訪問看護の高齢者虐待防止措置未実施減算と業務継続計画未策定減算とは?

訪問看護には、体制の未整備を理由とする減算が2つあります。高齢者虐待防止措置未実施減算と業務継続計画未策定減算で、いずれも所定単位数の100分の1です。
率は小さいのですが、対象は「利用者全員」で、期間は改善が認められるまで続きます。しかも2つとも、事故や災害が起きたかどうかではなく、委員会・指針・研修・担当者、あるいは計画・研修・訓練という「体制」が欠けていることが減算の理由です。この記事では、指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年厚生省告示第19号)訪問看護費の注3・注4、厚生労働大臣が定める基準(平成27年厚生労働省告示第95号)第6号の2・第6号の3、老企第36号 第2の2(10)・(11)の原文を確認して整理しました。
- 2つの減算はいずれも所定単位数の1%であること
- 虐待が発生したことが減算の理由ではないこと
- 高齢者虐待防止で求められる4つの措置
- 改善計画の提出と3月後の報告という手続き
- 減算が始まる月と終わる月の違い(2つで異なる)
- 業務継続計画未策定減算は令和7年4月から実際に適用されていること
- 対象は利用者全員であること
- 要支援(介護予防訪問看護)も同じ扱いであること
ちびウルフ1%なら、たいした金額じゃないですよね?
リハウルフ金額より期間と範囲です。利用者全員が対象で、改善が認められる月まで続きます。月100万単位の事業所なら月1万単位、半年続けば6万単位。それに、実地指導で減算を指摘されたという事実そのものが、ケアマネジャーからの紹介に影響します。金額の問題として捉えないほうがいいと思います。
訪問看護の2つの減算とは?
2つの減算は、運営基準で義務づけられた体制整備を行っていない場合に、報酬を減じる仕組みです。告示19号 訪問看護費の注3・注4に規定されています。
介護保険の運営基準は、これまで「守るべきもの」として定められていても、守らないことへの報酬上の不利益がありませんでした。令和3年度改定で虐待防止と業務継続計画が全サービスの義務となり、令和6年度改定でその未実施に減算が付きました。
訪問看護は1人で居宅に入るサービスです。密室性が高く、外からの目が届きにくい。また、災害や感染症で訪問が止まれば、医療依存度の高い利用者の生命に直結します。2つの体制整備が求められる背景は、この特性と無関係ではありません。
令和6年度介護報酬改定で新設されました。
2つの減算の単位数
3 別に厚生労働大臣が定める基準を満たさない場合は、高齢者虐待防止措置未実施減算として、所定単位数の100分の1に相当する単位数を所定単位数から減算する。
4 別に厚生労働大臣が定める基準を満たさない場合は、業務継続計画未策定減算として、所定単位数の100分の1に相当する単位数を所定単位数から減算する。
| 減算 | 減算率 | 対象 | 要支援 |
|---|---|---|---|
| 高齢者虐待防止措置未実施減算 | 所定単位数×1/100 | 利用者全員 | ○ |
| 業務継続計画未策定減算 | 所定単位数×1/100 | 利用者全員 | ○ |
両方に該当したらどうなるか
注3と注4は別々の規定です。両方の基準を満たさない場合は、両方が適用されます。合わせて2%です。
| 月の総単位数 | 1つ該当(1%) | 2つ該当(2%) |
|---|---|---|
| 500,000単位 | −5,000単位 | −10,000単位 |
| 1,000,000単位 | −10,000単位 | −20,000単位 |
高齢者虐待防止措置未実施減算の算定要件
基準は「第37条の2の措置を講じていること」
六の二 訪問看護費における高齢者虐待防止措置未実施減算の基準
指定居宅サービス等基準第74条において準用する指定居宅サービス等基準第37条の2に規定する基準に適合していること。
求められる4つの措置
| 措置 | 内容 |
|---|---|
| ①委員会 | 高齢者虐待の防止のための対策を検討する委員会を定期的に開催し、その結果について従業者に周知徹底を図ること |
| ②指針 | 高齢者虐待の防止のための指針を整備すること |
| ③研修 | 従業者に対し、高齢者虐待の防止のための研修を定期的に実施すること |
| ④担当者 | ①〜③を適切に実施するための担当者を置くこと |
老企第36号は、研修について「年1回以上」と明示しています。委員会の「定期的」については、通知に具体的な回数の記載がありません。
老企第36号 第2の2(10)は、冒頭で明確に述べています。
「事業所において高齢者虐待が発生した場合ではなく、(略)第37条の2に規定する措置を講じていない場合に、利用者全員について所定単位数から減算することとなる」
虐待ゼロでも、委員会を開いていなければ減算です。逆に、体制が整っていれば、それだけで減算されることはありません。
減算の期間と手続き
| 手順 | 内容 |
|---|---|
| ①事実の発生 | 委員会未開催・指針未整備・年1回以上の研修未実施・担当者未設置のいずれかの事実が生じる |
| ②改善計画の提出 | 速やかに改善計画を都道府県知事に提出 |
| ③改善状況の報告 | 事実が生じた月から3月後に、改善計画に基づく改善状況を都道府県知事に報告 |
| ④減算期間 | 事実が生じた月の翌月から、改善が認められた月まで、利用者全員について減算 |
減算が止まるのは「改善した月」ではなく「改善が認められた月」です。報告と確認のプロセスを経る必要があります。
業務継続計画未策定減算の算定要件
基準は「第30条の2第1項の基準に適合すること」
六の三 訪問看護費における業務継続計画未策定減算の基準
指定居宅サービス等基準第74条において準用する指定居宅サービス等基準第30条の2第1項に規定する基準に適合していること。
第30条の2第1項は、感染症や非常災害の発生時においても利用者に対するサービス提供を継続的に実施するため、および非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画(業務継続計画)を策定し、当該計画に従い必要な措置を講じることを求めています。
| 計画の種類 | 想定する事態 |
|---|---|
| 感染症に係る業務継続計画 | 新型インフルエンザ等の感染症のまん延 |
| 災害に係る業務継続計画 | 地震・水害等の非常災害 |
あわせて、従業者への周知、研修および訓練(シミュレーション)の定期的な実施、計画の定期的な見直しが同条の第2項以下で求められています。
減算の期間
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開始 | 基準を満たさない事実が生じた月の翌月(事実が生じた日が月の初日である場合は当該月) |
| 終了 | 基準を満たさない状況が解消されるに至った月まで |
| 対象 | 当該事業所の利用者全員 |
高齢者虐待防止措置未実施減算は「改善計画の提出+3月後の改善状況の報告」が必要ですが、業務継続計画未策定減算にはこの手続きがありません。業務継続計画は策定すれば解消されるため、減算も「解消されるに至った月」で終わります。1日でも月の初日に事実が生じれば、その月から減算が始まる点も虐待防止側と異なります。
経過措置は令和7年3月31日で終了
老企第36号は「経過措置として、令和7年3月31日までの間、当該減算は適用しないが、義務となっていることを踏まえ、速やかに作成すること」としていました。令和7年4月1日以降は、実際に減算が適用されています。
2つの減算の注意点
「作った」だけでは足りない
業務継続計画は、策定して終わりではありません。運営基準は周知・研修・訓練・定期的な見直しまで求めています。訪問看護は訪問先が分散しているため、訓練の設計が難しいサービスです。安否確認の連絡手順、優先的に訪問する利用者の順位づけ、記録の持ち出しの可否。この3つだけでも机上訓練として整理しておく価値があります。
虐待防止委員会は他の委員会と一体的に開催できる
運営基準の解釈通知では、虐待の防止のための対策を検討する委員会について、他の会議体と一体的に設置・運営して差し支えないとされています。訪問看護ステーションのように従業者数が限られる事業所では、既存のカンファレンスと合わせて開催し、その議事として記録に残すのが現実的です。
記録がなければ「していない」と扱われる
- 虐待防止委員会の開催記録(日時・出席者・議題・周知の方法)
- 高齢者虐待防止のための指針(作成日・改定履歴)
- 年1回以上の虐待防止研修の実施記録(資料・出席者・欠席者への対応)
- 虐待防止措置の担当者を定めた記録
- 感染症と災害の業務継続計画(両方あるか)
- 業務継続計画の周知記録
- 業務継続計画に係る研修・訓練の実施記録
- 業務継続計画の見直しの記録
担当したケースでも、「やってはいるが記録が残っていない」という事業所が少なくありません。とくに研修は、ミーティングの中で話しただけで記録がないと、実施の証明ができません。出席者名簿と資料をセットで残しておくのが確実です。
要支援も同じ
介護予防訪問看護費の注2・注3に、同じ内容の規定があります。率も1%で変わりません。
よくある質問
訪問看護の2つの減算は何%ですか?
高齢者虐待防止措置未実施減算・業務継続計画未策定減算とも、所定単位数の100分の1(1%)です。
両方に該当したら2%ですか?
注3と注4は別々の規定であり、両方の基準を満たさない場合は両方が適用されます。
虐待が起きたら減算されますか?
虐待の発生が減算の理由ではありません。委員会・指針・研修・担当者という措置を講じていない場合に減算されます。
虐待防止で求められる措置は何ですか?
対策を検討する委員会の定期開催と結果の周知徹底、指針の整備、年1回以上の研修の実施、担当者の設置の4つです。
減算の対象は誰ですか?
当該事業所の利用者全員です。
虐待防止措置未実施減算はいつからいつまでですか?
事実が生じた月の翌月から、改善が認められた月までです。速やかに改善計画を提出し、3月後に改善状況を報告します。
業務継続計画未策定減算はいつからですか?
基準を満たさない事実が生じた月の翌月からです。ただし事実が生じた日が月の初日である場合は当該月からです。
業務継続計画未策定減算にも改善計画の提出は必要ですか?
老企第36号には改善計画・報告の手続きの記載がありません。基準を満たさない状況が解消されるに至った月まで減算されます。
業務継続計画の経過措置はどうなりましたか?
令和7年3月31日で終了しました。令和7年4月1日以降は減算が適用されています。
業務継続計画は感染症と災害の両方が必要ですか?
両方が求められています。策定に加えて周知・研修・訓練・定期的な見直しも必要です。
虐待防止委員会は単独で開かないといけませんか?
運営基準の解釈通知では、他の会議体と一体的に設置・運営して差し支えないとされています。議事として記録に残してください。
要支援の方も減算されますか?
されます。介護予防訪問看護費の注2・注3に同内容の規定があります。
- 訪問看護の2つの減算はいずれも所定単位数の1%
- 両方に該当すれば両方が適用され、合計2%になる
- 対象は利用者全員
- 虐待の発生が減算の理由ではなく、体制の未整備が理由
- 虐待防止で求められるのは委員会・指針・研修・担当者の4つ
- 研修は年1回以上と通知に明記されている
- 虐待防止側は改善計画の提出と3月後の改善状況の報告が必要
- 減算が止まるのは「改善が認められた月」
- 業務継続計画未策定減算には改善計画・報告の手続きがない
- 事実が月の初日に生じた場合は、その月から減算が始まる
- 業務継続計画は感染症と災害の両方が必要
- 策定だけでなく周知・研修・訓練・定期的な見直しまで求められる
- 業務継続計画の経過措置は令和7年3月31日で終了
- 虐待防止委員会は他の会議体と一体的に開催してよい
- 記録が残っていなければ実施の証明ができない
- 介護予防訪問看護も同じ1%
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成12年2月10日厚生省告示第19号)別表「訪問看護費」注3・注4(厚生労働省法令等データベース)
- 厚生労働大臣が定める基準(平成27年3月23日厚生労働省告示第95号)第6号の2・第6号の3(厚生労働省法令等データベース)
- 指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第30条の2、第37条の2、第74条(厚生労働省法令等データベース)
- 指定居宅サービスに要する費用の額の算定に関する基準(訪問通所サービス、居宅療養管理指導及び福祉用具貸与に係る部分)等の制定に伴う実施上の留意事項について(老企第36号)第2の2(10)・(11)、第2の4(9)・(10)(全国老人保健施設協会 法令データベース)
- 指定介護予防サービスに要する費用の額の算定に関する基準(平成18年厚生労働省告示第127号)別表「介護予防訪問看護費」注2・注3(全国老人保健施設協会 法令データベース)
※本記事の減算率・要件は、厚生労働省の告示および通知にもとづいて整理したものです。実際の取扱いにあたっては原文および指定権者(都道府県・指定都市・中核市)の解釈をご確認ください。とくに委員会の「定期的」の具体的な頻度、改善が認められる時期の判断、両方の減算が重なる場合の計算方法については、指定権者の取扱いによります。制度に関する記述は2026年8月時点の内容として整理していますが、その後の改定により取扱いが変わる可能性があります。実務に関する記述は、筆者(理学療法士・介護支援専門員)の実務経験にもとづく整理であり、制度上の定めではありません。


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