老健の経口維持加算とは|Ⅰ・Ⅱの単位数と算定要件【令和6年度】
老健(介護老人保健施設)で「経口維持加算」を算定したいけれど、(Ⅰ)と(Ⅱ)の違い、対象者の要件、6か月を超えたときの取扱い、経口移行加算との違いなど、整理すべき点が多くて手が止まっている——。摂食・嚥下に関わる加算は要件が細かく、現場でも判断に迷いやすい領域です。
この記事では、令和6年度介護報酬改定を踏まえて、老健の経口維持加算について単位数・対象者・算定要件・多職種会議・6か月超の継続・経口移行加算との違いまでを、管理者・運営者の目線で徹底的に解説します。算定の入口から記録の整え方まで、自施設で正しく取れるようにする実務ガイドです。
- 経口維持加算(Ⅰ)400単位/(Ⅱ)100単位/月の違いと算定の条件
- 対象者の要件(現に経口摂取・摂食機能障害・誤嚥/水飲みテスト等での確認)
- 多職種による食事観察・会議と経口維持計画の作成という算定の流れ
- 6か月を超えて算定を続ける場合の取扱い(医師の指示はおおむね1月ごと)
- 経口移行加算との違いと、同一月に重複算定できない点
経口維持加算とは?老健での位置づけ
経口維持加算は、摂食機能障害があり誤嚥が認められる入所者が、できるだけ口から食べ続けられるよう支援する取組を評価する加算です。医師・歯科医師の指示のもと、管理栄養士・看護師・介護職・言語聴覚士・ケアマネジャーなどの多職種が共同して食事観察(ミールラウンド)や会議を行い、経口維持計画を作成して栄養管理を実施する——この一連の取組を評価します。
「最期まで口から食べる」を支えることは、入所者のQOL(生活の質)に直結します。安易に経管栄養へ移行するのではなく、嚥下機能を評価し、食事形態や姿勢、介助方法を多職種で工夫して経口摂取を維持する。その専門的な関わりを後押しするのが、この加算の趣旨です。
ちびウルフ「経口維持」と「経口移行」って、名前がそっくりで違いが分からないの…
リハウルフざっくり言うと、“維持”は今すでに口から食べている人が食べ続けられるよう支える加算。“移行”は経管栄養(経鼻・胃ろう等)の人を口から食べられるように戻していく加算。出発点が真逆なんだ。後で違いを表で整理するね。
単位数は(Ⅰ)400単位・(Ⅱ)100単位/月|まず結論
経口維持加算には(Ⅰ)と(Ⅱ)があり、単位数は次のとおりです。いずれも「1か月につき」算定します。
| 区分 | 単位数 | 性格 |
|---|---|---|
| 経口維持加算(Ⅰ) | 400単位/月 | 多職種による食事観察・会議と経口維持計画に基づく栄養管理を評価する基本部分 |
| 経口維持加算(Ⅱ) | 100単位/月 | (Ⅰ)に上乗せ。会議に外部の歯科医師・歯科衛生士・STなどが関与する体制を評価 |
(Ⅱ)は(Ⅰ)の上乗せ加算です。(Ⅰ)を算定していることが前提で、さらに食事観察・会議に医師・歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士のいずれかが参加するなどの体制を満たすと、100単位が上乗せされます。令和6年度改定で単位数の変更はありません。
対象者の要件|「現に経口摂取・摂食機能障害・誤嚥」
経口維持加算は、誰にでも算定できるわけではありません。対象者は次の条件を満たす入所者です。
- 現に経口により食事を摂取していること(=今、口から食べている人)
- 摂食機能障害を有し、誤嚥が認められること
- その確認が、水飲みテスト・反復唾液嚥下テスト・頸部聴診法・嚥下造影・嚥下内視鏡等の検査によって行われていること
つまり「なんとなく食べにくそう」では足りず、客観的な検査・評価で摂食機能障害と誤嚥が確認されていることが必要です。代表的なスクリーニングには改訂水飲みテスト(MWST)、反復唾液嚥下テスト(RSST)、フードテスト、頸部聴診法などがあり、必要に応じて嚥下造影検査(VF)・嚥下内視鏡検査(VE)も用いられます。
算定の流れ|多職種会議と経口維持計画
経口維持加算(Ⅰ)は、次の流れで算定します。
- 対象者要件(経口摂取・摂食機能障害・誤嚥)を検査・評価で確認する
- 医師または歯科医師の指示のもと、多職種が共同で食事の観察(ミールラウンド)と会議を行う
- 入所者ごとに経口維持計画を作成する
- 医師または歯科医師の指示に基づき、経口維持計画に従って管理栄養士・栄養士等が栄養管理を実施する
- 取組内容・経過を記録し、定期的に計画を見直す
会議や食事観察には、医師・歯科医師・管理栄養士・看護師・介護職・言語聴覚士・ケアマネジャーなど、入所者に関わる多職種が共同で参加することが想定されています。「食べる」を支えるチームで関わることが、この加算の本質です。
経口維持加算(Ⅱ)100単位の上乗せ要件
(Ⅱ)は(Ⅰ)を算定したうえで、食事観察・会議に医師・歯科医師・歯科衛生士・言語聴覚士のいずれか1名以上が参加するなど、より専門的な関与体制を満たす場合に上乗せ算定します。協力歯科医療機関等との連携体制が要件として関わるため、自施設の連携状況を確認しておきましょう。
6か月を超えて算定する場合の取扱い
経口維持加算には「6か月」というキーワードが登場します。これは6か月を超えると一律に算定できなくなる、という意味ではありません。
原則的な算定期間を超えた場合でも、摂食機能障害を有し誤嚥が認められる入所者であって、医師または歯科医師の指示に基づき、継続して誤嚥防止のための特別な管理が必要とされる場合は、引き続き算定できます。ただしこの場合、医師または歯科医師の指示は、おおむね1月ごとに受けることが求められます。
経口維持加算と経口移行加算の違い
混同されやすい2つの加算を整理します。
| 項目 | 経口維持加算 | 経口移行加算 |
|---|---|---|
| 対象 | 現に経口摂取していて、摂食機能障害・誤嚥がある人 | 経管栄養(経鼻・胃ろう等)の人 |
| 目的 | 口から食べ続けられるよう「維持」を支援 | 経管から経口摂取へ「移行」を支援 |
| 方向性 | 誤嚥防止・経口摂取の継続 | 経口摂取の再獲得 |
ちびウルフじゃあ、胃ろうの人が少しずつ口から食べる練習を始めたら、どっちの加算になるの?
リハウルフ経管栄養から経口へ戻していく段階なら“経口移行加算”の考え方だね。完全に経口摂取に戻って、その後に摂食機能障害・誤嚥への対応が必要になったら“経口維持加算”の対象になりうる。同じ月に両方は取れないから、その月の主たる取組で判断するんだ。
嚥下評価のスクリーニング検査|代表的な方法
対象者要件である「摂食機能障害・誤嚥の確認」に用いられる代表的な評価法を整理します。いずれも嚥下機能を客観的に評価するためのもので、施設の体制や入所者の状態に応じて使い分けられます。
| 検査・評価 | 概要 |
|---|---|
| 反復唾液嚥下テスト(RSST) | 30秒間に空嚥下(唾液の飲み込み)が何回できるかを数える簡便なスクリーニング |
| 改訂水飲みテスト(MWST) | 少量の水を飲み込み、むせ・声の変化・呼吸状態などから誤嚥の有無を評価 |
| フードテスト | 少量の食物(ゼリー等)を用いて、咀嚼・送り込み・嚥下の様子を評価 |
| 頸部聴診法 | 嚥下時の音を聴診し、咽頭残留や誤嚥を推定する |
| 嚥下造影検査(VF)/嚥下内視鏡検査(VE) | 画像で嚥下の様子を詳細に評価する精密検査(必要に応じ実施) |
現場ではまずRSSTやMWSTといった簡便な方法でスクリーニングを行い、リスクが高い場合にVF・VEなどの精密検査につなげるのが一般的な流れです。どの方法で、いつ、誰が、どのような結果だったかを記録に残すことが、対象者要件の根拠になります。
ちびウルフ必ずVFやVEみたいな精密検査をしないとダメなの?うちには機器がないんだけど…
リハウルフ必ずしも精密検査が必須というわけではなく、水飲みテストなどの方法で誤嚥が確認できればよいんだ。大事なのは“客観的な評価で誤嚥が認められている”という事実と、その記録。必要に応じて協力医療機関と連携して精密検査につなぐ体制があると安心だよ。
経口維持計画に盛り込む内容
算定の中心となるのが経口維持計画です。入所者ごとに作成し、多職種で共有・実施・見直しを行います。盛り込む主な内容は次のとおりです。
| 項目 | 記載のポイント |
|---|---|
| 摂食・嚥下の状態 | 評価結果、誤嚥のリスク、現在の食事形態 |
| 目標 | 安全に経口摂取を継続するための具体的目標 |
| 食事内容・形態 | とろみの程度、刻み・ソフト食など食形態の調整 |
| 姿勢・介助方法 | 食事時の姿勢、一口量、介助のポイント |
| 多職種の役割 | 誰が何を担うか、観察・報告のルート |
| 見直しの予定 | モニタリングと計画の見直し時期 |
計画は「作って終わり」ではなく、ミールラウンドや会議で得た情報をもとに継続的に見直すことが前提です。状態の変化に応じて食形態や介助方法をアップデートし、その経過を記録に残していきます。
ミールラウンドと多職種会議の実務
経口維持加算では、多職種による食事の観察(ミールラウンド)と会議が要となります。ミールラウンドでは、実際の食事場面で次のような点を観察します。
- 姿勢・覚醒状態は適切か、安全に食べられる環境か
- 一口量・ペース、口からのこぼれ、口腔内への溜め込みはないか
- むせ・湿性嗄声(食後の声の変化)・呼吸の乱れなど誤嚥のサインはないか
- 食事形態・とろみが本人の機能に合っているか
- 摂取量・水分量は十分か
観察結果は会議で多職種が共有し、食形態の変更や介助方法の見直しなど、具体的な対応につなげます。観察 → 共有 → 対応 → 記録のサイクルを回すことが、加算の実態を伴わせるうえで欠かせません。
口腔衛生管理加算との関係
摂食・嚥下を支えるうえで、口腔のケアは切り離せません。老健では口腔衛生管理加算など、口腔ケアを評価する加算も設定されています。経口維持加算(摂食・嚥下の維持)と口腔衛生管理(口腔内の清潔・機能の維持)は、目的が異なるため、要件を満たせば併せて取り組むことで入所者の「食べる力」を多面的に支えることができます。
口腔内が不潔だと誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、経口維持の取組と口腔ケアはセットで考えるのが現場の実際です。歯科医師・歯科衛生士との連携体制は、経口維持加算(Ⅱ)の上乗せ要件とも関わってくるため、協力歯科医療機関との連携を施設として整えておくことが、加算面でも質の面でも有利に働きます。各加算の併算定可否や要件の詳細は、最新の通知・Q&Aで確認してください。
管理者・運営者が押さえる実務ポイント
| 確認点 | 備えておくこと |
|---|---|
| 対象者要件の根拠 | 水飲みテスト等の検査・評価記録(誤嚥の確認) |
| 医師・歯科医師の指示 | 指示の記録。6か月超はおおむね1月ごとの指示 |
| 多職種会議・食事観察 | 参加者・日付・観察内容・検討事項の記録 |
| 経口維持計画 | 入所者ごとの計画作成・見直し履歴 |
| (Ⅱ)の上乗せ体制 | 歯科医師・歯科衛生士・ST等の参加・連携の記録 |
| 経口移行加算との整理 | 同一月の重複算定がないことの確認 |
よくある質問(FAQ)
経口維持加算(Ⅰ)と(Ⅱ)は両方算定できますか?
対象者は「食べにくそう」というだけで算定できますか?
6か月を超えたら算定は終了ですか?
経口維持加算と経口移行加算は同じ月に取れますか?
令和6年度改定で単位数は変わりましたか?
経口維持加算がもたらす効果と老健の役割
経口維持加算の取組は、単なる収入の上乗せにとどまりません。摂食・嚥下機能を多職種で支えることは、入所者の生活の質と健康に直接的な効果をもたらします。
| 効果の側面 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 誤嚥性肺炎の予防 | 嚥下機能に合った食形態・姿勢・介助で誤嚥リスクを下げる |
| 低栄養・脱水の予防 | 安全に食べられる工夫で摂取量を確保し、栄養状態を維持 |
| QOLの維持・向上 | 「口から食べる楽しみ」を支え、生活の張りや意欲につながる |
| 在宅復帰支援 | 食べる力の維持は、在宅生活への移行・継続の土台になる |
老健は、在宅復帰・在宅療養支援を担う中間施設として、リハビリ・口腔・栄養を一体的に提供する役割が期待されています。食べる力を維持することは、体力・栄養状態の改善を通じて在宅復帰の可能性を広げる、老健ならではの取組です。経口維持加算は、その専門的な関わりを評価する加算であり、施設の機能と方針に合致した形で位置づけることで、経営面と質の両面に資する取組になります。
ちびウルフ加算を取ることが、結局は利用者さんのためにもなるんだね。
リハウルフそうだね。加算はあくまで“良いケアを後押しする仕組み”なんだ。要件を満たすことを目的化せず、「どうすれば安全に、おいしく食べ続けてもらえるか」をチームで考える——その積み重ねが、結果として正しい算定にもつながるんだよ。
算定できないケース・注意したい場面
経口維持加算は対象者要件が明確なため、要件を満たさないのに算定してしまう過誤に注意が必要です。算定できない・注意したい代表的な場面を整理します。
| 場面 | 取扱い |
|---|---|
| 経管栄養(経鼻・胃ろう等)が中心で経口摂取していない | 「現に経口摂取」の要件を満たさず対象外(移行段階なら経口移行加算の検討) |
| 誤嚥の確認(検査・評価)の記録がない | 対象者要件の根拠を示せず算定不可のおそれ |
| 同一月に経口移行加算を算定 | 経口維持加算(Ⅰ)と重複算定はできない |
| 6か月超で医師・歯科医師の指示が途切れている | 継続算定の根拠が不足(おおむね1月ごとの指示が必要) |
とくに多いのが「誤嚥の確認記録の不足」です。現場の感覚として「むせている」だけでなく、どの検査・評価で誤嚥を確認したのかを記録に残すことが、対象者要件を満たす根拠になります。
退所・入院時の取扱いと算定管理
経口維持加算は月単位の加算のため、月の途中で退所・入院・外泊があった場合の取扱いに注意が必要です。対象者ごとに、その月に要件(医師等の指示・多職種の取組・計画に基づく実施)を満たしているかを確認して算定します。入院などで取組が行われていない月は、要件充足を慎重に確認しましょう。
また、6か月の起算や継続算定の管理は、入退所が頻繁な老健では煩雑になりがちです。対象者ごとに「算定開始月・6か月の節目・直近の医師指示日」を一覧管理し、継続算定の根拠(おおむね1月ごとの指示)が途切れないように運用しましょう。介護ソフトの加算管理機能や管理表を活用すると、抜け漏れを防げます。
家族・本人への説明と意思決定支援
経口維持の取組は、「最期まで口から食べたい」という本人・家族の願いに向き合うものでもあります。誤嚥のリスクがある中で経口摂取を続けるかどうかは、医療・ケアの判断であると同時に、本人の価値観に関わる重要なテーマです。
多職種で食事観察・会議を行い、リスクと工夫を共有したうえで、本人・家族にも分かりやすく説明し、意向を確認しながら方針を決めていくことが、ケアの質を高めます。加算の算定は、こうした丁寧な意思決定支援とセットで行われてこそ意味を持ちます。数字としての加算だけでなく、「食べる喜びを支える」という本来の目的を、チームで共有しておきたいところです。
制度改定と様式は必ず最新を確認
経口維持加算(Ⅰ)400単位・(Ⅱ)100単位の単位数は令和6年度改定で変更がありませんが、経口維持計画の様式や運用、(Ⅱ)の連携要件、関連加算との併算定の取扱いは更新されることがあります。とりわけ対象者要件(誤嚥の確認)や6か月超の継続算定(おおむね1月ごとの医師・歯科医師の指示)は、記録の有無が算定可否を左右します。算定の最終判断は、必ず厚生労働省の最新通知・Q&Aと、事業所所在地の保険者(市町村)の手引きを確認してください。判断に迷う場面では保険者へ事前照会しておくと、過誤・返還を防げます。一次情報に基づく運用を徹底し、対象者ごとの根拠を記録で残すことが、加算の安定算定と実地指導対策の両面で重要です。
摂食・嚥下への多職種の関わりは、入所者が安全に、できるだけ長く口から食べることを支える、老健の中核的な取組のひとつです。加算の要件を満たすことを目的化するのではなく、「食べる喜びを支える」というケアの本質に立ち返りながら、結果として正しい算定につなげていく姿勢が、施設運営の信頼を高めます。日々のケアの積み重ねと正確な記録こそが、最も確実な算定根拠であり、入所者・家族からの信頼の源になります。
- 経口維持加算は(Ⅰ)400単位/(Ⅱ)100単位(月)。(Ⅱ)は(Ⅰ)への上乗せ。令和6年度改定で単位数の変更なし。
- 対象は「現に経口摂取・摂食機能障害・誤嚥あり」で、水飲みテスト等の検査・評価で確認することが必要。
- 医師・歯科医師の指示のもと、多職種で食事観察・会議を行い、経口維持計画を作成・実施する。
- 6か月超も、誤嚥への特別な管理が必要なら継続可。ただし医師・歯科医師の指示はおおむね1月ごと。
- 経口移行加算(経管→経口)とは目的が逆で、同一月に重複算定はできない。
※本記事は令和6年度介護報酬改定および厚生労働省・関連研究班等の資料をもとに作成しています。対象者要件・6か月超の取扱い・(Ⅱ)の連携要件など最終的な算定判断は、必ず事業所所在地の保険者(市町村)および厚生労働省の最新通知・Q&Aをご確認ください。