説明して同意を得る
  • 平常時のバイタルの値と、報告が必要となる範囲を計画・記録様式に明記する
  • 範囲外の値や異常を認めた場合の連絡先・連絡順序を明記する
  • 毎回の訪問で、実施内容とバイタル、判断の理由を記録する
  • 入浴を見合わせた回は、その理由と、清拭・部分浴に関する利用者の希望の確認を記録する

最後の項目が抜けている事業所が多い。90%で請求するなら、希望を確認した記録が根拠になります。

ちびウルフちびウルフ

結局、うちの事業所の「血圧160で中止」ってルールは間違いなんですか?

リハウルフリハウルフ

間違いではありません。事業所が安全のために内規を持つこと自体は、まったく問題ないし、むしろ持つべきです。

問題になるのはそれを「国の基準」だと説明することと、個別事情を無視して一律に当てはめることです。普段から160ある方に「基準なので入れません」と言い続けたら、その人は一生入浴できません。

だから内規は、一律の下限として持ちつつ、利用者ごとに主治医の意見で上書きできる形にしておくのがいい。「原則は160。ただし個別に医師の意見がある場合はそれによる」と一文入れておくだけで、運用がまったく変わります。

よくある質問

訪問入浴の中止基準は国が定めていますか?

定めていません。血圧・体温・脈拍などの数値基準は法令にも通知にも存在しません。制度が求めているのは「主治の医師の意見を確認した上で」判断することです。

「血圧160以上は中止」という基準はどこから来ていますか?

各事業所が安全のために定めた内規です。国の基準ではありません。内規を持つこと自体は問題ありませんが、個別の医師の意見で上書きできる形にしておくことが望まれます。

胃ろうがある人でも訪問入浴を利用できますか?

できます。医療的ケアの存在そのものを理由に対象から外す規定はありません。確認すべきは、入浴により身体の状況等に支障を生ずるおそれがあるかどうかについての主治医の意見です。

医療的ケアがあることを理由に断れますか?

それだけでは正当な理由になりません。指定基準には提供拒否の禁止の規定があります。事業所の体制上の事情がある場合は、その旨を説明し代替を検討してください。

当日、状態が悪く入浴できなかった場合は算定できますか?

入浴を見合わせた場合は算定できません。ただし利用者の希望により清拭または部分浴を実施した場合は、所定単位数の90%(令和6年度で1,139単位)を算定できます。

事業所の判断で清拭に切り替えた場合も90%ですか?

条文は「利用者の希望により」としています。状態を説明し、清拭・部分浴を提案して希望を確認した事実を記録に残してください。

介護職員がバイタルを測ってもよいですか?

腋下・外耳道での体温測定、自動血圧測定器による血圧測定、パルスオキシメータの装着は、原則として医行為ではないと医政発第0726005号が示しています。

介護職員が測定値をもとに入浴の可否を判断してよいですか?

測定値をもとに医学的な判断を行うことは医行為です。事前に示された数値の範囲外の値が出た場合は、医師または看護職員に報告するべきものとされています。

ストマのパウチはどこまで扱えますか?

パウチにたまった排泄物を捨てることは介護職員が行えます。肌に接着したパウチの取り替えは除かれており、行えません。

喀痰吸引が必要な人は受けられませんか?

喀痰吸引等の研修を修了した介護福祉士または認定特定行為業務従事者が、登録を受けた事業所で医師の指示と看護職員との連携のもとで行う場合は実施できます。事業所の登録の有無によります。

体温測定でも医行為になることがありますか?

あります。医政発第0726005号の注2は「病状が不安定であること等により専門的な管理が必要な場合には、医行為であるとされる場合もあり得る」としています。サービス担当者会議等で医師・看護職員に確認することが求められています。

緊急時の体制として何が必要ですか?

省令37号 第51条により、急変時は速やかに主治医または協力医療機関へ連絡する等の措置が必要です。協力医療機関は通常の事業の実施地域内にあることが望ましく、あらかじめ必要な事項を取り決めておくこととされています。

まとめ
  • 訪問入浴の可否を判断するバイタルの数値基準は、国の法令・通知に存在しない
  • 「血圧160以上は中止」等は各事業所の内規であり、国の基準ではない
  • 制度が求めているのは「主治の医師の意見を確認した上で」という手続き
  • 数値で一律に切ると、平常時から高い人が永久に入浴できなくなる
  • 医療的ケアの存在そのものを理由に対象から外す規定はない
  • 提供拒否の禁止の規定があり、それだけでは正当な理由にならない
  • 問われるのは「入浴により身体の状況等に支障を生ずるおそれがあるか」
  • 入浴を見合わせた場合は算定できない
  • 利用者の希望により清拭・部分浴を実施した場合は90%(1,139単位)
  • 通知は全身入浴が困難な場合の清拭・部分浴を積極的に位置付けている
  • 「利用者の希望により」が要件なので、希望確認の記録が必要
  • 体温測定・血圧測定・パルスオキシメータ装着は原則として医行為ではない
  • 測定値をもとに医学的判断を行うことは医行為
  • 通知は「事前に示された数値の範囲」を前提としている
  • 国の基準がないのは「決めなくてよい」ではなく「自分たちで決める」という意味
  • 利用者ごとに主治医から入浴可否の判断材料を確認する
  • その内容を訪問入浴介護計画と記録に落とす
  • 現場の介護職員がその場で医学的判断をしなくて済む形にする
  • 病状が不安定な場合は、体温測定でさえ医行為になりうる
  • サービス担当者会議は、医師・看護職員への確認の場として通知が名指ししている
  • ストマのパウチは排泄物処理まで。肌に接着したパウチの取り替えはできない
  • 喀痰吸引は研修修了と事業所登録があれば実施できる
  • 急変時は主治医または協力医療機関への速やかな連絡が条文上の義務
  • 協力医療機関とは、あらかじめ必要な事項を取り決めておく
  • 内規は持ったうえで、個別に医師の意見で上書きできる形にする
参考にした情報

※本記事の内容は、厚生労働省の省令、告示および通知にもとづいて整理したものです。実際の判断にあたっては原文および指定権者・保険者の解釈をご確認ください。本記事は「国が定めたバイタルの数値基準は存在しない」という点を、法令・通知の全文にあたって確認したうえで記載していますが、個別の医学的判断に代わるものではありません。入浴の可否は必ず主治医および看護職員の判断を仰いでください。個々の行為が医行為に当たるかどうかは利用者の状態により個別具体的に判断されるものであり、通知の一覧に載っている行為でも医行為とされる場合があります。清拭・部分浴を実施した場合の算定の取扱いは、保険者によって解釈・運用が異なる場合があります。単位数は1単位10円の地域を前提とした表記で、実際の金額は地域区分により異なります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。内規の設計や記録の残し方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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