高齢者が骨折したとき、家族が最初に知りたいのは「いつ帰ってこられるか」です。ただ実際には、入院期間は骨折の場所より、退院後の受け入れ先が決まるかどうかで変わります。医学的に退院できる状態になっても、行き先が決まらなければ退院日は決まりません。

この記事では、高齢者の骨折における入院の流れと、期間に影響する要素を整理しました。理学療法士として急性期から在宅までの流れを見てきた立場から、家族が入院中にやっておくべきことを書いています。

この記事でわかること
  • 骨折後の入院が2段階に分かれること
  • 入院期間を決めているのは骨折そのものではないこと
  • 回復期リハビリテーション病棟に移る条件
  • 入院期間に上限が設けられている仕組み
  • 入院中に家族がやっておくべきこと
  • 「転院してください」と言われる理由
  • 退院先が決まらないと何が起きるか
  • 元どおり歩けるかを左右する要素

高齢者の骨折の入院期間はどう決まるか

高齢者の骨折で入院が長くなりやすいのは、大腿骨の付け根(大腿骨頸部・転子部)の骨折と、背骨の圧迫骨折です。日本整形外科学会は、大腿骨頚部骨折について次のように説明しています。

日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」より
  • 大腿骨頸部骨折では股関節部(脚の付け根)に痛みがあり、ほとんどの場合、立つことや歩くことができなくなります。
  • 本邦でも年間10数万人が受傷し、多くの方が骨折を契機に寝たきり、閉じこもりになってしまうので社会問題となっています。

つまりこの骨折は、治療そのものより「その後の生活に戻れるか」が問題になるけがです。入院期間もその視点で組み立てられます。

入院は2段階に分かれる

段階目的おもなこと
急性期の病院治療(手術)と全身状態の安定手術、痛みの管理、合併症の予防、リハビリの開始
回復期リハビリテーション病棟生活動作の回復集中的なリハビリ、退院先の調整

多くの場合、手術をした病院にずっといるわけではありません。全身状態が安定した段階で、リハビリを行う病棟や病院へ移ります。家族が「まだ歩けないのに転院と言われた」と驚くのは、この仕組みが説明されていないためです。

転院は見放されたのではない 急性期の病院は、手術と全身管理を担う場所です。リハビリを集中的に行う体制は、回復期リハビリテーション病棟のほうが整っています。リハビリの時間も、回復期のほうが長く確保されます。
つまり転院は、歩けるようになるために移るという意味です。断って急性期にとどまるほうが、結果的に不利になることがあります。

回復期リハビリテーション病棟の仕組み

回復期リハビリテーション病棟は、脳血管疾患や大腿骨頸部骨折等の患者に対して、日常生活動作の向上と家庭復帰を目的にリハビリを集中的に行う病棟です。次の点を知っておいてください。

  • 入棟できる状態(対象となる病名や状態)が定められている
  • 発症・手術からの経過日数に制限があり、時間が経ちすぎると入れない
  • 入院できる日数に上限が定められている(疾患・状態により異なります)
  • 上限まで必ずいられるわけではなく、目標を達成すれば退院となる

上限日数は診療報酬上のルールとして疾患ごとに定められています。具体的な日数は病院によって説明が異なることがあるため、入棟の際に必ず確認してください。「いつまでいられるのか」は、退院先を探し始める時期を決める重要な情報です。

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期限がくるまでに歩けるようにならなかったら、どうなるの?

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退院先を、その状態に合わせて変えることになります。自宅に手すりを付けて帰る、老健に移ってリハビリを続ける、特養を申し込む、といった選択です。ここでいちばん困るのは、期限が近づいてから探し始めた場合です。特養は待機がありますし、老健も空きが必要です。入棟したその週から動くくらいでちょうどいいです。

入院期間を延ばしてしまう要因

要因何が起きるか
退院先が決まらない医学的に退院可能でも退院日が決まらない
家族の受け入れ体制が整わない手すりの工事、介護保険の申請待ちで延びる
要介護認定が出ていないサービスを組めず、在宅に戻れない
合併症が起きた肺炎、尿路感染、せん妄などで治療が優先される
認知症があり、リハビリが進みにくい指示が入りにくく、回復に時間がかかる
もともと歩けていなかった回復の目標設定が変わる

この表で最も多いのは1行目と3行目です。つまり、医療の問題ではなく手続きと調整の問題で入院が延びているということです。ここは家族が動くことで短縮できます。

入院中に家族がやっておくこと

  • 要介護認定を申請する(未申請なら入院中に。市町村の窓口へ)
  • 病院の医療ソーシャルワーカー(相談員)に、退院後の相談をする
  • 担当のケアマネジャーを決める(いない場合は相談員に紹介を依頼する)
  • 自宅の写真を撮って持参する(玄関、トイレ、風呂、ベッド周り、廊下の幅)
  • 退院前カンファレンスへの参加を希望すると伝える
  • 介護保険負担限度額認定など、費用の制度を確認する
  • 手すりの設置など、住宅改修が必要か相談する(着工前の申請が必要です)
自宅の写真は、いちばん効く準備 リハビリの担当者は、自宅の環境を知らないまま練習を組んでいます。玄関の段差の高さ、廊下の幅、トイレまでの距離が分かるだけで、練習の内容が変わります。
「病院では歩けたのに、家では動けなかった」という事態は、環境が違うことで起こります。写真を渡すだけで、この差を小さくできます。メジャーで測った数字があればさらに有効です。

退院先の選択肢

選択肢向いている状態準備すること
自宅介助があれば生活できる。家族の受け入れが可能手すり、福祉用具、訪問サービスの手配
介護老人保健施設もう少しリハビリを続けたい要介護認定、施設の空き確認
特別養護老人ホーム在宅が難しく、長期の生活の場が必要原則要介護3以上。待機が長い
有料老人ホーム・サ高住早く入りたい。費用に余裕がある費用と退去条件の確認
いったん自宅+ショートステイ家族の負担を分散させたいケアマネジャーとの調整

施設の費用の比較は老人ホームの種類と選び方にまとめています。在宅に戻るか施設かで迷う場合は、在宅介護はもう限界?施設を考えるタイミングも参考にしてください。

元どおり歩けるかを左右する要素

  • 骨折前にどれくらい歩けていたか:これが最も影響します。骨折前が回復の上限になります
  • 手術までの日数:長く寝ている期間があるほど、体力が落ちます
  • 認知症の有無:リハビリの指示が入りにくいと、回復に時間がかかります
  • 合併症:肺炎やせん妄が起きると、リハビリが中断します
  • 退院後にリハビリを続けられるか:退院時点が最終地点ではありません

最後の項目が重要です。退院で終わりではなく、そこから半年程度は改善の余地があります。訪問リハビリや通所リハビリを退院時に組んでおくと、その後の伸びが変わります。退院してから探し始めると、空白期間ができて能力が落ちます。

よくある質問

大腿骨を骨折したら、どのくらい入院しますか?

骨折の種類だけでは決まりません。手術をした病院で全身状態を安定させた後、リハビリを行う病棟へ移るのが一般的です。実際の期間は状態と退院先の調整によって変わるため、病院の相談員に確認してください。

まだ歩けないのに転院と言われました。

急性期の病院は手術と全身管理を担う場所で、リハビリを集中的に行う体制は回復期リハビリテーション病棟のほうが整っています。転院は歩けるようになるために移るという意味です。

回復期リハビリテーション病棟に期限はありますか?

入院できる日数の上限が診療報酬上のルールとして定められており、疾患や状態により異なります。具体的な日数は入棟時に病院へ確認してください。

期限までに歩けるようにならなかったら?

状態に合わせて退院先を変えることになります。自宅に手すりを付けて帰る、老健でリハビリを続ける、特養を申し込むなどです。早めに動くことが重要です。

入院中に介護保険の申請はできますか?

できます。むしろ入院中に申請しておくべきです。認定が出ていないと退院後のサービスを組めず、退院そのものが延びます。

家族は何を準備すればよいですか?

要介護認定の申請、相談員への相談、ケアマネジャーの決定、自宅の写真の持参、退院前カンファレンスへの参加希望を伝えることです。

自宅の写真はなぜ必要ですか?

リハビリの担当者は自宅の環境を知りません。段差の高さや廊下の幅が分かると、練習の内容が変わります。「病院では歩けたのに家では動けない」を防げます。

退院したらリハビリは終わりですか?

終わりではありません。退院後も改善の余地があります。訪問リハビリや通所リハビリを退院時に組んでおくと、その後の回復が変わります。

元どおりに歩けるようになりますか?

骨折前の状態が回復の上限になります。骨折前によく歩けていた方ほど戻りやすく、もともと不安定だった方は時間がかかります。個別の見通しは主治医と理学療法士に確認してください。

まとめ
  • 入院期間は骨折の場所より、退院後の受け入れ先が決まるかで変わる
  • 大腿骨頚部骨折では、ほとんどの場合立つことも歩くこともできなくなる
  • 年間10数万人が受傷し、寝たきりの契機になることが問題視されている
  • 入院は「急性期の病院」と「回復期リハビリテーション病棟」の2段階
  • 手術した病院にずっといるわけではない
  • 転院は見放されたのではなく、リハビリの体制が整った場所へ移ること
  • 回復期リハビリテーション病棟には入院日数の上限が定められている
  • 具体的な日数は入棟時に病院へ確認する
  • 入院が延びる最大の要因は、退院先が決まらないことと認定が出ていないこと
  • 要介護認定は入院中に申請する
  • 自宅の写真を持参すると、リハビリの内容が実際の生活に近づく
  • 退院先を探し始めるのは、入棟したその週から
  • 回復の上限は、骨折前にどれくらい歩けていたか
  • 退院時点が最終地点ではなく、その後も改善の余地がある
  • 訪問リハビリや通所リハビリは、退院時に組んでおく
参考にした情報

※本記事は、日本整形外科学会の公開情報を確認したうえで、一般の方向けに入院の流れを整理したものです。医学的な診断や治療方針を示すものではありません。回復期リハビリテーション病棟の入院日数の上限は診療報酬上のルールとして疾患・状態ごとに定められていますが、本記事では具体的な日数を記載していません。適用される日数は、対象となる状態や改定によって異なるため、入院先の医療機関にご確認ください。入院期間、回復の見通し、退院先の判断は、主治医およびリハビリ担当者、医療ソーシャルワーカーにご相談ください。介護保険の手続きは市町村の窓口にご確認ください。生活面・リハビリに関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理です。2026年9月時点の情報として整理しています。

ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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