「体調が悪そうなのに、どれだけ言っても病院に行ってくれない」「受診をすすめるたびにケンカになってしまう」——高齢のご家族の介護をしていると、こうした受診拒否に頭を悩ませる方はとても多いものです。心配しているからこそ強く言ってしまい、かえって本人が頑なになってしまう、という悪循環に陥りがちです。

実は、高齢者が病院に行きたがらないのには「わがまま」では片づけられない、本人なりの理由が隠れていることがほとんどです。この記事では、訪問看護・訪問リハビリの現場で多くのご家庭を支援してきた視点から、受診を嫌がる背景にある心理と、家族が今日から実践できる具体的な対応方法をわかりやすく解説します。

この記事でわかること
  • 高齢者が病院に行きたがらない代表的な5つの理由
  • 認知症が背景にあるときに起こりやすいこと
  • 家族がついやってしまうNG対応と、その理由
  • 受診につなげるための具体的な声かけ・段取り
  • ケアマネ・訪問診療・地域包括支援センターなど第三者の上手な使い方

高齢者が病院に行きたがらない主な理由

まず大切なのは、「行きたがらない」の裏にある本人の気持ちを知ることです。理由が分かれば、対応のしかたも自然と見えてきます。よくある理由は次の5つです。

理由本人の心の中
①病気を知るのが怖い「悪い結果が出たらどうしよう」という不安。検査や告知への恐怖。
②受診そのものが負担移動・待ち時間・人混みがしんどい。体力的・精神的に消耗する。
③お金の心配「医療費が高くつく」「家族に迷惑をかけたくない」という遠慮。
④自分は大丈夫という思い「これくらい大したことない」「年のせいだ」と過小評価する。
⑤過去の嫌な記憶痛い検査・きつい言葉・長い入院など、病院への悪い印象。

とくに高齢の方は、「病院=悪い知らせを聞く場所」というイメージを持っていることが少なくありません。本人にとっては、行かないことが「不安から自分を守る手段」になっているのです。

ちびウルフちびウルフ

でも、心配だから行ってほしいのに…どうして分かってくれないの?

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本人は「分からない」のではなく、「怖い」「面倒」という気持ちが勝っているだけなんだ。まずはその気持ちを否定せず、受け止めるところから始めるといいよ。

認知症が背景にあるケースで起こりやすいこと

受診拒否の背景に認知症が隠れていることもあります。認知症があると、本人なりの理由がさらに複雑になり、家族から見ると「説明しても通じない」と感じやすくなります。

本人が「困っている自覚」を持ちにくい

認知症の方は、もの忘れや体調の変化を自覚しにくくなることがあります(病識の低下)。本人としては困っていないのに病院へ連れて行かれるため、「なぜ連れて行かれるのか分からない」「無理やり連れて行かれた」と感じ、強く抵抗してしまうことがあります。

不安や混乱から拒否につながる

慣れない場所や大勢の人がいる空間は、認知症の方にとって強いストレスになります。何をされるのか分からない不安が、怒りや拒否といった行動(BPSD=行動・心理症状)として表れることがあります。

ポイント認知症が疑われる場合、無理に説得するより「安心できる環境」を整えるほうが受診につながりやすくなります。本人が信頼している人に同行してもらう、いつものかかりつけ医に相談する、といった工夫が効果的です。

家族がやりがちなNG対応

良かれと思ってかけた言葉が、かえって本人を頑なにさせてしまうことがあります。次のような対応には注意しましょう。

  • 正論で説き伏せる:「行かなきゃ手遅れになる」と正しさで押すと、本人は責められたと感じて反発します。
  • 感情的に叱る・怒る:心配が高じて声を荒げると、病院に「嫌な記憶」がさらに上書きされてしまいます。
  • 本人を置いて話を進める:本人の頭ごなしに家族だけで予約・段取りを決めると、「勝手に決められた」と不信感につながります。
  • 嘘でごまかし続ける:一度だまして連れて行くと、次から警戒され、信頼関係が崩れてしまいます。

「説得」より「納得」を目指すのが基本です。本人が自分で「行ってみようかな」と思えるよう、外堀を埋めていくイメージを持ちましょう。

家族ができる具体的な対応方法

ここからは、現場でも実際に効果のある具体的な進め方を紹介します。順番に試してみてください。

  1. まず気持ちを聴く:「行きたくない理由があるんだよね?」と、責めずに本人の言い分を聴く。否定せず最後まで聞くことで警戒がゆるみます。
  2. 受診のハードルを下げる:「ついでに」「近くの病院だけ」「先生に一言だけ」など、負担が小さく感じる言い方にする。
  3. 本人が安心できる人と行く:本人が信頼している家族・親戚・友人に同行を頼む。誰と行くかで結果が変わります。
  4. かかりつけ医を入口にする:いきなり大病院ではなく、慣れた近所のかかりつけ医に相談する形にすると抵抗が減ります。
  5. 受診後のご褒美を用意する:「帰りに好きなものを食べよう」など、楽しみとセットにすると前向きになりやすい。
注意明らかに様子がおかしい(急な意識の低下、強い胸の痛み、ろれつが回らない、手足が動かない、激しい頭痛など)ときは、説得している場合ではありません。ためらわず救急(119番)に相談してください。
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声かけを工夫しても、それでも頑として動かないときはどうすればいいの?

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そんなときこそ、家族だけで抱え込まないこと。次に紹介する「第三者の力」を借りるのが近道だよ。

受診につなげる工夫と第三者の活用

家族の言うことは聞かなくても、専門職の言葉なら素直に受け入れるというのは、介護の現場ではよくあることです。身内だからこそ甘えや反発が出やすいのです。次のような窓口を上手に使いましょう。

相談先できること
かかりつけ医本人が慣れた医師から受診や検査をすすめてもらう。紹介状で専門医につなぐことも。
地域包括支援センター高齢者の総合相談窓口。受診や介護サービス全般の相談に無料で乗ってくれる。
ケアマネジャーすでに介護保険を使っている場合の調整役。受診同行サービスの手配なども相談可能。
訪問診療(往診)通院が難しい場合、医師が自宅に来てくれる。外出のハードルそのものをなくせる。
訪問看護自宅で健康チェック・服薬管理・受診の必要性の見極めをしてくれる。家族の相談相手にも。
ポイント「どうしても外出できない」「外出を極端に嫌がる」場合は、訪問診療・訪問看護という選択肢があります。病院に行けないからと諦めず、まずは地域包括支援センターやかかりつけ医に「家に来てもらう方法はないか」を相談してみましょう。

それでも受診を拒むときの考え方

あらゆる手を尽くしても本人が受診を拒むことはあります。そのとき大切なのは、家族が自分を責めないことです。最終的に医療を受けるかどうかを決めるのは本人の権利でもあります。

緊急性が低い場合は、一度引いて時間をおき、タイミングを変えて再び声をかけるのも立派な対応です。焦って関係をこじらせるより、「いつでも頼っていい」という安心感を残しておくほうが、結果的に受診につながりやすくなります。一方で、命に関わる兆候があるときは本人の意思より安全を優先し、迷わず救急や専門職に相談してください。

専門職が家族に伝えたい受診サポートの視点

訪問看護師やケアマネジャー、リハビリ職(PT・OT・ST)が、受診を渋る高齢者のご家族によく伝えるポイントをまとめます。家族だけで頑張りすぎないためのヒントです。

「困りごとの記録」を残しておく

いつ・どんな症状が・どれくらい続いているかをメモしておくと、いざ受診できたときに医師へ正確に伝えられます。本人がうまく説明できなくても、家族の記録が診断の大きな助けになります。

本人の「できること」を奪わない

受診を急ぐあまり何でも家族が決めてしまうと、本人の自尊心が傷つき、かえって拒否が強まります。「予約はこちらでするね、行くかどうかは一緒に決めよう」など、本人に選択の余地を残す声かけが信頼につながります。

ポイント介護は長期戦です。「今日受診させること」より「これからも相談してもらえる関係を保つこと」を優先したほうが、結果的に医療につながりやすくなります。

よくある質問

説得しても病院に行きません。だましてでも連れて行くべき?
一度だまして連れて行くと、次から強く警戒され信頼関係が崩れます。基本はおすすめしません。ただし命に関わる緊急時は安全が最優先です。緊急性がなければ、かかりつけ医や訪問診療など本人が安心できる方法を探しましょう。
本人が「お金がかかるから」と受診を嫌がります。
医療費の不安は高齢者に多い理由です。高額療養費制度や、自治体の医療費助成など負担を抑える仕組みがあります。具体的な金額や対象は加入している保険や自治体で異なるため、市区町村の窓口や地域包括支援センターで確認すると安心です。
認知症で「自分は病気じゃない」と言い張ります。
病識の低下はよくある症状で、本人を論理で説得するのは難しいことが多いです。本人が信頼する人に同行してもらう、慣れたかかりつけ医に相談する、訪問診療を使うなど、安心できる形を整えるほうが受診につながりやすくなります。
家族の言うことだけ聞いてくれません。
身内には甘えや反発が出やすく、これは決して珍しいことではありません。ケアマネジャー・訪問看護師・かかりつけ医など第三者の専門職から伝えてもらうと、すんなり受け入れることがよくあります。遠慮せず周囲を頼りましょう。
まとめ
  • 高齢者が病院に行きたがらない背景には、不安・負担・お金の心配・過小評価・嫌な記憶など本人なりの理由がある。
  • 認知症があると病識が低下し、無理な説得は逆効果になりやすい。安心できる環境づくりを優先する。
  • 正論で押す・感情的に叱る・嘘でごまかすはNG。「説得」より「納得」を目指す。
  • 気持ちを聴く→ハードルを下げる→安心できる人と行く→かかりつけ医を入口にする、の順で進める。
  • 家族だけで抱え込まず、かかりつけ医・地域包括支援センター・ケアマネ・訪問診療・訪問看護を活用する。
  • 命に関わる兆候があるときは、説得より安全を優先し迷わず救急へ相談する。
ABOUT ME
リハウルフ
理学療法士/「リハコネ式!訪問リハのためのルールブック」監著・編集/「訪問リハビリマガジン」編集長/他に3メディアの編集長/ YouTube「リハウルフ」運営/セミナー経験多数/厚生労働省のホームページを見ることが趣味
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