理学療法士の資格そのものに定年はありません。定年があるのは資格ではなく、勤めている組織のほうです。そして65歳までは法律で雇用の確保が義務づけられている一方、65歳から70歳までは努力義務にとどまります。この差が、定年後の働き方を大きく分けます。

この記事では、理学療法士の定年後の働き方について、高年齢者雇用安定法の条文を確認したうえで整理しました。収入がどう変わるか、選択肢としてどこがあるか、そして50代のうちに何を準備しておくべきかを、訪問リハビリの現場に立ち続けている立場から書いています。

この記事でわかること
  • 理学療法士の資格に定年はなく、定年は組織の制度であること
  • 65歳までは雇用確保が義務、65歳以降は努力義務という違い
  • 再雇用で収入がどう変わるか
  • 定年後に選べる働き方の一覧
  • 訪問リハビリが定年後に向くと言われる理由と、実際の負担
  • 業務委託という選択肢が法律上も想定されていること
  • 50代のうちに準備しておくこと
  • 定年後に評価されるのはどんな経験か

理学療法士の定年後の働き方を左右する法律

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)が、定年の下限と、その後の扱いを定めています。

高年齢者雇用安定法 第8条(定年を定める場合の年齢)
  • 事業主がその雇用する労働者の定年(以下単に「定年」という。)の定めをする場合には、当該定年は、六十歳を下回ることができない。
高年齢者雇用安定法 第9条第1項(高年齢者雇用確保措置)
  • 定年(六十五歳未満のものに限る。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置のいずれかを講じなければならない。
  • 一 当該定年の引上げ 二 継続雇用制度の導入 三 当該定年の定めの廃止

つまり65歳までは「講じなければならない」=義務です。定年が60歳の職場でも、希望すれば65歳まで働ける仕組みが用意されているはずです。

一方、65歳から70歳については扱いが変わります。

高年齢者雇用安定法 第10条の2第1項(高年齢者就業確保措置)
  • (前略)六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。

「努めなければならない」=努力義務です。ここが分岐点で、65歳を超えて同じ職場で働けるかどうかは、法律ではなく、その組織の方針で決まります。

業務委託という選択肢も法律に書かれている 第10条の2第2項は「創業支援等措置」として、高年齢者が新たに事業を開始する場合の支援や、業務委託契約を通じた就業の確保を挙げています。つまり雇用ではない形で働き続ける道も、制度として想定されているということです。定年後に個人事業主として業務委託で関わる形は、特殊な選択ではありません。

定年後の収入はどう変わるか

再雇用になると、多くの場合で待遇が変わります。理学療法士の場合、次のような変化が起きます。

変わるもの起きやすいこと
基本給定年前の水準から下がることが多い
役職手当役職を外れるため、なくなることが多い
賞与支給がなくなる、または大幅に減る
勤務形態常勤から短時間勤務・非常勤に変わることがある
業務内容管理業務を外れ、臨床中心に戻ることが多い

収入が下がること自体は避けにくいのですが、「何が減って何が残るか」は職場によってまったく違います。賞与が残る職場と、時給制になる職場では年収が大きく変わります。定年の1〜2年前には、就業規則の再雇用の条項を必ず自分で読んでください。

理学療法士が定年後に選べる働き方

選択肢向いている人注意点
同じ職場で再雇用人間関係と業務に慣れており、体力に不安がない人役職を外れた立場での関わり方に切り替えが必要
非常勤・パートで複数掛け持ち働く日数を調整したい人移動と事務手続きの負担が増える
訪問リハビリ1人で判断でき、対人の経験が豊富な人移動・天候・体力の負担が大きい
通所リハビリ・通所介護集団の場を運営できる人送迎業務がある事業所もある
介護保険施設の機能訓練指導員生活期の関わりが得意な人臨床より生活支援の比重が高い
養成校の非常勤講師・実習指導教育に関わってきた人コマ数が限られ、収入は補助的
福祉用具・住宅改修の相談環境調整を得意としてきた人営業要素が入る
業務委託・開業自分で仕事を取れる人収入が不安定。社会保険が自己負担になる
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訪問リハビリって、定年後にちょうどいいってよく聞くけど本当?

リハウルフリハウルフ

半分本当で、半分は誤解です。臨床の経験がそのまま活きるのは事実ですし、1件ずつ完結するので自分のペースで組めます。ただ、実際にきついのはリハビリそのものではなく移動です。真夏も真冬も雨の日も自転車や車で回ります。体力の問題はここに出ます。定年後に始めるなら、件数を絞れる事業所かどうかを先に確認してください。

訪問リハビリを定年後に選ぶときの確認点

  • 1日の訪問件数の上限を相談できるか(詰め込まれると体力が持ちません)
  • 移動手段は何か(自転車か車か。冬季の路面状況も含めて)
  • 担当エリアの広さ(移動時間が長いと実働より疲れます)
  • 緊急時の連絡体制(1人で判断する場面をどこまで負うか)
  • 書類・記録の負担(訪問後の事務作業が積み上がります)
  • 非常勤で始められるか(いきなり常勤にしない)

訪問リハビリの実際の負担については訪問リハビリはきつい?9つの大変なことと続けるコツにまとめています。定年後に検討するなら、良い面だけでなくこちらも読んでから決めてください。

50代のうちに準備しておくこと

  • 就業規則の定年・再雇用の条項を読む(賞与、勤務形態、給与の決まり方)
  • 年金の受給見込み額を確認する(ねんきん定期便、年金事務所)
  • 現在の職場で65歳以降も働けるかを、制度として確認する
  • 臨床から離れている場合、戻れる状態にしておく(管理職期間が長いほど重要)
  • 地域の事業所とのつながりを保つ(定年後の仕事は紹介で決まることが多い)
  • 体力の負担が少ない働き方の候補を、2つ以上持っておく
管理職を長く務めた人ほど、臨床への戻りに苦労する 定年後は役職を外れ、臨床中心に戻ることが多くなります。ところが管理業務が長かった場合、評価や治療の手順から離れている期間も長くなっています。再雇用後に「思ったより動けない」と感じるのは、体力ではなく臨床の勘が鈍っていることが原因であることが少なくありません。50代のうちに、週に何件かでも担当を持っておくことを勧めます。

定年後に評価される経験

  • 生活期・在宅での経験(定年後の職場は生活期が中心になります)
  • 多職種と調整した経験(ケアマネジャー、医師、看護師との連携)
  • 家族対応の経験(若手が最も苦手とする領域です)
  • 新人指導・実習指導の経験(人手不足の職場ほど価値があります)
  • 制度の知識(加算の要件、書類の整え方)

定年後の採用で求められるのは、最新の治療技術より「難しい場面を任せられること」です。若手が対応に困る家族対応や、調整が必要なケースを引き受けられることが、いちばんの強みになります。

よくある質問

理学療法士の資格に定年はありますか?

ありません。定年は勤務先の制度です。高年齢者雇用安定法第8条により、定年を定める場合は60歳を下回ることができないとされています。

65歳まで必ず働けますか?

65歳未満の定年を定めている事業主には、65歳までの雇用確保措置が義務づけられています(第9条第1項)。ただし措置の内容は定年引上げ、継続雇用制度、定年廃止のいずれかで、待遇が同じとは限りません。

65歳を超えても働けますか?

65歳から70歳までの就業確保は努力義務です(第10条の2)。制度があるかどうかは職場によって異なるため、事前に確認してください。

再雇用で収入はどのくらい下がりますか?

職場によって差が大きく、一概には言えません。基本給、役職手当、賞与のどれが変わるかで結果が変わります。就業規則の再雇用の条項を確認してください。

定年後に訪問リハビリを始めるのは無理がありますか?

臨床経験は活きますが、移動の負担が想像より大きい仕事です。件数を調整できるか、担当エリアの広さはどうかを確認し、非常勤から始めることを勧めます。

業務委託で働くことはできますか?

できます。高年齢者雇用安定法第10条の2第2項は創業支援等措置として業務委託を含む形を挙げており、制度として想定されています。ただし社会保険や収入の安定は自己責任になります。

管理職のまま定年を迎えた場合、臨床に戻れますか?

戻れますが、臨床から離れていた期間が長いほど慣らしが必要です。50代のうちに担当を持ち続けておくことを勧めます。

定年後の仕事はどう探せばよいですか?

求人サイトのほか、地域の事業所とのつながりからの紹介が多くなります。現役のうちに関係を保っておくことが有効です。

年金をもらいながら働けますか?

働けますが、収入によって年金額が調整される仕組みがあります。具体的な見込みは年金事務所で確認してください。

まとめ
  • 理学療法士の資格そのものに定年はない
  • 定年を定める場合、60歳を下回れない(高年齢者雇用安定法第8条)
  • 65歳までの雇用確保は義務(第9条第1項)
  • 手段は定年引上げ、継続雇用制度、定年廃止のいずれか
  • 65歳から70歳までの就業確保は努力義務(第10条の2)
  • 65歳以降働けるかは、法律ではなく組織の方針で決まる
  • 業務委託などの創業支援等措置も法律に想定されている
  • 再雇用では基本給、役職手当、賞与、勤務形態が変わりやすい
  • 何が減って何が残るかは職場ごとに違うため、就業規則を自分で読む
  • 定年後の選択肢は、再雇用、非常勤、訪問リハ、通所、機能訓練指導員、教育、福祉用具、業務委託など
  • 訪問リハビリの負担はリハビリそのものより移動にある
  • 定年後に始めるなら件数を調整できる事業所を選び、非常勤から始める
  • 管理職が長かった人ほど、臨床の勘が鈍っていることに注意する
  • 50代のうちに担当を持ち、地域の事業所とのつながりを保つ
  • 定年後に評価されるのは、家族対応や調整といった若手が苦手な領域
参考にした情報

※本記事の法制度に関する記述は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律にもとづいて整理したものです。定年の年齢、再雇用後の待遇、65歳以降の就業制度は、勤務先の就業規則によって異なります。実際の条件は必ず勤務先にご確認ください。年金の受給額や在職中の調整については、年金事務所にご確認ください。働き方や職場選びに関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、収入や採用を保証するものではありません。2026年9月時点の情報として整理しています。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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