いわゆる「65歳問題」の核心は、介護保険が優先するというルールが、「介護保険しか使えない」という運用に置き換わってしまうことにあります。

制度上は違います。障害者総合支援法第7条は「介護保険法の規定による介護給付…を受け、又は利用することができるときは政令で定める限度において」行わない、と定めているだけです。介護保険で足りない部分まで打ち切る規定ではありません。

厚生労働省は令和5年6月30日の事務連絡で、この点を具体例つきで念押ししました。「介護保険サービスの支給量・内容では十分なサービスが受けられない場合には、介護給付費等を支給するなど、適切な運用に努められたい」。さらに「一定の要介護度や障害支援区分以上であること」といった画一的な基準のみで判断することは適切ではないと明言しています。

この記事では、障害者総合支援法と厚生労働省の事務連絡を突き合わせて整理しました。筆者は理学療法士16年目・介護支援専門員です。

この記事でわかること
  • 介護保険優先の法的根拠と、その限界(条文の原文)
  • 「画一的な基準だけで判断してはならない」という国の指示
  • 併給が認められる2つの典型パターン
  • 65歳以降も介護保険に移行しなくてよいサービス
  • 国が示した具体的な運用例4つ
  • 要介護認定の申請を65歳到達日の3か月前から受理できること
  • 新高額障害福祉サービス等給付費による負担軽減
  • 相談支援専門員とケアマネジャーの連携が求められていること
  • 居宅介護支援事業所等連携加算の活用
  • 共生型サービスで事業所を変えずに済む場合があること

介護保険優先の根拠は「政令で定める限度において」

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律 第7条です。

自立支援給付は、当該障害の状態につき、介護保険法の規定による介護給付、健康保険法の規定による療養の給付その他の法令に基づく給付又は事業であって政令で定めるもののうち自立支援給付に相当するものを受け、又は利用することができるときは政令で定める限度において、(中略)行わない。

  • 調整の対象は「自立支援給付に相当するもの」
  • 行わないのは「政令で定める限度において」
  • したがって相当しない部分・限度を超える部分は残る
「相当するもの」がすべての起点

条文が調整しているのは、障害福祉サービスに「相当する」介護保険サービスがある場合だけです。

訪問介護と居宅介護、通所介護と生活介護のように似た機能のサービスは相当関係にあります。しかし就労系のサービスのように介護保険に対応するものがなければ、そもそも調整は起きません。

「65歳になったら全部介護保険」ではないのは、この条文構造によります。

画一的な基準だけで判断してはならない

令和5年6月30日の厚生労働省事務連絡が、市町村の運用に踏み込んで注意しています。

申請に係る障害福祉サービスに相当する介護保険サービスにより必要な支援を受けることが可能と判断される場合であっても、当該サービスの利用について介護保険法の規定による保険給付が受けられない場合や介護保険サービスの支給量・内容では十分なサービスが受けられない場合には、介護給付費等を支給するなど、適切な運用に努められたい。

その際、障害福祉サービスの利用を認める要件として、一定の要介護度や障害支援区分以上であること、特定の障害があることなどの画一的な基準(例えば、要介護5以上でかつ障害支援区分4以上、上肢・下肢の機能の全廃、一月に利用する介護保険サービスの単位数に占める訪問介護の単位数が一定以上等)のみに基づき判断することは適切ではなく、(中略)個々の障害者の障害特性を考慮し、必要な支援が受けられるかどうかという観点についても検討した上で、支給決定を行うこと。

国が「不適切な基準」の例まで具体的に挙げているのが特徴的です。それだけ、機械的な線引きが実際に行われてきたということでもあります。

併給が認められる2つの典型

パターン内容
①保険給付が受けられないそもそも介護保険の給付対象にならない支援内容
②支給量・内容が足りない介護保険の限度額や支給の範囲では必要な量・内容に届かない

事務連絡は、この2つの場合に「介護給付費等を支給するなど、適切な運用に努められたい」としています。介護保険を使い切ったうえで、足りない分を障害福祉サービスで補うという併給が想定されています。

65歳以降も介護保険に移行しなくてよいサービス

同じ事務連絡が明示しています。

また、就労系障害福祉サービスや自立訓練(生活訓練)は障害固有のサービスであり、65歳以降も介護保険サービスに移行することなく、個々のサービスの支給決定の要件の範囲内で引き続き当該サービスの利用が可能である。

「障害固有のサービス」=介護保険に相当するものがない。したがって第7条の調整が働きません。就労継続支援や就労移行支援を利用している方が、65歳になったからといって打ち切られる理由はありません。

国が示した具体的な運用例

事務連絡は、市町村が参考にすべき運用例を4つ挙げています。

  • 居宅介護・重度訪問介護:介護保険の訪問介護の支給限度額では必要な支給量が不足する場合に、その不足分について利用を認める
  • 居宅介護・重度訪問介護:介護保険の訪問介護の支給対象とならない支援内容や時間(家事援助として認められる範囲の違い、日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守りなど)が必要と認められる場合に、訪問介護とは別に利用を認める
  • 自立訓練(機能訓練):介護保険の通所介護等では提供できない支援内容(白杖を用いた歩行訓練、意思疎通に困難を生じた場合の訓練等)が必要と認められる場合、65歳以降も引き続き利用を認める
  • 共同生活援助:個々の状況等から見て必要と認められる場合、65歳以降も引き続き利用を認める
2つ目の「見守り」に注目

介護保険の訪問介護にも「自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助」がありますが、重度訪問介護の見守りとは性格が違います。

事務連絡が挙げているのは「日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り」です。長時間そばにいて、何かあれば即応するという形の支援は、介護保険の訪問介護の枠組みでは提供できません。

重度訪問介護を利用してきた方が65歳になった場合、この点を具体的に説明できるかどうかが分かれ目になります。

ちびウルフちびウルフ

市役所に「65歳になったので介護保険だけです」と言われたら、どうすればいいですか?

リハウルフリハウルフ

まず令和5年6月30日の事務連絡の存在を伝えてください。「一律に判断するな」と国が市町村に向けて出している文書です。

そのうえで大事なのは、「足りない」を具体的に示すこと。「介護保険では不十分です」では動きません。訪問介護の限度額で足りるのは月何時間で、実際に必要なのは何時間なのか。数字にする。

事務連絡も「利用に関する具体的な内容(利用意向)を聴き取りにより把握した上で」と書いています。聴き取ってもらうには、こちらが具体的に語れる材料を持っている必要がある。相談支援専門員と一緒に整理してから行ってください。

要介護認定は65歳到達日の3か月前から申請できる

移行を円滑にするための運用です。事務連絡が示しています。

要介護認定等の申請は、(中略)65歳到達日(誕生日の前日)、特定疾病に該当する者の40歳到達日(誕生日の前日)又は適用除外施設退所日(以下「65歳到達日等」という。)の3か月前以内に要介護認定等申請を受理し、65歳到達日等に認定することを運用上の対応として可能としている。

時期できること
65歳到達日等の3か月前以内要介護認定等の申請を受理してもらえる
65歳到達日(誕生日の前日)認定される

「65歳になってから申請」では、認定結果が出るまでサービスが宙に浮きます。3か月前から動けることを知っているかどうかで、移行の混乱がまったく変わります。

事務連絡はさらに「単に案内を郵送するだけでなく、市町村職員から、又は相談支援専門員から直接、介護保険制度について説明を行うことが望ましい」としています。

負担軽減の仕組みがある

65歳問題のもう一つの側面が費用です。障害福祉サービスは低所得者の利用者負担が無料である場合が多い一方、介護保険には1割等の負担が発生します。

事務連絡は、この点への配慮を求めています。

また、介護保険制度を利用することによる利用者負担への配慮として、新高額障害福祉サービス等給付費について、対象者等に対し、制度概要の丁寧な説明を行うとともに、対象となりうる者へ個別に勧奨通知等を送付することが望ましい。

新高額障害福祉サービス等給付費は、65歳に至るまで一定期間障害福祉サービスを利用していた低所得の方について、介護保険移行後の利用者負担を軽減する仕組みです。対象になりうるのに申請していないケースがあるため、国が個別の勧奨まで求めています。

要件の詳細は市町村によって案内が異なるため、障害福祉担当課に必ず確認してください。

相談支援専門員とケアマネジャーの連携

事務連絡は、両制度の担当者の連携を具体的に求めています。

  • 相談支援専門員がモニタリングを通じて、介護保険制度に関する案内を行う
  • 本人の了解を得たうえで、サービス等利用計画に記載されている情報を居宅介護支援事業所等に提供する
  • 介護保険サービスの利用開始後も、サービス担当者会議に相談支援専門員が参加する等して情報共有と丁寧な引継ぎを行う

「指定居宅介護支援事業者等」には、小規模多機能型居宅介護や介護老人福祉施設のように、人員配置基準において介護支援専門員の配置が義務づけられている事業者を含むと注記されています。

相談支援専門員側に加算がある

事務連絡は、連携を報酬面で支える仕組みにも触れています。

「障害福祉サービス等の利用終了後であっても、6月以内において、相談支援専門員が文書による情報提供により居宅サービス計画や介護予防サービス計画の作成等に協力した場合や、月2回以上利用者の居宅を訪問して面接を行った場合、介護支援専門員等が主催した会議に参加した場合等、指定特定相談支援事業者において居宅介護支援事業所等連携加算が算定できる場合があるので、活用されたい。」

ケアマネジャーの側から、相談支援専門員に会議への参加を依頼してよいということです。相手方に算定できる加算があると知っていれば、依頼のハードルが下がります。

共生型サービスで事業所を変えずに済む場合がある

事務連絡の最後の項目です。

介護保険サービスへの移行が適当な利用者がいる場合には、介護保険サービスの支給決定を行うことになるが、事業所において、共生型サービスを含む介護保険サービスの指定を受けることで、従来から利用してきた事業所による支援が継続されるよう配慮することも考えられること。

共生型サービスは、障害福祉サービスの事業所が介護保険の指定を受けやすくする仕組みです。長年通ってきた事業所が共生型の指定を取れば、65歳以降も同じ場所に通い続けられます。

移行の相談を受けたとき、「今の事業所は共生型の指定を取れないか」を確認する価値があります。

移行にあたっての進め方

  • 65歳到達日の3か月以上前から、相談支援専門員・市町村と移行の相談を始める
  • 要介護認定等の申請を、到達日の3か月前以内に行う
  • 現在利用している障害福祉サービスのうち、介護保険に相当するものとしないものを仕分ける
  • 就労系サービス・自立訓練(生活訓練)は継続できることを確認する
  • 介護保険で不足する量・内容を、時間数など具体的な数字で整理する
  • 新高額障害福祉サービス等給付費の対象になるか障害福祉担当課に確認する
  • 現在の事業所が共生型サービスの指定を取れないか相談する
  • ケアマネジャーが決まったら、サービス担当者会議に相談支援専門員の参加を依頼する

3つ目が実務の中心です。「相当するか、しないか」で仕分けると、議論が整理されます。相当しないものは調整の対象外、相当するものは量と内容が足りるかを検討する。この2段階で考えてください。

よくある質問

65歳になると障害福祉サービスは使えなくなりますか?

なりません。障害者総合支援法第7条は「政令で定める限度において」行わないとしているだけで、介護保険に相当しない部分や、量・内容が足りない部分は障害福祉サービスを利用できます。

併給が認められるのはどんな場合ですか?

介護保険の保険給付が受けられない場合と、介護保険サービスの支給量・内容では十分なサービスが受けられない場合です。厚生労働省の事務連絡が示しています。

要介護度で線引きされるのは正しいですか?

適切ではありません。事務連絡は「一定の要介護度や障害支援区分以上であること、特定の障害があることなどの画一的な基準のみに基づき判断することは適切ではない」と明記しています。

就労系のサービスは続けられますか?

続けられます。就労系障害福祉サービスや自立訓練(生活訓練)は障害固有のサービスであり、65歳以降も介護保険サービスに移行することなく利用可能とされています。

重度訪問介護は打ち切られますか?

介護保険の訪問介護の支給限度額では必要な支給量が不足する場合や、支給対象とならない支援内容(日常生活に生じる様々な介護の事態に対応するための見守り等)が必要な場合には、利用を認める運用例が示されています。

自立訓練(機能訓練)はどうですか?

白杖を用いた歩行訓練や意思疎通に困難を生じた場合の訓練など、介護保険の通所介護等では提供できない支援内容が必要と認められる場合には、65歳以降も引き続き利用を認める運用例が示されています。

グループホーム(共同生活援助)は続けられますか?

個々の状況等から見て必要と認められる場合には、65歳以降も引き続き利用を認める運用例が示されています。

要介護認定はいつ申請できますか?

65歳到達日(誕生日の前日)の3か月前以内に申請を受理し、65歳到達日に認定することが運用上可能とされています。

費用の負担が増えるのが心配です

新高額障害福祉サービス等給付費という負担軽減の仕組みがあります。国は対象となりうる者への個別の勧奨通知の送付を望ましいとしています。要件は障害福祉担当課にご確認ください。

相談支援専門員とケアマネジャーは連携しますか?

事務連絡が求めています。サービス等利用計画の情報提供や、介護保険サービス開始後のサービス担当者会議への相談支援専門員の参加などが挙げられています。

相談支援専門員に会議参加を頼んでよいですか?

問題ありません。障害福祉サービス等の利用終了後6月以内であれば、会議への参加等について指定特定相談支援事業者が居宅介護支援事業所等連携加算を算定できる場合があります。

今の事業所に通い続ける方法はありますか?

事業所が共生型サービスを含む介護保険サービスの指定を受けることで、従来から利用してきた事業所による支援が継続される場合があります。事業所に相談してみてください。

まとめ
  • 65歳になっても障害福祉サービスがすべて使えなくなるわけではない
  • 障害者総合支援法第7条は「政令で定める限度において」行わないと定めている
  • 調整の対象は「自立支援給付に相当するもの」に限られる
  • 相当するものがなければ、そもそも調整は起きない
  • 保険給付が受けられない場合は障害福祉サービスを支給しうる
  • 支給量・内容が足りない場合も同様
  • 要介護度や障害支援区分等の画一的な基準のみで判断することは適切でない
  • 国は不適切な基準の具体例まで挙げて注意している
  • 就労系障害福祉サービスは65歳以降も移行せず利用できる
  • 自立訓練(生活訓練)も同様に障害固有のサービスとされている
  • 居宅介護・重度訪問介護は、限度額で不足する分の利用を認める運用例がある
  • 訪問介護の対象外となる見守り等が必要な場合も、別に認める運用例がある
  • 自立訓練(機能訓練)は白杖歩行訓練等が必要なら継続できる運用例がある
  • 共同生活援助も必要と認められれば継続できる運用例がある
  • 要介護認定は65歳到達日の3か月前以内に申請を受理できる
  • 国は郵送だけでなく直接の説明が望ましいとしている
  • 新高額障害福祉サービス等給付費という負担軽減の仕組みがある
  • 国は対象となりうる者への個別の勧奨通知を望ましいとしている
  • 相談支援専門員とケアマネジャーの連携が求められている
  • サービス担当者会議への相談支援専門員の参加も想定されている
  • 相談支援専門員側には居宅介護支援事業所等連携加算がある
  • 共生型サービスの指定により、同じ事業所に通い続けられる場合がある
  • 「相当するか、しないか」で仕分けると議論が整理される
  • 不足を主張するときは、時間数など具体的な数字で示す
参考にした情報

※本記事の内容は、障害者総合支援法および厚生労働省の事務連絡にもとづいて整理したものです。実際の支給決定は市町村が個別に行うものであり、本記事は結果を保証するものではありません。併給の可否、障害福祉サービスの継続の可否は、個々の障害特性や必要な支援の内容にもとづいて市町村が判断します。必ず市町村の障害福祉担当課および相談支援専門員にご相談ください。新高額障害福祉サービス等給付費の要件・申請方法は市町村により案内が異なります。本文中に引用した運用例は、厚生労働省が「参考」として示したものであり、すべての市町村・すべてのケースで同じ結論になることを意味するものではありません。居宅介護支援事業所等連携加算の算定要件は障害福祉サービス等報酬の定めによります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改正により取扱いが変わる可能性があります。移行の進め方や交渉の仕方に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。

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リハウルフ
理学療法士/介護支援専門員/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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