高齢者の脱水症状|気づき方と薬の落とし穴

高齢の方の脱水は、本人が「のどが渇いた」と言わないまま進みます。そのため、気づくのはたいてい家族か介護職です。
しかも、飲む量が足りないことだけが原因ではありません。厚生労働省の指針は、脱水を起こしやすい薬をはっきり名指ししています。この記事では、指針の原文と搬送データを確認して、見つけ方と防ぎ方を整理しました。
この記事でわかること
- 高齢者の脱水が見つけにくい理由
- 家族が確認できる5つのサイン
- 脱水を起こしやすい薬(厚労省の指針)
- 食事が食べられないときに休薬が必要な薬
- 水分を控えてしまう本当の理由
- 1日にどれだけ飲めばよいか
- 受診すべき状態
- 脱水が引き起こす別の問題
高齢者の脱水が見つけにくい理由
高齢になると、次の変化が重なります。
- 体に占める水分の割合が減り、蓄えが少ない
- のどの渇きを感じにくくなる
- 腎臓が尿を濃くする力が落ち、水分が出ていきやすい
- 食事量が減ると、食べ物から入る水分も減る
- トイレを気にして自分から水分を控える
2つめが決定的です。渇きを感じないので、本人は困っていません。「水分をとってください」と言っても「飲みたくない」で終わります。
そのため、本人の訴えを待たずに、周りが確認するという方針に切り替える必要があります。
家族が確認できる脱水のサイン
特別な道具は要りません。日常の中で見るポイントです。
| 見るところ | 脱水を疑うサイン |
|---|---|
| 口の中 | 舌が乾いている、唾液がねばつく、口の中がカラカラ |
| 脇の下 | 乾いている(通常はしっとりしている) |
| 尿 | 量が減る、色が濃い、においが強い、トイレの回数が減った |
| 皮膚 | 手の甲をつまむと戻りが遅い、乾燥している |
| 体重 | 数日で1〜2kg減っている |
| 様子 | ぼんやりする、反応が鈍い、急に元気がない、微熱が続く |
いちばん確実なのは体重です。短期間で数キロ動くのは体の水分です。週に1〜2回、同じ条件で測っておくと変化が分かります。
意外と見落とされるのが脇の下です。服を着替えるときに確認できます。
そして最後の行、「ぼんやりする」。脱水はせん妄の引き金になります。急に様子がおかしいときは高齢者のせん妄|認知症との違いと家族の対応もご覧ください。
脱水を起こしやすい薬
厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」は、いくつかの薬について脱水や体液量の減少に注意するよう書いています。
指針の原文(ループ利尿薬)
「必要最小限の使用にとどめ、循環血漿量の減少が疑われる場合、中止または減量を考慮する。適宜電解質・腎機能のモニタリングを行う」(主な有害事象:腎機能低下、起立性低血圧、転倒、電解質異常)
指針の原文(SGLT2阻害薬)
「脱水や過度の体重減少、ケトアシドーシスなど様々な副作用を起こす危険性があることに留意すべきである」
「SGLT2阻害薬は脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべきである」
糖尿病の薬であるSGLT2阻害薬は、尿から糖を出す仕組みのため水分も一緒に出ていきます。利尿薬との併用について、指針は「避けるべき」と強い表現を使っています。
また、厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」も、運動時の注意として「利尿薬:脱水になりやすいので、熱中症や起立性低血圧に注意し、水分補給も心がけましょう」と書いています。
薬全般については高齢者が飲んではいけない薬はある?指針の中身をご覧ください。
食べられないときは薬を確認する
これは覚えておく価値があります。指針は、SGLT2阻害薬についてこう書いています。
指針の原文(シックデイ)
「発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する」
風邪をひいた、下痢をした、食欲がない。そういう日に、いつもどおり薬を飲み続けると危険な場合があります。
シックデイのときにどうするかは、あらかじめ主治医に確認しておいてください。「体調を崩して食べられないときは、この薬をどうすればいいですか」と聞いておくだけで違います。
これは自己判断で休薬してよいという意味ではありません。事前に方針を決めておくという話です。
ちびウルフ水分をとってって言っても、飲んでくれないんだけど。
リハウルフ「飲みたくない」の裏にはたいてい理由があります。トイレが心配、むせる、立つのがつらい。理由が分かれば対処が変わります。量より先に、そこを聞いてください。
水分を控えてしまう理由をつぶす
「飲まない」には原因があります。現場でよく見るのは次の4つです。
| 理由 | 対処 |
|---|---|
| トイレが近くなるのが嫌/間に合わない | トイレまでの動線を短く、手すりをつける。夜間はポータブルトイレも検討する |
| むせる、飲み込みにくい | とろみをつける、一口量を減らす。むせが続くなら受診・嚥下の評価 |
| コップを持つ、注ぐのがつらい | 軽いコップ、取っ手つき、ストロー。手の届く位置に置いておく |
| 忘れる | 時間を決める。声かけのタイミングを生活の中に固定する |
1つめが圧倒的に多いです。「迷惑をかけたくない」「間に合わないのが怖い」から飲まない。水分の話をする前に、トイレの環境を整えるほうが効くことがあります。
むせがある場合は、無理に量を増やすと誤嚥性肺炎のリスクになります。誤嚥性肺炎のリハビリと予防|口腔ケアと食事の工夫をご覧ください。
どれくらい飲めばよいか
一律の基準はありません。心臓や腎臓の病気で水分制限がある方もいます。まず主治医に目安を確認してください。
そのうえで、量より大事なのはタイミングを決めることです。次の場面で飲む形にすると、意識しなくても量が確保できます。
- 起床時
- 朝・昼・夕の食事のとき
- おやつ・お茶の時間
- 入浴の前後
- 就寝前
- 薬を飲むとき
汁物、お茶、果物、ゼリーも水分です。コップで飲む量だけを数えないでください。食事量が減っている人は、それだけで水分も減っています。
なお、アルコールとカフェインの多い飲み物は利尿作用があります。これらだけで水分を確保するのは避けてください。
隠れ脱水を早めに拾う
脱水は、ある日突然起こるわけではありません。数日かけて少しずつ進みます。その途中段階で拾えるかどうかが分かれ目です。
| 時期 | 現れ方 | できること |
|---|---|---|
| 進行しはじめ | 口の乾き、尿の色が濃い、なんとなく元気がない | 飲むタイミングを増やす。食事量も確認する |
| 進んだ状態 | 立ちくらみ、ふらつき、微熱、便が硬くなる、日中うとうとする | 主治医・訪問看護・ケアマネジャーに連絡する |
| 危険な状態 | 意識がもうろう、尿が出ない、飲めない・吐く | 受診。点滴が必要なことがある |
中段の「立ちくらみ」と「日中うとうとする」は、年のせいや寝不足として流されがちです。数日前と比べて変わったなら、それは変化です。
とくに気温が上がる時期、下痢や発熱があった後、入院・退院の直後は脱水が起こりやすい時期です。この時期だけでも体重を測る習慣をつけておくと、判断がはっきりします。
受診すべき状態
次の場合は、自宅での対応では間に合いません。
- 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い
- 半日以上、尿が出ていない
- 水分を飲めない、飲んでも吐く
- 下痢や嘔吐が続いている
- 発熱がある
- 立ち上がると強くふらつく、立てない
- 急に様子が変わった
特に「飲めない」状態は点滴が必要になることがあります。様子を見る時間帯ではありません。
脱水が引き起こす別の問題
脱水は、それ単体では終わりません。連鎖して別の症状を起こします。
| つながる症状 | 理由 |
|---|---|
| せん妄 | 脱水はせん妄の代表的な引き金の1つ |
| 便秘 | 水分が足りないと便が硬くなる |
| 転倒 | 起立性低血圧でふらつく。利尿薬が重なるとさらに |
| 足がつる | 脱水と電解質の乱れが関係する |
| 熱中症 | 暑い時期に脱水が重なると発症しやすい |
| 尿路感染 | 尿量が減ると起こりやすくなる |
熱中症について、消防庁の「令和7年(5月〜9月)の熱中症による救急搬送状況」では、年齢区分別で高齢者が全体の約57%、発生場所別では住居が約38%で最多でした。
外ではなく家の中でなっています。詳しくは高齢者の熱中症|室内で起きる理由と家族の備えをご覧ください。暑い時期は、冷房の使用とあわせて水分の確認をしてください。
便秘については高齢者の便秘|原因と薬に頼る前の対策、足がつる場合は高齢者の足がつる原因|夜のこむら返りの対処と予防をご覧ください。
よくある質問
高齢者はなぜ脱水になりやすいのですか?
体に占める水分の割合が減っていること、のどの渇きを感じにくくなること、腎臓が尿を濃くする力が落ちることなどが重なるためです。食事量の減少も影響します。
脱水はどこを見れば分かりますか?
口の中の乾き、脇の下の乾き、尿の量と色、皮膚のつまみ具合、数日での体重減少です。最も確実なのは体重の変化です。
薬が脱水の原因になりますか?
なります。指針はループ利尿薬について循環血漿量の減少が疑われる場合は中止または減量を考慮するとし、SGLT2阻害薬については脱水などの副作用を起こす危険性があるとしています。
利尿薬とSGLT2阻害薬は一緒に飲めますか?
指針は「脱水リスクの観点から利尿薬との併用は避けるべき」としています。処方されている場合は主治医に確認してください。
食欲がなくて食べられない日はどうすればいいですか?
薬によっては休薬が必要です。指針はSGLT2阻害薬について、発熱・下痢・嘔吐や食思不振で食事が十分摂れない場合は必ず休薬するとしています。事前に主治医と方針を決めておいてください。
1日にどれくらい飲めばいいですか?
一律の基準はありません。心臓や腎臓の病気で制限がある方もいます。主治医に目安を確認したうえで、時間を決めて飲む形にしてください。
水分を飲んでくれません。
「飲みたくない」の裏に理由があることが多いです。トイレが心配、むせる、コップを持ちにくい、忘れる。理由ごとに対処が変わります。
お茶やコーヒーも水分に入りますか?
水分ではありますが、カフェインの多い飲み物やアルコールには利尿作用があります。これらだけで確保するのは避けてください。汁物や果物、ゼリーも水分として数えられます。
すぐ受診すべき状態はどれですか?
意識がもうろうとしている、半日以上尿が出ない、飲めない・吐く、下痢や嘔吐が続く、発熱、立てないほどのふらつきです。
熱中症は外でなるものではないのですか?
違います。消防庁の令和7年の集計では、発生場所別で住居が約38%と最も多く、年齢区分別では高齢者が約57%を占めています。
まとめ
- 高齢者はのどの渇きを感じにくく、脱水の自覚がない
- 本人の訴えを待たず、周りが確認する
- 口の中、脇の下、尿、皮膚、体重、様子の6点を見る
- 最も確実なのは短期間の体重の変化
- ループ利尿薬は循環血漿量の減少に注意とされる
- SGLT2阻害薬は脱水などの副作用に留意とされる
- 指針はSGLT2阻害薬と利尿薬の併用を避けるべきとしている
- 食べられない日(シックデイ)の対応を事前に主治医と決めておく
- 自己判断での休薬はしない
- 飲まない理由はトイレ・むせ・持ちにくさ・忘れの4つが多い
- 水分量の目安は主治医に確認する(制限がある人もいる)
- 量より、飲むタイミングを生活の中に固定する
- 汁物・果物・ゼリーも水分として数える
- 脱水は数日かけて進む。立ちくらみや日中の眠気は途中のサイン
- 脱水はせん妄、便秘、転倒、足がつる、熱中症につながる
- 熱中症の救急搬送は高齢者が約57%、発生場所は住居が約38%で最多
参考にした情報
※薬剤に関する記述は、厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」にもとづいて整理したものです。記載された薬剤を服用しているすべての方に脱水が生じるわけではありません。本記事は特定の薬剤の中止・減量・休薬を勧めるものではなく、薬の変更・中止・休薬の判断は必ず医師が行います。シックデイの対応は、あらかじめ主治医に確認してください。水分摂取量の目安は、心疾患・腎疾患などにより制限がある場合があります。必ず主治医の指示に従ってください。脱水のサインに関する記述は一般的な観察のポイントをまとめたもので、診断は医師が行います。受診の目安に当てはまる場合は、自己判断せず医療機関を受診してください。搬送人員の数値は消防庁の令和7年確定値です。記述は2026年9月時点の内容として整理しています。





