老健の運営指導対策|診療録も対象になる確認点と準備

介護老人保健施設の運営指導は、居宅サービスとは根拠条文から違います。介護保険法第100条は、立入検査の対象に「診療録」を明記しています。老健は医師が常勤する施設であるため、診療録そのものが確認の対象になる点が、通所や訪問と決定的に異なります。
この記事では、老健の運営指導対策を、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準の原文を確認して整理しました。理学療法士として老健に関わってきた立場から、施設系ならではの確認点を書いています。全体の流れは運営指導と監査の違いを参照してください。
- 老健の運営指導は診療録も検査対象になること
- 施設サービス計画は介護支援専門員が担当すると定められていること
- アセスメントは入所者と家族への面接が義務であること
- 在宅復帰・在宅療養支援等指標で見られる記録
- 身体的拘束等の記録が必ず確認されること
- 夜勤職員の配置で指摘が出やすい理由
- リハビリの実施記録で押さえる点
- 設備の使用制限という老健特有の処分
老健の運営指導の法的根拠
- 都道府県知事又は市町村長は、必要があると認めるときは、介護老人保健施設の開設者、介護老人保健施設の管理者若しくは医師その他の従業者(中略)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ、(中略)介護老人保健施設(中略)に立ち入り、その設備若しくは診療録、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
居宅サービスの根拠である第76条には「診療録」の文言がありません。老健では、医師の記録も含めて確認されるということです。リハビリの指示、投薬、状態変化への対応が診療録に残っているかが問われます。
居宅サービスにはない、施設特有の処分です。設備基準は「一度満たせば終わり」ではなく、改修や用途変更のたびに確認が必要になります。
施設サービス計画|担当は介護支援専門員
- 介護老人保健施設の管理者は、介護支援専門員に施設サービス計画の作成に関する業務を担当させるものとする。
計画担当介護支援専門員が業務を担うことが明記されています。運営指導では、実際にその体制で運用されているかが確認されます。
アセスメントは「面接」が義務
- 計画担当介護支援専門員は、前項に規定する解決すべき課題の把握(以下「アセスメント」という。)に当たっては、入所者及びその家族に面接して行わなければならない。この場合において、計画担当介護支援専門員は、面接の趣旨を入所者及びその家族に対して十分に説明し、理解を得なければならない。
家族への面接も条文に含まれています。入所者本人にだけ聞き取り、家族には電話連絡だけという運用になっていないか確認してください。面接の日付、相手、内容の記録が必要です。
医師の治療方針にもとづくこと
基準第14条第5項は、計画の作成にあたり入所者の希望、アセスメントの結果、および医師の治療の方針にもとづくことを求めています。老健は医療提供施設であるため、ここが特徴的です。医師の治療方針が診療録に記載され、それが施設サービス計画に反映されているという流れが確認できる必要があります。
在宅復帰・在宅療養支援等指標で見られる記録
老健の基本報酬の区分を左右する指標です。報酬請求の観点から、算定根拠が重点的に確認されます。
- 在宅復帰・在宅療養支援等指標の算出根拠となる資料が残っているか
- 退所者の行き先の区分が、実態と一致しているか
- ベッド回転率の計算に用いた入退所の記録が整合しているか
- 退所前後の訪問指導、入所前後の訪問指導の実施記録があるか
- リハビリ専門職の配置が、届け出た区分の要件を満たし続けているか
- 支援相談員の配置が要件を満たしているか
指標は複数の項目の合計で決まるため、1項目の計算が誤っていると区分全体が変わり、返還額が大きくなります。加算・減算の一覧は老健の加算・減算一覧にまとめています。
ちびウルフ老健はリハビリが売りだから、リハの記録さえあれば大丈夫じゃないの?
リハウルフリハの実施記録はあっても、医師の指示と計画がつながっていないことが多いです。何分やったかは書いてあるが、誰の指示で、どの目標に対して行ったのかが追えない。運営指導で問われるのはそこです。実施時間の記録と、指示・計画・評価が一本の線で結べるかを確認してください。
身体的拘束等の記録は必ず確認される
施設系で最も重く見られる項目のひとつです。基準は、緊急やむを得ない場合を除いて身体的拘束等を行ってはならないとし、行う場合には記録を義務づけています。
- 四 第十三条第五項の規定による身体的拘束等の態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由の記録
- 態様、時間、心身の状況、緊急やむを得ない理由の4点がすべて書かれているか
- 「切迫性・非代替性・一時性」の検討過程が残っているか
- 本人・家族への説明と同意の記録があるか
- 身体的拘束適正化検討委員会の議事録があるか
- 指針が整備され、研修が定期的に実施されているか
- 解除に向けた検討の記録があるか
「同意書があるから大丈夫」ではありません。同意を得ていても、3要件の検討と解除の努力が記録されていなければ、適正な手続きとは認められません。
夜勤職員の配置
老健で指摘が出やすい実務項目です。夜勤職員基準を満たさない場合は減算の対象になります。
- 夜勤時間帯に必要な人数が配置されているか
- 勤務形態一覧表と、実際の出勤簿・タイムカードが一致しているか
- 夜勤時間帯の定義(16時間の設定)が正しいか
- 1人あたりの夜勤時間が偏りすぎていないか
- 減算に該当した月に、実際に減算して請求しているか
要件は老健の夜勤職員基準減算にまとめています。自分で減算を適用せずに請求していた場合、その分は返還になります。
その他に確認される項目
| 項目 | 確認されること |
|---|---|
| 入退所の判定 | 入所判定の記録、在宅復帰の可能性の検討記録 |
| 栄養・口腔 | 栄養ケア計画、口腔衛生の管理体制、それぞれの記録 |
| 感染症対策 | 委員会の議事録、指針、研修・訓練の記録 |
| 虐待防止 | 委員会、指針、研修、担当者の配置 |
| 業務継続計画 | 計画の策定、周知、研修および訓練の記録 |
| 事故・苦情 | 記録の整備と、再発防止の検討 |
| 会計 | 他の事業との経理の区分 |
記録の保存期間
- 介護老人保健施設は、入所者に対する介護保健施設サービスの提供に関する次の各号に掲げる記録を整備し、その完結の日から二年間保存しなければならない。
加えて、運営基準は都道府県の条例で定められており、保存期間を5年としている自治体があります。指定権者の条例と、医療関係法令の両方を確認する必要があります。
当日に提示を求められる書類
- 運営規程、重要事項説明書、契約書、入所時の同意書
- 勤務形態一覧表、出勤簿・タイムカード、資格証の写し
- 施設サービス計画(アセスメント、担当者会議、同意、交付、モニタリングの記録)
- 診療録、医師の指示に関する記録
- リハビリテーションの実施計画と実施記録
- 在宅復帰・在宅療養支援等指標の算出根拠資料
- 入退所の判定に関する記録
- 身体的拘束等の記録と、委員会の議事録・指針・研修記録
- 栄養・口腔に関する計画と記録
- 感染症対策・虐待防止・業務継続計画の委員会議事録、指針、研修・訓練記録
- 事故記録、苦情記録、会計の区分がわかる資料
よくある質問
老健の運営指導は居宅サービスと何が違いますか?
根拠条文が介護保険法第100条で、立入検査の対象に診療録が明記されています。医師の記録も含めて確認される点が大きな違いです。
施設サービス計画は誰が担当しますか?
基準第14条第1項により、管理者が介護支援専門員に作成業務を担当させるものとされています。
アセスメントは本人だけでよいですか?
いけません。基準第14条第4項は「入所者及びその家族に面接して」行うことを求めています。面接の日付、相手、内容の記録が必要です。
身体的拘束は同意書があれば問題ありませんか?
同意だけでは足りません。態様・時間・心身の状況・緊急やむを得ない理由の記録に加え、切迫性、非代替性、一時性の検討過程と、解除に向けた検討の記録が必要です。
リハビリの記録は何を残せばよいですか?
実施時間だけでなく、医師の指示、計画上の目標、評価が一本の線でつながるように残してください。実施記録だけでは指示との関係が追えません。
在宅復帰・在宅療養支援等指標で注意する点は?
算出根拠の資料が残っているかです。複数項目の合計で区分が決まるため、1項目の誤りが区分全体に影響し、返還額が大きくなります。
夜勤職員の基準を満たせなかった月はどうしますか?
減算して請求する必要があります。自ら減算せずに請求していた場合、その分は返還の対象になります。
記録の保存期間は2年でよいですか?
基準上は2年ですが、条例で5年としている自治体があります。また診療録は医師法に別の定めがあるため、両方を確認してください。
設備が基準を満たさなくなるとどうなりますか?
介護保険法第101条により、都道府県知事が設備の全部または一部の使用を制限できます。居宅サービスにはない施設特有の処分です。
- 老健の運営指導の根拠は介護保険法第100条
- 立入検査の対象に「診療録」が明記されている
- 居宅サービスの第76条には診療録の文言がない
- 介護保険法第101条には、設備の使用制限という施設特有の処分がある
- 施設サービス計画は、介護支援専門員が担当すると基準第14条第1項に明記
- アセスメントは入所者と家族への面接が義務(第14条第4項)
- 計画は医師の治療方針にもとづくことが求められる
- 在宅復帰・在宅療養支援等指標は算出根拠の資料が確認される
- 1項目の誤りが区分全体に影響し、返還額が大きくなる
- リハビリは、医師の指示・計画の目標・実施・評価がつながる記録が必要
- 身体的拘束等は態様・時間・心身の状況・理由の4点が必須
- 同意書があっても、3要件の検討と解除の努力の記録が必要
- 夜勤職員基準を満たさない月は、自ら減算して請求する
- 記録の保存は基準上2年だが、条例で5年の自治体があり、診療録は別途医師法の定めがある
- 感染症対策・虐待防止・業務継続計画は、委員会議事録と研修記録の有無が見られる
- 介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準(平成11年厚生省令第40号)e-Gov法令検索(第14条、第38条ほか)
- 介護保険法(平成9年法律第123号)e-Gov法令検索(第100条、第101条)
※本記事の制度に関する記述は、介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準および介護保険法にもとづいて整理したものです。運営基準は都道府県の条例で定められるため、記録の保存期間をはじめ具体的な取扱いが自治体によって異なります。診療録の保存については医療関係法令に別の定めがあります。在宅復帰・在宅療養支援等指標および各加算の要件は告示および留意事項通知で定められており、本記事では具体的な数値要件を記載していません。算定にあたっては原文をご確認ください。運営指導の実施方法や確認項目は指定権者によって異なるため、公表されている実施要綱および自己点検表をご確認ください。実務上の注意点は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理です。2026年9月時点の内容として整理しています。




